63 / 158
第一部
62.危なかったぁ……
しおりを挟む一つ一つに毒はない。
しかし―――
「植物の中には、一緒に育てると精神操作系魔法や肉体操作系魔法を生むものがあるの。だから花を育てるときは気をつけなきゃいけないって、昔、本で読んだわ」
主な植物は虫などに花粉や種子を運んでもらうため、【幻惑】や【魅了】を発生させ、食虫植物などは【麻痺】や【混濁】を発生させる。
人間が影響を受けるほどではないのでそこまで気にする必要はないのだが、特定の植物を同じ場所で育てると魔法の力が増幅して人に害をなすことがある。
そしてそれが、カレンが育てていた花の中にあったのだ。
―――危なかったぁ……。もうちょっとで完全にやられるところだったよ。
【解析】しなければわからなかった。
「おい、村の人たちは……」
「最悪の場合、死ぬわね。と言っても、肉体の死じゃなくて精神の死よ。精神が侵されて元に戻れなくなるの。催淫状態的な感じね。基本的に治すのは難しいわ」
「……」
そんな花を育てた人は―――
「―――まだ確定ではないけれど、カレンは要注意人物ね」
「ああ。もし故意に育てていたとしたら、あいつは立派な罪人だ」
敵か、味方か。
この時点で判断はできない。
けど―――
―――あの花が出すのは【魅了】と【暗示】だった。
花の出す魔法は育てた人に影響を受ける。
魔力を持たない平民なら効力は薄まり、魔力を持つ貴族なら効力は高まる。
そして、育て人の思いが新たな魔法を生み出すこともある。
―――もしカレンの願いがみんなに愛されることだとしたら……。
あそこに咲いていた花は【暗示】を出すような植物ではなかった。
すなわち、カレンの願いが関わっている。
―――これ以上の詮索はよくないわね。
突っ込みすぎるのはよくない。
「……とりあえず結界を張るね。そのあとカレンの記憶を書き換える。それが終わったら……引くわよ」
「わかった」
―――【結界】【抑制】【隠蔽】【抹消】
「俺は可能性に賭けて村人を治してみる」
「!」
ルアならできるかもしれない。
「お願い」
「ああ。……【治癒】【回復】【修復】」
緻密なやつはルアに任せるのが一番だ。
私は結界の維持と組み立てなどを行う。
―――【構成】【創造】【補填】【弱化】
そしてカレンの記憶を書き換える。
―――【記憶改変】【同化】【記憶】【複製《コピー》】【編集】【意識誘導】【思考誘導】【隠蔽】……。
数分後、すべての作業が終わった。
「こっちは終わったよ」
「俺の方もなんとかなった。数日すれば元に戻るだろう」
「花は一ヶ月でなくなると思うわ」
「なら再発は低いな」
カレンは、何をする気だったのだろう。
―――【解除】
私は【時間停止】と髪の色、そしてルアが作ってくれた服を【解除】した。
これでいつものユリアーナとルアである。
「一度家に戻ろう」
「そうだな」
―――ユリ、ルゥ。【転移】した瞬間に姿を消して。
―――かしこまりました。
―――御意。
「ルア」
「ああ。……【転移】」
いつもの家に戻って来た。
問題は山積みだが、とりあえずレティシア様に報告はできる。
私は背伸びをして日常に戻った。
――――――――――――
補足/
【転移】は【飛翔】より高度な魔法です。
うまく想像できるところでないと【転移】はできません。つまり、一度行ったところでないと【転移】はできないです。
エヴァのところからルアを連れ帰る時ユリアーナが【転移】でなく【飛翔】を使ったのは、ルアと話がしたかったのと、ユリアーナが同時に発動、維持できる魔法の数を調べたかったからです。
94
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない
miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。
断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。
家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。
いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。
「僕の心は君だけの物だ」
あれ? どうしてこうなった!?
※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。
※ご都合主義の展開があるかもです。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。
櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。
生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。
このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。
運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。
ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。
プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)
犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。
『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』
ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。
まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。
みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。
でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる