悪役令嬢の妹(=モブのはず)なのでメインキャラクターとは関わりたくありません! 〜快適な読書時間を満喫するため、モブに徹しようと思います〜

詩月結蒼

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第一部

67.全部聞こえてますよー?

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「今日もすごい人……」

 パーティは貴族として生まれれば必ず出席する面倒なものだ。
 お金がかかってんなぁ、と思いながら毎回参加する。

「見て、ユリアーナ様よ」
「目を合わせたら呪われるらしいわ」
「いつも一人だよな」
「えっ、こわーい……」
―――全部聞こえてますよー?

 ま、よくあることだから気にしないけど。

「ユリアーナ。あいつらだが……」
「傷つけるのはダメよ」
「主人を悪く言われて黙って静観する従者などいない」

 きっと本当にそう思っているわけではないだろう。
 忠実な従者を演じているに違いない。
 では私も寛容な主人を演じるとしよう。

「私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、今は感情を抑えて。ここにいる人たちはみんなお貴族様よ。本人が強くなくても、権力っていうのは物理的な力に勝るわ」
「……わかった」

 今日はルアを公爵令嬢わたしの護衛として初めておおやけの場に姿を現す特別な日だ。
 美形の平民の護衛なので当然注目も浴びる。

「あの人素敵……いったいどこのお方なのかしら」
「ユリアーナ様の護衛らしいわよ。平民なのに貴族の、しかも公爵家の護衛に抜擢されるなんて……。とても強いのでしょうね」
「女に媚びるのがうまそうだな」
「成り上がりか。汚い生まれの平民を雇うだなんて、リンドール家も落ちたな」
―――うん。男女で意見が違うのは容姿のせいだろうね。

 ルアはかっこいいから女子からはモテるし、男子からは妬まれる。
 罪な男だよね、ルアは。

「ルア」
「なんだ」
「ルアはパーティ好き?」
「参加するのはこれが初めてだが、すでに嫌いだ」
「どうして?」
「悪口、グループ、人混みがどれも嫌いだからだ。居心地が悪いし、いざって時にあんたを守りにくい」
「私と同じね。中庭に出られるんだけど一緒に来ない?」
「俺はあんたの従者だ。拒まれない限り、俺はおまえの隣にいる」
「そう。じゃあこっちに……」
「少しよろしいでしょうか、ユリアーナ嬢」
―――え、なに、だれ?

 私よりも2、3歳ぐらい年上のちょっと太った男性が話しかけて来た。
 全く面識がない。
 黒髪黒目……生粋の脇役モブだ。

「ドレッド男爵家の次男のアーサー・ドレッドと申します」
「⋯⋯初めまして。リンドール公爵家のユリアーナ・リンドールです。何かご用でしょうか?」
「ええ。ユリアーナ様はまだご婚約されていないと伺ったのですが、それは本当でしょうか?」
「ええ。本当です」

 だからなに?って感じなのだが、そういう問題ではない。
 公爵令嬢なのに、しかも姉は王族への嫁入りが決まっているのに私に婚約者がいないというのは、好奇と嘲笑の対象になる。

「その白髪。お母上の遺伝ですよね?」
「それがどうかしましたか?」
「お可哀想な容姿は継いでいるのに〈精霊〉を見ることができないとお聞きしたので、気になってしまいまして」
―――あー、そういうことね。

 くすくすと声が聞こえた。
 私を笑いの種にしたいのだろう。

「その無表情、やめた方がいいですよ。社交にもあまり出ないと噂になってました。リンドール家の未来が心配です」

 うわぁ、これ、あとで恥かいて「くそう、あの悪女め……!」的な脇役モブの定番のお決まりセリフを言うやつだ。
 甘やかされて育った悪役のアレだ。

「あなたに心配されるほど、リンドール家は落ちぶれてなどいませんのでご安心を」
「おや、虚勢はやめた方がいいですよ」
「虚勢ではありません」
「嘘はよくないですよ、ユリアーナ様」
―――しつこいなぁ……。

 私は社交が苦手だ。
 人と接するのは得意じゃないし、そこまで好きじゃない。
 家族や特定の人……ノーブル様のようにいい人や、レティシア様やエヴァ、ルアのように静かな人は気を楽にすることができる。
 けれど、陰湿なクソ王子やこうしてうざ絡みしてくる脇役《モブ》といると気分も良くないし、早くひとりになりたくなる。

「何か言ったらどうなんですか?」
―――どう対処しよっかな~。

 すると―――

「〈ユリアーナ〉」

 ルアが脳内に話しかけてきた。

「〈俺にやらせろ〉」
―――なにを?
「〈この豚野郎に現実を見せることをだ〉」
―――豚野郎って……。

 でも、わからなくもない。

―――ダメ。
「〈だがこいつは……〉」
―――私がやるからルアは手を出さないで。
「〈……わかった〉」

 ルアの殺気が弱まった。
 私は安心してことを進められる。

―――みんな舐めすぎなんだよ、私のこと。

 した成果を見せてやろうじゃないか。

「そう言えば、アーサー様のお兄様が優秀だとお聞きしたのですが本当ですか?」
「っ、……ふん、それがどうかしたか?」
―――この様子ならいけそうだな。
「魔法にも勉学にも才があるとお聞きしましたが、ドレッド家を継ぐわけではないのだとか」
「そうだ。兄上は王宮勤めになるからな」
「だから私、少し心配なんです」
「? なにがだ?」
「―――アーサー様がドレッド家を継ぐことを、です」
「!? なんだと……!?」

 うんうん、うまく釣れそうだね。

「噂で聞いたのです。アーサー様はそんな優秀なお兄様と比較されていつも苦しい思いをしていらっしゃるのに、まるで努力する気配がない、と」
「貴様……いくらリンドール家でもその侮辱はどうなんだ!!」

 声を荒げる脇役モブと私に視線が集まる。
 さすが脇役《モブ》の中の脇役モブ
 視線を集めるのが上手だね。
 あ、もちろん悪い意味で。

「本当に、侮辱でしょうか?」
「なんだと!! 噂ごときでよく知りもしないくせに……!」
―――よし。言質《げんち》取れた。

 私はその言葉を待っていた。

「噂ごときと仰いますけど、はたして、アーサー様が言えるようなお立場でしょうか?」
「どういう意味だ!」
「だって……」

 ここは悪役令嬢のようにやるのがかっこよさそうだね。
 小さく首を傾げ、「ざまあ」のような勝気な表情で私は言った。

「アーサー様は先ほど、私が『社交にもあまり出ないとになってましたよ?』と、おっしゃっていましたよね?」
「それと何の関係が……!」
「アーサー様も噂ごときでよく知りもしない私のことをさも知っているかのようにおっしゃっていたではありませんか」
「え? あっ……、ぐっ……」

 私はこいつと同じ言葉を使って言っただけだ。
 だから何も言い返すことができない。
 ちなみに「噂ごときでよく知りもしないくせに……!」という言葉も使うことであの脇役モブさんにより自分の失言を思い知ることになる。
 たまにはこういうのもアリだね。

「もう一度お聞きします。私は、アーサー様のことを、侮辱しましたか?」
「~~っ」

 肯定すれば、自分も私のことを侮辱したと認めることになる。
 悔しそうに顔を歪めると、「覚えてろよ!」と弱者の捨てセリフを言って去って行った。
 周りが動揺する中、私はルアに目配せして一緒に中庭へと出て行った。


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