12 / 84
捜索
5
しおりを挟む突然の闖入者に、広場の者達が困惑顔で振り向いた。何人かは一瞬焦った顔をしていたものの、聖月が一人である事を見て取って泰然とした表情を取り戻す。
「おぅおぅ。一人かい?まぁ、仲間に入れてやってもいいかもなぁ」
被害者の少年を取り囲んでいたうちの一人が、卑下た表情を浮かべて近づいてくる。威圧するようにゆっくりと聖月の周りを一周し、ブレザーに隠された首筋あたりに顔を近づける。
「へぇ。気前いいんだねぇ。この俺も参加させてくれるなんて」
「楽しい事は皆で共有するのがセオリーだろ??」
「そうなんだけどねぇ」
男たちがニヤニヤと笑って舌なめずりする。それに同調するように聖月もクスクス笑うが、そんな状況を気に入らない者達が居た。
「ちょっと!そんな奴どうでもいいじゃん!さっさとアイツやっちゃってよ!」
「まぁそう言うなよ。一応目撃者だぜ?」
「顔見えないけど、なんか、美味そうな感じするしな」
キャンキャンとチワワズが喚くが、男たちには大して聞いていないようだ。聖月を襲う正当な理由をでっちあげ、黙らせる。この現場が抑えられればマズいことが流石に理解できるのか、仕方ないと言わんばかりに渋々黙るチワワズを横目に男たちが勝手な批評を述べる。
「んー!んんー!」
「おおっと。大人しくしとけよ。綺麗な顔と体に傷付けたくないだろう?」
「そーそー。大人しくしてればキモチイイ事してあげるからウィンウィンだろ?」
その時、襲われていた少年が、ここぞとばかりに今まで以上に暴れ出すが、男たちにとっては子猫の抵抗に等しかったらしい。すぐに取り押さえれられたどころかびりびりとワイシャツを引き裂かれる羽目に陥った。男たちは二手に分かれて聖月と少年を襲う事にしたらしい。半数よりやや少ない数の男たちが聖月の元にニヤけた顔を引っ提げて近寄ってくる。辛うじて露出している聖月の口元が三日月に歪む。
「ふふ。楽しい事見ると参加したくなるんだけどさ。俺、ちょっとばかし性格が悪いって評判らしくてさ。いつもお目付け役に首根っこひっつかまれて止められるんだよね」
「へぇ。それで、そのお目付け役ってのは?」
「それがさぁ?今は居ないの。だからもう、テンション上がっちゃってさ。分かるこの気持ち?」
「おーおー。分かるぜ。わっくわくどっきどきだよなー」
軽い調子で合わせてくる男たち。その内の一人の薄汚い手が、聖月の顔を隠すブレザーへと手をかけようとしたその時。
「つまり。思いっきり暴れても問題無いんだよねぇ」
弾む声でそう言った瞬間に、聖月の姿が掻き消える。男たちにはそう見えただろう。実際には、予備動作なく滑らかな動作で屈み、男たちの視界から消えたのだ。そのままの勢いで目の前の男に足払いをかける。
「うぉ⁈」
「てりゃー」
気の抜けた声と共に体勢を崩して倒れ込んできた男のみぞおちに渾身の膝蹴りをお見舞いする。狙い通り、男が一瞬で意識を飛ばして崩れ落ちる。そこまでが、一瞬の内の出来事だった。思いがけない状況に硬直する男たち。少年を襲いつつも様子を窺っていた男たちまで、状況整理が追い付かず固まっている。全員の視線が己に集まり、主導権をきっちりと手に入れた事を確認した聖月は満足そうにうなずくと、ポケットに手を突っ込んだ。
「さぁて、諸君?これなぁんだ?」
取り出したるは、先程の携帯。さくっと録画を呼び出して全員が見えるように翳す。勿論、その際の音声も大音量で流す事を忘れない。呆然としていた男たちだったが、ふんふん、と鼻歌を歌いながらいつの間にか手に持っていたもう一台の携帯を弄り回している聖月を見て我に戻ったのか気色ばむ。
「てめぇ!寄こせ!」
「いや、寄こせって言われてはいコレって渡す馬鹿居ないでしょ」
よくある台詞ってなんか言いたくなるよね!と思いつつ、伸ばされた手をサッと交わして軽い足取りでターンを決める。軽やかに距離を取るとささっともう一台の携帯を操作する。
「これでかんりょーっと」
ついでに、その携帯の画面を男たちに向ける。そこには“送信済み”という画面が表示されており、その時点で察した勘の良い者は青ざめ、察しない愚か者は怪訝な顔をした。
「あぁん?どこにメールしやがったんだ?俺たちを脅そうたって無駄だぜ?」
「馬鹿だねぇ。そんなまどろっこしい真似しないって。楽しい事は好きだけど、面倒は嫌いだもん」
ほっそりした白い指を口元に当て、紅い舌で唇を舐る。ゾクっとするほどの色気がその痩身がら溢れ出て、男たちは状況も忘れて魅入り、喉を鳴らした。最も、聖月の台詞に一瞬で顔色を失うまでのつかの間の事ではあったが。
「悪い事したら、警察に通報して捕まえてもらう。コレ、幼稚園生でも知ってる常識。で、ここで警察の役割を担うのは……言わなくてもわかるよねぇ?」
35
あなたにおすすめの小説
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる