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第一部
68.うん、ないね
しおりを挟む「どういうことだ」
「なんのこと?」
「さっきのことだ。おまえは社交が苦手なんじゃなかったのか?」
「苦手よ。だから私は自分から関わらないし、必要最低限の接触しかしないわ。でも、今回みたいに面倒なやつが来たら、対応が大変でしょ? だからそういうときの対策を考えてたのよ」
それがさっきの言質取ったあとのやり返しである。
「私がブライト様対策で逃げることだけしか考えていなかったとでも?」
ブライト様は口が達者だ。
だから捕まった時の対策として私も応戦できるようにする必要がある。
そのへんをある程度鍛えていたのだ。
「あいつの情報を持っていたのはなんでだ」
「貴族として生まれたら爵位や名前、家族構成に属性といっぱい覚えなきゃいけないの。じゃないと、話を振られた時に恥をかくことになるからね。そして私は公爵令嬢。リンドール公爵家の名誉のためにも勉強してるのよ」
「……いやだいやだと言いつつも覚えていたのはそのためか」
「そーゆーこと」
私の言動は家族にも影響をもたらす。
私のせいで家族に迷惑をかけたくないし、比較的自由が許されているのは他者とのトラブルが少ないからだ。
自分のためにも家族のためにも貴族としての教養や知識はちゃんと身につけている。
―――でも、自由に動き回れるのもそろそろ終わりかな。
現在私は8歳。
この世界の貴族のご子息・ご令嬢が婚約を確定させてのは平均して10歳前後。
しかし爵位が高ければ高いほどその平均値はどんどん下回る。
つまり、年齢的に私は誰かと婚約しなくてはならないのだ。
ちなみに前世の中世の貴族の婚約年齢の平均が約20歳だったはずなので、この世界のお貴族様の婚約はとても早いということになる。
「婚約者がいれば、少しはトラブルも減るんだけどね」
「そんなに変わるのか?」
「ええ。自分の家と、婚約者と家の2つの後ろ盾を持ってることになるでしょ? だからトラブルが起きにくくなるの」
―――ゼロにはならないけど。
婚約すれば自由がなくなり、婚約しなければトラブルまみれ。
本当に面倒だ。
「縁談とか、くるのか?」
「くるわよ。全部断ってるけど」
「なんでだ?」
「なんでって……こんな私と婚約したい人はリンドール公爵家の地位を狙うやつしかいないからよ」
それほどに、公爵家の肩書は大きい。
「現段階だと婿入りしてもらうことになるから長男は基本的にないわね」
「現段階だと、ってどういう意味だ」
「弟が生まれたら話は別でしょ?」
男尊女卑。
男性の方が権力が強く、優先度が高い。
女性は他家との関係を強めるため嫁入りする。
「ま、でもそろそろ婚約しなきゃ行けないのは事実だし、こんな私にも一応できるんじゃない? 婚約者」
「あんたは自分のことなのにまるで興味がないな」
「どうせ名前だけの婚約者よ。興味なんてないわ」
生きていければそれでいい。
読書を満喫できればさらにいい。
ただそれだけだ。
「そういうルアはどうなの? 好きな人とかいないの? エリィ姉さんは見事意中のお方と婚約したけど」
「俺が考えるとでも?」
「だよねー」
逆に「好きな人がいる」と言われたらびっくりである。
どこでそんな出会いがあったのだろうと気になるに違いない。
暗殺者と貴族の叶わぬ悲恋……とか?
―――うん、ないね。ルアに関してはないね。
誰かに想いを寄せるルアを想像できない。
「じゃあ、好きなタイプは?」
「ずかずかと聞くのはどうかと思うぞ。……そういうあんたはどうなんだ」
「私? 本の話ができて読書時間を邪魔しない人なら誰でも」
「聞いた俺がバカだったよ」
失礼なことを言う。
大事な要素ではないか。
「ほら、ルアも教えなさい」
「⋯⋯強いて言うなら面倒じゃなくてうるさくないやつだな」
「それ相当数当てはまるよ? ……というか私の悪口じゃない!」
「俺はあんただって言ってないが? 心当たりでもあるのか?」
「むう……」
言い返せない。
すると―――
「あのっ、ユリアーナ様っ!」
「ん?」
黒髪に真っ赤なドレスを着た女の子が現れ、私の名前を呼んだ。
―――だれ?
「えっと、お、おとなり、よろしいでしょうか……っ」
「あー、どうぞ?」
「! ありがとうございます!」
―――返事いいな……じゃないわ。
その子はパッと明るい顔になり、いそいそと私の隣に座った。
―――えーっと? 私は何をすればいいのだろう。
ルアが目で語りかける。
「(おい。誰だ、そいつ)」
「(ごめん、私もわからない)」
本当にわからないのだ。
「わたし、いつもお兄様たちからお話を聞いてて、だから、ずっとユリアーナ様にお会いしたかったんですっ」
「……えっと、あの、あなたはだれ?」
「! あっ、申し訳ございませんっ、名乗ってなかった……でした、よね」
話すのが慣れていないのだろう。
敬語があったりなかったりしてる。
「お初、お目にかかります」
アンリィリル王国には二人の王子と一人の王女がいる。
二人の王子はブライト様とノーブル様。
そして王女は―――
「お初お目にかかりますっ。クローリス・コルトレッド・アンリィリルです」
クローリス・コルトレッド・アンリィリル。
この国の王女であり、ブライト様とノーブル様の妹とは、このお方のことである。
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