学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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捜索

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 「鬼ごっこぉ⁈」

 興奮に満ちた声がクラスに響く。興味津々やる気満々な聖月に、蓮は苦笑を向けた。

 情報通な蓮君が仕入れてきた話。それは今年の新入生歓迎会のついての知らせだった。その手の本の、その手の学園にありがちな制度がある時点で、聖月は面倒臭がるどころか嬉々として食いついてきたのだ。既に聖月はわくわくドキドキの臨戦態勢だ。

 「おっしゃぁ。俺、走るの得意なんだよねぇ」
 「うん、なんとなく察しては居たけど、そうだよねぇ」

 蓮がどこからともなく詳細を記した資料を取り出す。嬉々としてめくり始めた聖月に呆れ気味だ。何処か諦めた感じがあるのは否めないが。

 「へぇ。逃げるのは一年全体。逃げきったらご褒美あり。逃げ切りがいなかった場合は鬼の上位数名が貰えると。範囲は学校全体」
 「そう。元々は学園の敷地を知ってもらう為に始まったみたいだね。広すぎてよく分からないから。実践あるのみ」
 「成程?どうせ完全に迷い込んだ場合には至る所に仕掛けられている監視カメラで探し出せばいいもんね?」
 「あたり」

 目を輝かせて地図を覗き込む聖月。中等部で既に経験済みの蓮は、ため息をかみ殺している。鬼ごっこという所だけ取り出せば非常に愉し気だが、一部のガチ勢や、地の利のある鬼、何より、広すぎて逆に逃げ場所に困る学園敷地は非常に厄介なのだ。さっさとドロップアウトしようかなとこっそり決めているくらいだ。

 「という事で、せいぜい頑張ってね聖月君」
 「うふふ。頑張るよ、蓮君。こぉんな楽しそうなイベント、本気でやらなきゃ面白くないもんね」

 真っ赤な唇の端をクイッと上げると、聖月は妖艶な笑みを浮かべる。立ち上る色気をそのままに、実に楽しそうに思考にふける。その姿にゴクリと唾を飲み込んだのは少なくないだろう。ちょっとの付き合いだが、これが無意識かつ思考状態のデフォルトだと気づき始めている蓮は額を押さえて天を仰いでいるが。

 「……それは置いておいて、聖月君、ちょっと聞いてね?」
 「なぁに?」

 心は既に鬼ごっこへと飛んでいる聖月。蓮はちょいちょいと彼の前で手を振り、戻ってくるように促す。

 「この鬼ごっこ。確かに自分の目で学園の敷地を知るにはいい機会だよ。特に外部生にとって。でも、だからこそ危険な事がある」
 「危険な事?」

 はて、と考え込むものの、答えが見つからないようだ。蓮が更にヒントを出す。

 「敷地が広すぎて、誰の目が届かない事もある。学園のシステムについて不慣れな外部生、特に聖月みたいな美人だと……」
 「レイプ等の犯罪行為って言いたのかな?」
 「分ってくれたみたいで何より」

 ほっと頷く蓮。いかに風紀が動き回っていると言えど、その手の事件は必ず発生する。迷子なら探し出せば済むが、レイプなどになると取り返しがつかない場合もある。それでも決行させるのは、自分の身くらい自分で守れという事もあるのだろうか。

 「蓮。一つ訂正」

 ふむと黙り込んだ聖月がいつになく真剣な顔で訂正を求める。何事かと蓮が目を見開く。

 「何?」
 「俺は別に美人って訳じゃない。美人は蓮だろ?」
 「……うん。どうでもいい訂正かな。でもまぁ、とりあえず、一回病院行って目か脳かを調べておいで」
 「それは蓮だろう?」

 やいやいとどちらが美人かを論議する二人。酷く真剣な表情で話し合っているのだが。

 「いや、どっちも、って結論で良くね?」

 とあるクラスメイトの呟きが、このクラスの過半数を占めたのは余談である。




**********
アルビノの定義が揺らぎそうですが、聖月君のイメージ的に日の下を歩けないという想像がどうしてもできなくて……。
特殊な個体として認識してください。色素は全滅に近いので、白髪碧眼。体も弱い。しかし、どういう訳か、普通のアルビノより紫外線に耐性がある。という感じです。ファンタジーとして受け入れてもらえると助かります。

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