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捜索
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しおりを挟む鬼ごっこ当日。全校生徒がグラウンドに集合させられていた。勿論、やる気に満ちた聖月と、寧ろ如何に穏便かつ即座に捕まるかを考えている怜も紛れ込んでいる。主催は生徒会である為、その説明と運営は生徒会が行う。司会進行の嵯峨野からマイクを受け取った高宮が一歩前に出る。
「さて、諸君。待ちに待った新入生歓迎会だ。今年も例にもれず鬼ごっこ。説明事項をよく聞くように。
まず、注意事項。言うまでもないが、犯罪行為はご法度。風紀が目を光らせているからな。仮にも見つからないなどと考えない事だ。それ相応の処分が下されるぞ。
そして、ルールというほどのルールは存在しない。ハッキリ言って、このバカバカしい位だだっ広い敷地で3時間ただの鬼ごっこをするだけだ。リタイアするも、策をたてるも、全て各々の戦術によるものだ。好きにするといい。鬼は三年と二年の一部だ。それ以外が逃げる側。褒美は表彰式にて詳細を説明する」
それだけ言うと、高宮はぐるりと生徒たちを見回し、ニヤリと笑った。親衛隊だろうか、黄色い声援が上がる。その大音量に、聖月が思わず耳を塞いで蹲る。だが、その状態でも、マイクを通した高宮の声は聞こえた。
「最後に残るは勝者のみ。楽しいゲームの幕開けだ」
荘厳な雰囲気を醸し出す学園の校舎。それが影を落とす薄暗場所を、聖月は鼻歌交じりに歩いていた。ゲーム開始から数十分。実況解説の放送委員会がテンション高く校内放送を流し続けている。
『おおっと⁈麗しき美化委員長がついに捕まったぁぁぁ!!!なんてことしやがる鬼かアイツらは!!』
『いや、鬼だから。捕まえるのが仕事の鬼だから。上手いようでうまくないから黙ってろアホ委員長』
「……放送委員長は美化委員長のファンか何かなのかな?」
本気で絶叫している様にしか聞こえない放送に、聖月がクスクス笑う。安定した塩対応の副委員長のツッコミも笑いを誘う。何だかんだ言いつつ誰が捕まっただのと放送しているので、一応仕事はする気があるのだろう。見つからないよう慎重に動き回りつつもしっかり放送を楽しむ聖月の足取りは軽い。
しかし、ふと足を止めると、クイッと顎をあげ横目で視線を流す。元々森の中にあるようなこの学園の内部には、その名残で多くの木々が生えている。場所によっては小さな森の様にもなっているのだが、その内の一つで聖月は足を止めた。
「へぇ?」
クスリと小さく笑うと、森の中に足を踏み入れた。サクサクと進んでいくと、くぐもった声や、気色の悪い声が徐々に大きくなっていく。その場所にはすぐに辿り着いた。そっと気配を消して木の影に潜み、背を預ける。
ぽっかりと穴が開いたように空き地になっているその場所で、数人のいやらしい色を浮かべたガタイの良い男たちが華奢な少年を押さえつけていた。その後ろには、同じように華奢な体つきをした可愛らしい少年達が固まってニヤニヤした笑みを浮かべていた。気づかれないように様子を窺う。
「……ビバ、不純同性交遊ってかい?美味しいシチュエーションではあるけど、無理やりは良くないなぁ」
口の中で溶かすように独り言をつぶやく。この手の行為はお手の物。鈍ってないし、ワクワクしてきた、とテンションの上がる聖月。そっと彼らの様子を観察する。
察するに、後ろの美少年たち――どことなく気の強い血統書付きの小型犬、というかチワワに見える彼ら――が指示したようだ。従う事自体にどのようなメリットがあるのかは知らないが、どちらにせよ、荒くれ者たちはその指示に従うことで美味しい思いをしているようだ。人数は……ひと、ふた、み、よ……ざっと十くらいか。頭の中で"天国と地獄"を最大音量・最大速度でかき鳴らしつつ、自身のスマホを取り出すと、おもむろにカメラ機能を立ち上げた。
「世の中、証拠が大事ってね。ついでに言うと名前分かんないし。顔はばっちり覚えたけど」
ふふん、と楽しそうに動画を撮り始める。確実に彼らを潰すにはこの方が都合がよい。とは言え、撮影に夢中になりすぎて少年が無事に済まなかったら元も子もない。全体と加害者一人ひとりの顔をばっちり撮影する事数秒。満足気にうなづいた聖月は撮影終了ボタンを押すとブレザーを脱いだ。白髪を隠すために被っている黒髪のウィッグが取れないように慎重に被り顔を隠す。
そして。
「はぁい。なかなか楽しそうな事してるじゃん?仲間にいーれて!」
心底楽しそうに軽い足取りで出て行った。
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