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再会
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しおりを挟む桜舞う季節。出会いと別れの季節とされるこの時期に、例にもれず、第九学園でも入学式が行われようとしていた。
緊張した面持ち、期待に満ちた眼差し。十人十色の顔をする初々しい新入生達に紛れて、彼もまた入学式の会式を待ちわびていた。仮の待合室として案内された教室の中、机に腰掛け、窓の外を眺める。足をユラユラと揺らし、小さくお気に入りの唄を口ずさむ。
「へぇ、良い曲だね」
ふと、隣の席から声を掛けられる。コテンと首を傾げて視線を巡らせると、優し気な顔立ちをした青年が穏やかに微笑んでいた。
「ん。あんがと」
褒められたことに気を良くして彼はクスクス笑う。少し長めな黒髪と大きな眼鏡が故に分かりずらいものの、それでも美しく整っていることが見て取れる笑顔。ざわりと教室が揺れる。
「歌、好きなんだよね」
「うーん。俺としてはその歌も好きだし、笑顔も良いと思うけど……色んな意味で気を付けなよ?」
「ん?」
困ったように微笑まれ、彼はきょとんとする。顔に大きく疑問、と書いて見せる彼に、青年が苦笑する。
「なるほど、外部生か。じゃあ、説明が必要かな」
意味ありげに辺りを見回した青年に釣られ、彼もまた視線を走らせる。そして、仮のクラスメイト達の瞳の色に気付き、吹き出す。
「ああ、そゆこと」
「お、察しが良いみたいで」
器用に片眉だけ上げて見せた青年に苦笑する。
「まあね。人間色々あるもんさ」
「ふぅん?」
飄々とした答えに青年の目が輝く。興味津々のその様に、彼はクスクス笑うと、顎に細い指をあて小首を傾げて見せる。匂い立つ様な色気に皆が圧倒される。
「君との言葉遊びも楽しそうだけど……」
チロリと唇をなめて、流し目。明らかに煽ってきている彼に、青年がたじろぐ。あちらこちらに視線が泳いでいるのを、自分に向けさせ、彼は笑う。ゆっくりとその赤い唇が開き。
「とりあえず、自己紹介からしない?」
「あ、うん、自己紹介……は?」
何を言うかと身構えていたところに、無邪気な言葉。目が点になる様子を眺めた彼は、いたずらっぽく笑う。色っぽい雰囲気は一気に払しょくされ、してやったりと言わんばかりの彼に、青年が吹き出す。
「食えないなぁ」
「お褒めにあずかり光栄です」
クスクス笑い合う青年達の側を、暖かく優しい春の風が通り過ぎて行った。
準備が整い、ホールに移動するようにと促しに来た係の者に従い移動する。長い廊下を並んで歩き、漸く笑いの発作を収めた青年が横目で視線をよこす。
「和見蓮。連でいいよ。内部生。君は?」
「真水聖月。真水って書いてしみず。みづきは聖なる月だから間違えないでね。お察しの通り外部生」
「へぇ、良い名前だな。滅多に聞かないけど」
「でしょ」
機嫌よく笑う聖月。今にも跳ねだしそうな雰囲気である。無邪気な雰囲気に、蓮の顔が綻ぶ。しかし、周囲の視線に気づき、顔を引き締める。そっと聖月の制服の裾を引き、彼の注意を引く。
「楽しそうな所悪いんだけど、内部生としていくつか注意時点教えておくよ。察しが良いみたいだからすぐに慣れるとは思うけど……」
いい澱む蓮に、聖月も口元を引き締める。それとなく周囲を窺って苦笑する。
「慣れるまでに、って事かな。俺も情報ならどんなものでも欲しいし、有難く聞こうかな」
「そうして」
素直に聞く姿勢を見せた聖月にほっと息をついて、蓮が学園について話し出す。
そもそも、この国には9つの国立学園が存在する。幼等部から大学部まで一貫した教育を行うこの学園の目的は、国を担う優秀な人材の育成。優秀な者を囲い込み、教育するのだ。それ故に、入学試験も、定期試験も非常に難しいものとなっている。学園に所属するだけでブランドが付く為、国中の憧れと尊敬の眼差しを浴びることが出来る。将来も安泰。その代わり、ドロップアウトすれば無能の烙印をおされ、その先の未来は消滅するも同然。かなりリスキーな教育機関なのである。
さて、そのような学園なのだが、先述した通り、9つある。それらすべてに特徴がある。例えば、1を関する第一学園は古き名家や、血統主義の貴族的な者達が多い。そして、この第九学園。此処の特徴を一言で言い表すならば、「闇」。俗に言う組関係者や、非行に走った名家の子が集まる傾向がある為だ。とはいえ、流石に国立学園。非行に走っていると言えど優秀な者達ばかりで、家にとって切るに切れなかった子が集まる、と言うのが正しい所だろう。
そのような9つの学園で、唯一に近い共通点と言えば人気者たちに親衛隊が出来る事であろうか。家柄、学力、容姿。それらを総合的に評価された結果、人気者たちに人が群がるのだ。いかに優秀な生徒たちと言えど所詮は人の子なのだ。そこまでであるならば、問題はない。問題は、人気者たちの人気が行き過ぎた結果、彼らに近づく者があろうものなら、嫉妬に狂い制裁を加えんと動き出す者が少なくないことだ。特に、「闇」と畏れられる第九学園では、その手段が過激になる。暴力行為は勿論、性的暴力も少なくない。その上、制裁でなくとも、綺麗な顔であるという事だけでレイプ事件が起こるのは日常茶飯事。聖月はこの危険にさらされる可能性が大いにあると、蓮は警告しているのだ。
因みに、学園は中等部と高等部のみ男子校と女子高に分けられる。間違いがってはならないと、嘗ての名家が圧力をかけた結果らしい。それ故に、聖月たちが居るのも一応男子校に分類される。にもかかわらずレイプ事件が起こるのは、性の盛りの時期に同性だけで閉じ込められ、ゲイやバイに目覚めたものが大半を占める為だろう。同上の理由で学園が都市部から少し離れた所にあり、外出に厳しい規制がかけられているのも、無関係ではない。
「同性じゃ孕まないしー、とか言ってんだろうなぁ。あほらし」
「お願いだからオブラートに包む努力して」
「努力だけならしてもいいけど」
ニコニコと毒を吐く聖月に、蓮がストップをかける。一切態度を改める様子の無い聖月に、蓮が頭を抱える。いくら第九学園と言えど、名家と呼ばれる人間は少なくないし、もっと言えば暴力特化の団体様だっているのだ。侮辱の言葉に敏感な彼らを相手にどうするつもりなのか。一瞬、本気で聖月と距離を置く事を考えた蓮だった。
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