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捜索
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しおりを挟む突然の闖入者に、広場の者達が困惑顔で振り向いた。何人かは一瞬焦った顔をしていたものの、聖月が一人である事を見て取って泰然とした表情を取り戻す。
「おぅおぅ。一人かい?まぁ、仲間に入れてやってもいいかもなぁ」
被害者の少年を取り囲んでいたうちの一人が、卑下た表情を浮かべて近づいてくる。威圧するようにゆっくりと聖月の周りを一周し、ブレザーに隠された首筋あたりに顔を近づける。
「へぇ。気前いいんだねぇ。この俺も参加させてくれるなんて」
「楽しい事は皆で共有するのがセオリーだろ??」
「そうなんだけどねぇ」
男たちがニヤニヤと笑って舌なめずりする。それに同調するように聖月もクスクス笑うが、そんな状況を気に入らない者達が居た。
「ちょっと!そんな奴どうでもいいじゃん!さっさとアイツやっちゃってよ!」
「まぁそう言うなよ。一応目撃者だぜ?」
「顔見えないけど、なんか、美味そうな感じするしな」
キャンキャンとチワワズが喚くが、男たちには大して聞いていないようだ。聖月を襲う正当な理由をでっちあげ、黙らせる。この現場が抑えられればマズいことが流石に理解できるのか、仕方ないと言わんばかりに渋々黙るチワワズを横目に男たちが勝手な批評を述べる。
「んー!んんー!」
「おおっと。大人しくしとけよ。綺麗な顔と体に傷付けたくないだろう?」
「そーそー。大人しくしてればキモチイイ事してあげるからウィンウィンだろ?」
その時、襲われていた少年が、ここぞとばかりに今まで以上に暴れ出すが、男たちにとっては子猫の抵抗に等しかったらしい。すぐに取り押さえれられたどころかびりびりとワイシャツを引き裂かれる羽目に陥った。男たちは二手に分かれて聖月と少年を襲う事にしたらしい。半数よりやや少ない数の男たちが聖月の元にニヤけた顔を引っ提げて近寄ってくる。辛うじて露出している聖月の口元が三日月に歪む。
「ふふ。楽しい事見ると参加したくなるんだけどさ。俺、ちょっとばかし性格が悪いって評判らしくてさ。いつもお目付け役に首根っこひっつかまれて止められるんだよね」
「へぇ。それで、そのお目付け役ってのは?」
「それがさぁ?今は居ないの。だからもう、テンション上がっちゃってさ。分かるこの気持ち?」
「おーおー。分かるぜ。わっくわくどっきどきだよなー」
軽い調子で合わせてくる男たち。その内の一人の薄汚い手が、聖月の顔を隠すブレザーへと手をかけようとしたその時。
「つまり。思いっきり暴れても問題無いんだよねぇ」
弾む声でそう言った瞬間に、聖月の姿が掻き消える。男たちにはそう見えただろう。実際には、予備動作なく滑らかな動作で屈み、男たちの視界から消えたのだ。そのままの勢いで目の前の男に足払いをかける。
「うぉ⁈」
「てりゃー」
気の抜けた声と共に体勢を崩して倒れ込んできた男のみぞおちに渾身の膝蹴りをお見舞いする。狙い通り、男が一瞬で意識を飛ばして崩れ落ちる。そこまでが、一瞬の内の出来事だった。思いがけない状況に硬直する男たち。少年を襲いつつも様子を窺っていた男たちまで、状況整理が追い付かず固まっている。全員の視線が己に集まり、主導権をきっちりと手に入れた事を確認した聖月は満足そうにうなずくと、ポケットに手を突っ込んだ。
「さぁて、諸君?これなぁんだ?」
取り出したるは、先程の携帯。さくっと録画を呼び出して全員が見えるように翳す。勿論、その際の音声も大音量で流す事を忘れない。呆然としていた男たちだったが、ふんふん、と鼻歌を歌いながらいつの間にか手に持っていたもう一台の携帯を弄り回している聖月を見て我に戻ったのか気色ばむ。
「てめぇ!寄こせ!」
「いや、寄こせって言われてはいコレって渡す馬鹿居ないでしょ」
よくある台詞ってなんか言いたくなるよね!と思いつつ、伸ばされた手をサッと交わして軽い足取りでターンを決める。軽やかに距離を取るとささっともう一台の携帯を操作する。
「これでかんりょーっと」
ついでに、その携帯の画面を男たちに向ける。そこには“送信済み”という画面が表示されており、その時点で察した勘の良い者は青ざめ、察しない愚か者は怪訝な顔をした。
「あぁん?どこにメールしやがったんだ?俺たちを脅そうたって無駄だぜ?」
「馬鹿だねぇ。そんなまどろっこしい真似しないって。楽しい事は好きだけど、面倒は嫌いだもん」
ほっそりした白い指を口元に当て、紅い舌で唇を舐る。ゾクっとするほどの色気がその痩身がら溢れ出て、男たちは状況も忘れて魅入り、喉を鳴らした。最も、聖月の台詞に一瞬で顔色を失うまでのつかの間の事ではあったが。
「悪い事したら、警察に通報して捕まえてもらう。コレ、幼稚園生でも知ってる常識。で、ここで警察の役割を担うのは……言わなくてもわかるよねぇ?」
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