悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第一部

60.だから私は、

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―――いやだ、いやだ、いやだ、いやだ。

 花蓮の声が、私に迫るのを感じた。

『お姉ちゃん』
『聞いてるの? お姉ちゃん』
『返事してよ、無知で無力なお姉ちゃん』
『いい加減自分の立場を考えてよね』
『お姉ちゃんがいなくなれば、この家族は普通の幸せな家族になれるの。ねぇ、私の言いたいことわかるよね?』

 だんだんと大きくなっていく花蓮と、
 だんだんと身体が弱っていく由良わたし

 両親からの愛を一身に受ける花蓮と、
 両親からの愛が遠ざかっていった由良わたし

 周りから笑顔を向けられる花蓮と、
 周りから拒絶される由良わたし

―――嗚呼《ああ》。

 認めざるをえない。

―――私は、誰からも必要とされていない。



「……ろ、起きろ」

 暗い闇から、引き出された気がした。
 徐々に明瞭になる視界。
 心配そうに見つめるルア。

―――わたし……そうだ、全属性の、カレンのことを調べにきて……。
「る、あ……?」
「そうだ、俺だ。わかるか?」
「……ええ」

 ルアに手伝ってもらい、私は起きた。
 知らない場所だ。
 ベッドが簡素で硬い。
 となると……

「全属性の……カレンの村?」
「ああ。少し泊めてもらった。まさか、あんたが倒れるとは思ってもいなかった」
「ごめんね、ルア」
「謝る必要はない。……教えてくれ。あいつは殺すべきなのか?」

 それが誰を指しているのかはわかった。

「だめ。殺しちゃだめ」
「……わかった」

 まだカレンの情報を掴んでいない。

―――怖がるな。恐れるな。

 あの子と……花蓮と同じ名前というだけで何も関連性はないのだから。
 でも、もしカレンも私と同じ転生者だったとしたら。
 それが、あの子だとしたら。

「……なぁ、どっか悪いのか?」
「っ、ううん。ごめん。今の私はちょっと……ううん、結構、変になってるの。調子が狂うんだ。でも心配しなくて平気よ? すぐに家に帰って本を読めば治《なお》……」
「何に怯えてるんだ?」
「っ……」

 ルアが私の手を取った。

「俺は、あんたが誰であろうと、あんたを守ると決めた」

 ルアは、まっすぐな瞳で断言した。

「だから、あんたに害を及ぼすやつは排除してやる」
「……!」
「あんたが歩く道が茨なら、俺が斬って、斬って斬って斬り開いてやる。……だから、一人で抱え込まないでほしい」

 ルアの優しさが、心に沁みる。
 そう、優しい言葉を言って手を取ってくれたのは、ルアが初めてだ。

「あんたを、ひとりぼっちになんかさせないから」

 そう言って、ルアは私を抱きしめた。

―――あたたかい。

 ひとりぼっち。
 そうだ。
 私はいつも一人だった。

 ひとり。
 孤独。
 孤立。
 誰もいない病室で、春も、夏も、秋も、冬も、ずっとひとり。
 私が本に執着しているのは、孤独であることを感じないようにするためだった。
 学校のお話。
 恋愛のお話。
 友情のお話。
 全部、私にはできない夢のような世界だ。
 だから私は夢を見たくて本を読んでいた。
 文字が、物語が、私のすべてで。
 他に、何もなかったから。
 私は誰よりも、のめり込んだのだ。

 本は、お守りみたいなものだった。
 一人でも平気だと思える、そんなお守り。

―――だから私は、絶対に本に囲まれて過ごすって決めたんだ。

 孤独なのだとわからないようにするために、全て周りを本で囲えば……。
 そうしたら、楽でいられるはず。
 そう考えた日から、私はさらに本を求めるようになった。

「……ルア」
「ん?」
「もし、私が本に囲まれて死ぬって言ったら、どうする?」

 ルアは間髪入れずに断言した。

「―――俺も一緒に隣で死ぬ」
「!」

 まさかの言葉に何と言えばいいかわからなくなった。
 一緒に死ぬ、だなんて、言うと思わなかったから。

「俺は、あんたのそばにいる。あんたがいるところなら、どこにでもいく。死ぬ時も一緒だ。一緒じゃなきゃ許さない。だから―――俺も連れてけ」
「ルア……」

 だけど―――

「それはダメ」
「は?」
「一緒に死んじゃダメ。それはよくない」

 私のせいで、誰かが死ぬのは嫌だ。

「……なら、死ぬなよ」
「っ……」

 なるほど。
 人質はルア自身ということか。

「……ふふっ」

 それなら私は死ぬことができなさそうだ。

「ルアって、変わってるのね」
「・・・」

 そう言うと、ルアは固まった。

「え? は?」
「ふふっ、だって……」

 だって自分で言うのもなんだけど私の考えはかなり異常よ?
 そしてそれに対してルアは私が死ぬなら自分も死ぬって言ったのよ?
 変人の極みだと思わない人なんていないじゃない。
(※個人の考えです)

「ルア、大丈夫? バカになってない? いつものルアなら『公爵令嬢が本に囲まれて引き込まれるわけないだろ馬鹿』って罵倒してるわよね? どっか頭でも打ったの?」
「…………め」
「え?」

 ルアは「はあぁ~~」と思いっきり深いため息を吐くと、大声で怒り始めた。

「俺が柄にもなく優しくしてることぐらい考えろよこのクソ馬鹿主人! なんか暗い雰囲気になったなと思ったら泣き始めて今度は俺の心配?? 今日は情緒不安定だなぁ!!」
―――あ、いつものルアに戻った。

 あーだこーだとルアは長々と言う。

「俺がバカになったのかって? だとしたらおまえの馬鹿が感染うつったんだろうな!! 大体、何の計画も立てないでこんなところに来てぶっ倒れるだなんてどうかしてるぞ! おまえが急に旅人設定で話し始めた時の俺の心情を知ってるか!? 本っ当に焦ったんだからな!!」
「え、なんで?」
「旅人がこんな安全なところに来るわけねぇだろ!」
「なるほど……!」
「感心してんじゃねぇーよ!!」
―――うんうん。だいぶ調子を取り戻してきたよ。ルアには感謝だね。

 すると―――

「あっ! 目覚めたんですね、ユリさん」
「っ……!」

 ドアが開いて、カレンがやって来た。


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