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第二部
裏.星は願えど最悪を目の当たりにする
しおりを挟むエトワールに戻ってくると、すでにたくさんの人で賑わっていました。
すでに異学年交流魔法戦が行われているようです。
今日は外部の人間も出入りすることができる日なので、王族や貴族の暗殺を試みる人が侵入してくる可能性がとても高いです。
ご主人様は大丈夫でしょうか⋯⋯。
「ステラ」
「はい。お兄様」
「⋯⋯」
エヴァ様が複雑そうな目で私を見ました。
私とエヴァ様は兄妹という設定で裏社会で活動しています。
それも、妹を溺愛するお兄様と、お兄様のことが大好きな妹というものです。
私の名前は、本当はユリと言うのですが、裏社会ではステラと名乗っています。
ステラは星という意味です。
ユリもステラも、どちらの名前も気に入っています。
「もう5年も経つのです。諦めてください」
「⋯⋯私はまだ何も言っていない」
「『まだ』ということは、何か言いたいことがあるのですか?」
「⋯⋯。いい。なんでもない」
おそらく「エトワールでお兄様と呼ぶのはやめてくれ」などと言うつもりだったのでしょう。
でも、どこかで誰かが私たちを見たり、会話を聞いたりしているかもしれません。
そんな状況で設定の話題にするのは危険です。
「⋯⋯私はこれから警護に回る。ステラはどうする?」
「お兄様と一緒にいたいです」
つまり、エヴァ様と同じように警護に回るという意味です。
私の場合、『ご主人様の』という限定的なものになります。
「そうか。では⋯⋯」
〈ステラ姉~!!〉
小さな男の子が走ってきて、私に抱きつきました。
ご主人様の使役獣、白虎のハクです。
今は人間の姿に変化していますが、名前の通り、本来の姿は白い虎です。
〈ステラ姉、おかえり!〉
「ただいま。レンはどこに行ったの?」
〈レンなら⋯⋯〉
〈我はここだ〉
レンが私の背後から姿を現しました。
レンもご主人様の使役獣です。
普段は氷雪狼の姿ですが、今はハクと同じように人間の姿になっています。
長身の美青年です。
〈主人《あるじ》と共にいたのだが、ハクがどうしても其方に会いたいと言ってな〉
「そうだったのですか。でも、ハクもレンも、ご主人様に何かあったらどうするおつもりなのですか? いざという時にご主人様をお守りするのがあなたたちの務めではないのですか?」
〈それは⋯⋯。ごめんなさい、ステラ姉〉
〈すまなかった〉
しっかりと反省しているみたいです。
私のところへ来る時、ご主人様に許可をもらったそうですが、それでもやはり、今は会いに来るべきではありません。
あるじ様と呼ばれるご主人様の前世の妹君や、その仲間のマナ・ライアー、その他雇われの暗殺者などが、今この瞬間にご主人様を狙っているのかもしれないのですから。
〈だが、主人《あるじ》なら大丈夫だと思うぞ〉
「何故です?」
〈ウィリアム、だったか。彼が来ていた〉
「!」
ウィリアム様はご主人様が最も尊敬し信頼している一級魔術師です。
そんなお方がそばにいるのなら、少し安心できます。
すると―――ドンッ!! と爆発にも近い音が鳴りました。
魔法戦の競技場からです。
「⋯⋯ステラ。急いで彼女のもとへ。サラから連絡がありました。〈竜〉が召喚されたようです。私は外部からの敵襲に備えます」
彼女というのはもちろんご主人様のことです。
サラ様はエヴァ様と同じノイア・ノアールの幹部です。
無情の魔女と呼ばれています。
サラ様もエトワールに来ていたとは⋯⋯知りませんでした。
いえ、今はそれよりも。
―――ご主人様⋯⋯っ。
「ハク! レン!」
〈わかってる!〉
私はハクとレンと手をつなぎ、ご主人様のもとへ転移しました。
無事であってほしい。
そう、願いながら。
「ごしゅじ⋯⋯―――ッ!!」
私は思わず「ひゅっ」と息を呑みました。
今自分が見ているものが、現実のものとは思えませんでした。
半壊した競技場。
端のほうに見える血の跡。
そして何より―――ご主人様が〈竜〉に脚で踏みつけられている姿。
「ご主人様……!!」
――――――――――――
補足/
タイトルの意味ですが、星はステラ(ユリ)のことを指します。ステラはユリアーナの無事を願ったが、〈竜〉にやられている最悪を目の当たりにする、という意味です。
お詫び/
手違いでこの話の予約投稿の日にちを間違えてしまい、前話の135話を見ずに読んでしまった人がいたようです。申し訳ございません。
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