学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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捜索

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 飢えた獣のような瞳と隠し切れない高揚を湛えた、色気溢れる笑顔。通常の生徒なら、赤面して気絶するところだが、付き合いのそこそこある生徒会の二人は逆に一歩二歩とあとずさりする。このまま回れ右をしようかと一瞬考え、いや、顔を見る限り、後に引きのばしたら色んな意味で公開する案件だ、南無三、と腹を括る。

 「その通報者は結局誰だ」
 「よく分からん」
 「は?」

 あっさりと分からない宣言されてあっけに取られる高宮。その服の裾がくいくいと引かれる。隣を見ると、なんとも言えない顔をした高宮の右腕が言葉を選ぶようにゆっくりと口を開く。

 「今回、竜崎君の下にメールが送られてきたのが始まりです。そこには、件名なし、差出人も不明、場所と画像ファイルのみが添付されていたとか」
 「そして風紀が到着する前にその人物は消えた。つまり、尋問でしか特定できない。風紀の尋問は悪魔的だからな。すぐに口を割らせるだろうと思ったが」
 「最初から颯斗が対応したが、全くと言っていいほど情報が出てこなかった」

 怜毅が肩を竦める。颯斗は後方支援である事に矜持がある。彼ともう一人、IT方面で情報を扱う少年の二人でNukusの情報部門のトップを張っているくらいだ。その彼が情報を引き出せなかったという事は、それだけの耐性があるか、そうでないならば。

 「情報と言える情報を持っていなかった。逆に言えば、通報者が与えないようにしていた可能性がある」
 「正解」
 「そして、最近ホットな話題と合わせて、これが常套手段の人間がいましたよね?」
 「おいおい、それって」

 パッと煌に視線を投げると、気だるげに顎肘をついた男がニンマリと口元に笑みを刷く。

 「アイツだ」
 「待て待て待て。そんな、展開急だな!」

 自信満々な所悪いが!と叫ぶ高宮。いち早く察した嵯峨野も困惑顔である。Nukusメンバーの聖月に対する嗅覚は言うまでもないが、強引過ぎないかとその眼が語っている。

 「逮捕者だがな、馬鹿どもは全員昏倒させられていたか、精神的にちょっとらりってたヤツだけだった」
 「腕っぷしが立つ奴だな。ついでに言うと、アイツと颯斗並の性格の悪さ……もとい、悪ガキだな」

 「フードは被っていなかったが、ブレザーを頭から被って顔を隠していたらしい」
 「顔を見せたくなかったんだな」

 「終始、人を馬鹿にして、火が……と言うか、燃え盛っている馬鹿をみて、せっせと油をぶちまけまくったらしい。モットーは“人の不幸は何とやら”だと」
 「いい加減、加害者が被害者に見えてくる鬼の所業」

 「で、俺に送ってきたメールは被害者……じゃなかった、加害者の内、最初に通報者にうかつに近づいてやけどした奴の携帯から送られたものらしい」
 「どうぞ、と渡すわけ無いからな。協力者じゃ無い限り、その通報者、相当手癖が悪そうだな」

 「で、その携帯は行方不明。学園の作業員の一人から、焼却炉に不審物が投げ込まれていた痕跡があったとか、なかったとかという話があった」
 「本当に不審物が投げ込まれていたとしたら、携帯を勢いよく焼却炉で燃やした可能性がある、と」
 「ついでに、被害者……ではなく、加害者さんから携帯を拝借してメールを送ったのは、竜崎君にメルアドを教えたくない、もしくは、前回と同じアドレスや別の不信アドレスを使って自分に辿り着く可能性を低くしたかったという所でしょうか。そのまま携帯を壊せば、その携帯に残ったであろう自分の携帯からのメールも修繕不可能なまでに破壊出来ますし。この方法なら、該当者は学園の生徒全員になります」
 「映像データのアングルとその状況からみて、映像自体は自分の携帯で撮っただろうからな」

 ついつい加害者に同情して被害者と呼んでしまいつつ。ポンポンと、言葉を交わし、状況を整理する。徐々に笑顔が凄みを増す煌とは対照的に、徐々に半眼になっていく高宮。言葉を切ってじっくり視線を合わせると、額に手を当てて天を仰いだ。ついでに、お手上げのポーズをする。

 「やべぇ。俺の頭には、こんなやらしい手段を一瞬で考え付いて実行するヤツ、一人しか浮かばねぇ」
 「だぁから、言ってんだろうが」

 「ついでに。尋問で出てきた情報だが、そもそも、通報者の話をするだけで竦み上がって話をしない、ようやっと出てきたものをざっくりまとめると、悪魔的に性格が悪そうな奴ってなる」
 「一度頭の中を開いて確かめてみたいってくらいの洞察力と思考力を持ってたアイツがよくやってた手だ。アイツがやらかしたあとには、どうしてソレを知ってる!と叫んで放心状態になる犠牲者が死屍累々だったからな」
 「あぁ。俺も、アイツだけは敵に回したくない……」
 「一度やりましたけどね……。もう、やりたくないのは確かですね。特に、あの本性を知ってからは……」

 風紀室に沈黙が落ちる。なんとも言い難い雰囲気が満ちたが、それを払拭するように高宮が苦笑する。

 「ま、とにかく、アイツがここに居る可能性がさらに高まったって事で。よくも悪くも、だがな」
 「全くですね」

 ここまで状況がしれれば十分、とばかりに踵を返す高宮と嵯峨野。煌と怜毅の視線を背に感じつつ、生徒会室に戻る事にする。扉を開けて、一歩外に出ようとして、高宮はふっと顔だけ煌に向ける。

 「せいぜい、あの天才大馬鹿野郎を相手に頑張りな。おれも一言言ってやらねぇと気が済まねぇし」
 「ああ。任せとけ。いい加減アレのお守にも慣れた時に逃げやがったンだ。捕まえることくらい訳ねぇよ」
 「頼もしい」

 ニヤリと笑い合って、高宮はすぐに真剣な顔付きになる。

 「今回もだが、あの男がどうも気になる。街でも暴れ回ってるらしいしな。正直、聖よりヤツの方が優先になる可能性が高い。文句は言うなよ」

 そのセリフに、煌の顔からも怜毅の顔からも表情が抜け落ちる。脳裏に浮かぶのは、最近勢力を伸ばしている、気に食わない精悍な顔。今回のレイプ事件もその男に繋がると言えば繋がる。煌も怜毅も、勿論颯斗もその可能性を考えていた。

 「そろそろ、街に降りて様子を見ようと思っていたところだ。悠茉さんにも呼び出されているしな」
 「そうか。ならいい」

 それだけ言葉を交わすと、高宮は嵯峨野を連れて今度こそ出て行った。残された二人は大きくため息をつく。チラリとお互いを見やり、手元に視線を落とす。


 全ては、再会の為に。そして、聖が守りたいと思った場所を守る為に。

 今は、書類仕事を片付ける必要があるようだ。

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