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第二部
135.二度目の対戦
しおりを挟むその後、順調に勝ち進み、ついに準決勝の試合となった。
「ん~、なんか、あんまりしっくりこないね」
「そうですね」
そう思うのも仕方ない。
ここまでの試合、ほとんど不戦勝なのだ。
最初のフォルツァ先輩とカルムの試合以外、何故か腹痛やら相方がいないやらで、全然戦っていない。
これで準決勝出場、となっても、あんまり実感がないのだ。
「まぁでも、この試合は楽しめそうだね」
競技場に入ると、そこにはすでに対戦相手―――ルコラ様とハイネ様が待ち構えていた。
模擬戦のときは私たちが勝ったが、今回は分からない。
前回の反省を活かして対抗措置を考えてきたはずだ。
「やるよ、ユリユリ」
「はい」
試合開始の合図が出る。
ノエル先輩は一直線にハイネ先輩の方へと駆けた。
「【氷結】」
ノエル先輩が魔法銃《クロト》の引き金を引く。
使用したのは【氷結】の弾《たま》。
ハイネ先輩の足元が凍る。
だが―――
「【火焔】」
ルコラ様の【火焔】により融解する。
ハイネ先輩ひとりではノエル先輩に勝てないと判断したのだろう。
ルコラ様とハイネ先輩はなるべく距離を開けないようにしている。
となると私がすべきは―――
―――【結界】【付与】【強化】【反射】【追尾】
ノエル先輩の半径1メートル以内を覆う結界をつくる。
それに【強化】と【反射】で魔法攻撃に耐える強度を上げ、また、軽い魔法なら反射して追尾機能付きで相手にお返しするという効果をつける。
―――【身体強化】【能力向上】【自動治癒】【自動回復】
保険としてノエル先輩そのものを強くする。
身体強化、能力向上があれば、もしハイネ先輩が〈竜化〉しても対等に戦えるだろう。
怪我をしてもすぐに治るようにしたから、安心して動けるはず。
私にできるノエル先輩への補佐はこれくらいかな。
あとは―――
―――【火焔】【氷結】【疾風】
火、水、風の軽い三大魔法をルコラ様に放つ。
「っ⋯⋯【業火】【雪庇】【旋風】!」
―――より威力の高い三大魔法で相殺しよう、ってか。
ルコラ様はハイネ先輩の補佐をしつつ、三大魔法を撃ってきた。
ちゃんと周りも見えているし、即座に反応して三大魔法を使えている。
―――私の三大魔法、完璧に相殺してるじゃん。すっご。魔力の扱いもそうだけど、魔法の精度が飛び抜けてうまいんだよね、ルコラ様。
ルコラ様の魔法陣を見れば分かる。
あれは何度も何度も練習して手に入れた、努力の結晶だ。
すると、ルコラ様は背中から弓矢を取り出し、私に狙いを定めた。
「―――【顕現】」
「!」
火、水、風、地、空、光、闇。
七属性それぞれの魔法を付与した七本の矢が現れ、放たれる。
これなら【結界】で防御して―――
「⋯⋯⋯⋯え?」
風の矢が私の結界を貫き、左の頬を軽く切って地に刺さる。
私の結界を、通り抜けた⋯⋯?
「っ⋯⋯」
考えている暇はない。
他の六つの矢は止まってくれないのだから。
―――【飛翔】!
とりあえず空に避難。
地上にいるのは危な⋯⋯って、こっちに矢が向かって来てる!!?
―――まさかあの矢⋯⋯追尾付きなんじゃ⋯⋯。
さぁっと体が冷えていくのを感じた。
これはやばい。
かなりやばいぞ。
―――結界で防げない矢とか、それも追尾付きとか、最悪なんだけど!
というかなんで私の結界で防げなかったのだ?
相当の威力がない限り、どんな魔法でも防げるはずなのに⋯⋯まさか。
―――あの矢は魔法ではないのか?
そう言えば、ルコラ様は【顕現】としか言っていなかった。
もしあの矢は本物の矢で魔法で作られたものでなかったとしたら?
私の結界は魔法のみ防ぐもの。
物理攻撃は防げない。
―――っ⋯⋯おもしろい。
このまま【飛翔】で逃げ回れば私の魔力が枯渇して負けてしまう。
あの矢をなんとかしなければならない。
同じものをつくって相殺するか?
それはつまんないよな。
もっとなんか、見ていて楽しめるようなものがいいかな。
―――花火みたいにキラキラしてて派手なのとか? でも、安全性を考えると⋯⋯うーん⋯⋯⋯⋯ん? なんか、変な違和感が⋯⋯って、なんだ、あれ?
違和感のあった場所にはハイネ先輩がいて、なにかをつぶやいているのが確認できた。
そしてハイネ先輩を中心に、怪しげな黒いモヤが広がっていた。
よく見ると、魔法陣らしきものが展開されている。
あの魔法陣は⋯⋯。
「ユリユリ! 逃げて!!」
―――あっ。
思い出した。
あれは……あの魔方陣は―――
ドンッ!! と大きな音がして爆風が吹き荒れた。
―――【疾風】!
風には風で。
逆風の流れに干渉して吹き飛ばされるのを防ぐ。
その間に魔力を探り、ノエル先輩の居場所を特定する。
―――見つけた。
「ノエル先ぱ―――ッ!」
そこにあった光景を見て、どくりと心臓が鳴った。
鼓動が速まり、冷や汗が顔を伝う。
「なん、で……」
ノエル先輩は―――全身血まみれになって倒れていた。
―――あ。
大きな黒い影が背後から現れる。
巨大な体躯に、角と羽。
それは、破壊の象徴とされる生き物。
アンリィリル王国に幾度もの甚大な被害を及ぼした―――〈竜〉だ。
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