11 / 84
捜索
4
しおりを挟む鬼ごっこ当日。全校生徒がグラウンドに集合させられていた。勿論、やる気に満ちた聖月と、寧ろ如何に穏便かつ即座に捕まるかを考えている怜も紛れ込んでいる。主催は生徒会である為、その説明と運営は生徒会が行う。司会進行の嵯峨野からマイクを受け取った高宮が一歩前に出る。
「さて、諸君。待ちに待った新入生歓迎会だ。今年も例にもれず鬼ごっこ。説明事項をよく聞くように。
まず、注意事項。言うまでもないが、犯罪行為はご法度。風紀が目を光らせているからな。仮にも見つからないなどと考えない事だ。それ相応の処分が下されるぞ。
そして、ルールというほどのルールは存在しない。ハッキリ言って、このバカバカしい位だだっ広い敷地で3時間ただの鬼ごっこをするだけだ。リタイアするも、策をたてるも、全て各々の戦術によるものだ。好きにするといい。鬼は三年と二年の一部だ。それ以外が逃げる側。褒美は表彰式にて詳細を説明する」
それだけ言うと、高宮はぐるりと生徒たちを見回し、ニヤリと笑った。親衛隊だろうか、黄色い声援が上がる。その大音量に、聖月が思わず耳を塞いで蹲る。だが、その状態でも、マイクを通した高宮の声は聞こえた。
「最後に残るは勝者のみ。楽しいゲームの幕開けだ」
荘厳な雰囲気を醸し出す学園の校舎。それが影を落とす薄暗場所を、聖月は鼻歌交じりに歩いていた。ゲーム開始から数十分。実況解説の放送委員会がテンション高く校内放送を流し続けている。
『おおっと⁈麗しき美化委員長がついに捕まったぁぁぁ!!!なんてことしやがる鬼かアイツらは!!』
『いや、鬼だから。捕まえるのが仕事の鬼だから。上手いようでうまくないから黙ってろアホ委員長』
「……放送委員長は美化委員長のファンか何かなのかな?」
本気で絶叫している様にしか聞こえない放送に、聖月がクスクス笑う。安定した塩対応の副委員長のツッコミも笑いを誘う。何だかんだ言いつつ誰が捕まっただのと放送しているので、一応仕事はする気があるのだろう。見つからないよう慎重に動き回りつつもしっかり放送を楽しむ聖月の足取りは軽い。
しかし、ふと足を止めると、クイッと顎をあげ横目で視線を流す。元々森の中にあるようなこの学園の内部には、その名残で多くの木々が生えている。場所によっては小さな森の様にもなっているのだが、その内の一つで聖月は足を止めた。
「へぇ?」
クスリと小さく笑うと、森の中に足を踏み入れた。サクサクと進んでいくと、くぐもった声や、気色の悪い声が徐々に大きくなっていく。その場所にはすぐに辿り着いた。そっと気配を消して木の影に潜み、背を預ける。
ぽっかりと穴が開いたように空き地になっているその場所で、数人のいやらしい色を浮かべたガタイの良い男たちが華奢な少年を押さえつけていた。その後ろには、同じように華奢な体つきをした可愛らしい少年達が固まってニヤニヤした笑みを浮かべていた。気づかれないように様子を窺う。
「……ビバ、不純同性交遊ってかい?美味しいシチュエーションではあるけど、無理やりは良くないなぁ」
口の中で溶かすように独り言をつぶやく。この手の行為はお手の物。鈍ってないし、ワクワクしてきた、とテンションの上がる聖月。そっと彼らの様子を観察する。
察するに、後ろの美少年たち――どことなく気の強い血統書付きの小型犬、というかチワワに見える彼ら――が指示したようだ。従う事自体にどのようなメリットがあるのかは知らないが、どちらにせよ、荒くれ者たちはその指示に従うことで美味しい思いをしているようだ。人数は……ひと、ふた、み、よ……ざっと十くらいか。頭の中で"天国と地獄"を最大音量・最大速度でかき鳴らしつつ、自身のスマホを取り出すと、おもむろにカメラ機能を立ち上げた。
「世の中、証拠が大事ってね。ついでに言うと名前分かんないし。顔はばっちり覚えたけど」
ふふん、と楽しそうに動画を撮り始める。確実に彼らを潰すにはこの方が都合がよい。とは言え、撮影に夢中になりすぎて少年が無事に済まなかったら元も子もない。全体と加害者一人ひとりの顔をばっちり撮影する事数秒。満足気にうなづいた聖月は撮影終了ボタンを押すとブレザーを脱いだ。白髪を隠すために被っている黒髪のウィッグが取れないように慎重に被り顔を隠す。
そして。
「はぁい。なかなか楽しそうな事してるじゃん?仲間にいーれて!」
心底楽しそうに軽い足取りで出て行った。
35
あなたにおすすめの小説
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
天使の声と魔女の呪い
狼蝶
BL
長年王家を支えてきたホワイトローズ公爵家の三男、リリー=ホワイトローズは社交界で“氷のプリンセス”と呼ばれており、悪役令息的存在とされていた。それは誰が相手でも口を開かず冷たい視線を向けるだけで、側にはいつも二人の兄が護るように寄り添っていることから付けられた名だった。
ある日、ホワイトローズ家とライバル関係にあるブロッサム家の令嬢、フラウリーゼ=ブロッサムに心寄せる青年、アランがリリーに対し苛立ちながら学園内を歩いていると、偶然リリーが喋る場に遭遇してしまう。
『も、もぉやら・・・・・・』
『っ!!?』
果たして、リリーが隠していた彼の秘密とは――!?
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
【完結】腹黒王子と俺が″偽装カップル″を演じることになりました。
Y(ワイ)
BL
「起こされて、食べさせられて、整えられて……恋人ごっこって、どこまでが″ごっこ″ですか?」
***
地味で平凡な高校生、生徒会副会長の根津美咲は、影で学園にいるカップルを記録して同人のネタにするのが生き甲斐な″腐男子″だった。
とある誤解から、学園の王子、天瀬晴人と“偽装カップル”を組むことに。
料理、洗濯、朝の目覚まし、スキンケアまで——
同室になった晴人は、すべてを優しく整えてくれる。
「え、これって同居ラブコメ?」
……そう思ったのは、最初の数日だけだった。
◆
触れられるたびに、息が詰まる。
優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。
——これ、本当に“偽装”のままで済むの?
そんな疑問が芽生えたときにはもう、
美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。
笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の
恋と恐怖の境界線ラブストーリー。
【青春BLカップ投稿作品】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる