悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

文字の大きさ
69 / 158
第一部

68.うん、ないね

しおりを挟む



「どういうことだ」
「なんのこと?」
「さっきのことだ。おまえは社交が苦手なんじゃなかったのか?」
「苦手よ。だから私は自分から関わらないし、必要最低限の接触しかしないわ。でも、今回みたいに面倒なやつが来たら、対応が大変でしょ? だからそういうときの対策を考えてたのよ」

 それがさっきの言質取ったあとのやり返しである。

「私がブライト様対策で逃げることだけしか考えていなかったとでも?」

 ブライト様は口が達者だ。
 だから捕まった時の対策として私も応戦できるようにする必要がある。
 そのへんをある程度鍛えていたのだ。

「あいつの情報を持っていたのはなんでだ」
「貴族として生まれたら爵位や名前、家族構成に属性といっぱい覚えなきゃいけないの。じゃないと、話を振られた時に恥をかくことになるからね。そして私は公爵令嬢。リンドール公爵家の名誉のためにも勉強してるのよ」
「……いやだいやだと言いつつも覚えていたのはそのためか」
「そーゆーこと」

 私の言動は家族にも影響をもたらす。
 私のせいで家族に迷惑をかけたくないし、比較的自由が許されているのは他者とのトラブルが少ないからだ。
 自分のためにも家族のためにも貴族としての教養や知識はちゃんと身につけている。

―――でも、自由に動き回れるのもそろそろ終わりかな。

 現在私は8歳。
 この世界の貴族のご子息・ご令嬢が婚約を確定させてのは平均して10歳前後。
 しかし爵位が高ければ高いほどその平均値はどんどん下回る。
 つまり、年齢的に私は誰かと婚約しなくてはならないのだ。
 ちなみに前世の中世の貴族の婚約年齢の平均が約20歳だったはずなので、この世界のお貴族様の婚約はとても早いということになる。

「婚約者がいれば、少しはトラブルも減るんだけどね」
「そんなに変わるのか?」
「ええ。自分の家と、婚約者と家の2つの後ろ盾を持ってることになるでしょ? だからトラブルが起きにくくなるの」
―――ゼロにはならないけど。

 婚約すれば自由がなくなり、婚約しなければトラブルまみれ。
 本当に面倒だ。

「縁談とか、くるのか?」
「くるわよ。全部断ってるけど」
「なんでだ?」
「なんでって……こんな私と婚約したい人はリンドール公爵家の地位を狙うやつしかいないからよ」

 それほどに、公爵家の肩書は大きい。

「現段階だと婿入りしてもらうことになるから長男は基本的にないわね」
「現段階だと、ってどういう意味だ」
「弟が生まれたら話は別でしょ?」

 男尊女卑。
 男性の方が権力が強く、優先度が高い。
 女性は他家との関係を強めるため嫁入りする。

「ま、でもそろそろ婚約しなきゃ行けないのは事実だし、こんな私にも一応できるんじゃない? 婚約者」
「あんたは自分のことなのにまるで興味がないな」
「どうせ名前だけの婚約者よ。興味なんてないわ」

 生きていければそれでいい。
 読書を満喫できればさらにいい。
 ただそれだけだ。

「そういうルアはどうなの? 好きな人とかいないの? エリィ姉さんは見事意中のお方と婚約したけど」
「俺が考えるとでも?」
「だよねー」

 逆に「好きな人がいる」と言われたらびっくりである。
 どこでそんな出会いがあったのだろうと気になるに違いない。
 暗殺者と貴族の叶わぬ悲恋……とか?

―――うん、ないね。ルアに関してはないね。

 誰かに想いを寄せるルアを想像できない。

「じゃあ、好きなタイプは?」
「ずかずかと聞くのはどうかと思うぞ。……そういうあんたはどうなんだ」
「私? 本の話ができて読書時間を邪魔しない人なら誰でも」
「聞いた俺がバカだったよ」

 失礼なことを言う。
 大事な要素ではないか。

「ほら、ルアも教えなさい」
「⋯⋯強いて言うなら面倒じゃなくてうるさくないやつだな」
「それ相当数当てはまるよ? ……というか私の悪口じゃない!」
「俺はあんただって言ってないが? 心当たりでもあるのか?」
「むう……」

 言い返せない。
 すると―――

「あのっ、ユリアーナ様っ!」
「ん?」

 黒髪に真っ赤なドレスを着た女の子が現れ、私の名前を呼んだ。

―――だれ?
「えっと、お、おとなり、よろしいでしょうか……っ」
「あー、どうぞ?」
「! ありがとうございます!」
―――返事いいな……じゃないわ。

 その子はパッと明るい顔になり、いそいそと私の隣に座った。

―――えーっと? 私は何をすればいいのだろう。

 ルアが目で語りかける。

「(おい。誰だ、そいつ)」
「(ごめん、私もわからない)」

 本当にわからないのだ。

「わたし、いつもお兄様たちからお話を聞いてて、だから、ずっとユリアーナ様にお会いしたかったんですっ」
「……えっと、あの、あなたはだれ?」
「! あっ、申し訳ございませんっ、名乗ってなかった……でした、よね」

 話すのが慣れていないのだろう。
 敬語があったりなかったりしてる。

「お初、お目にかかります」

 アンリィリル王国には二人の王子と一人の王女がいる。
 二人の王子はブライト様とノーブル様。
 そして王女は―――

「お初お目にかかりますっ。クローリス・コルトレッド・アンリィリルです」

 クローリス・コルトレッド・アンリィリル。
 この国の王女であり、ブライト様とノーブル様の妹とは、このお方のことである。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。 生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。 このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。 運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。 ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...