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邂逅
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しおりを挟む新入生歓迎会から数日。往生際悪くはびこっていた熱気がようやくひと段落ついたころ。聖月と蓮は優等生よろしく授業を受け、昼休みを満喫していた。
「今日は、A定食ー!ご飯は大盛り!」
「ほんっと、その細い体のどこにそれが入るの?」
A定食は一言でいえば、日替わり定食である。本日のメニューはエビフライ付き唐揚げ定食。それを知った聖月が目の色を変えて学食に突進したのだ。お弁当を抱えた蓮を引きづって。嬉々として注文する聖月をげんなりした顔で見つめるのは、当の被害者。華奢な体に似合わない食欲を見せる聖月を見る度、一度は突っ込みたくなる。
人間に体って神秘に満ちているよなぁと現実逃避しつつ、ワクワク顏の聖月を一瞥する。この学校の学食は非常に優秀なのですぐに注文した品が届く。
「お待たせしまし……」
「来たぁ!」
目を爛々と輝かせ、今にもがっつきそうな雰囲気を醸しだす聖月。食い気味な彼に若干引いたウェイターだったが、そこはプロと言うべきか、表情を取り繕いトレーをテーブルにおいてしずしずと下がっていく。
「いただきますっと」
「そこは躾がされているというか、なんというか」
行儀よく手を合わせる。それに倣って手を合わせつつも、普段の言動に似つかわしくない行動になんとも言えない顔をする蓮。心底幸せそうに頬張る聖月を見ていると、自分の定食にすればよかったかと毎度思うのだから不思議である。とは言え、一般的な容量しかない蓮の胃袋では聖月と同じ量を収めることが出来ずに苦しむから自重しているが。
「美味しいもの大好き。そんな俺のポリシーは食材とシェフに必ず最大限の敬意を表することさ」
「いい事言っているはずなのに、聖月が言うと軽くなるから不思議だよなぁ」
「ちょぉっと。それはどういう意味さ」
「言葉の通りの意味さ」
じゃれ合いつつも、せっせと皿を開けていく二人。軽口は日常茶飯事なのだ。そんな二人をチラチラと見る視線がある。左程おおくは無いが、気のせいにするには多い、そんな数。二人とも、自分の顔が人並みには見れる事を自覚しているし、実害も無いので無視している。しかし、そんな視線を頭の片隅に追いやっていた蓮がふと顔を上げた。
「そう言えば聖月」
「なぁに」
「新入生歓迎会の鬼ごっこ。最後まで逃げ切ったんだよね」
「そだよ。褒め給え。崇めてもいいんだよ」
「はいはい。よく頑張りました」
顔を上げたかと思うとニヤァっと笑って薄い胸を張る聖月。調子がいいのはいつもの事、と適当にながしつつ話を聞け、と無言で要求する。もっと褒められたい聖月との無言の攻防の末、渋々折れた聖月がそれで?と聞いてくる。
「結局、景品は何にしたんだ?やっぱり食堂の一ヶ月無料券?」
先日の鬼ごっこで見事逃げ切った生徒は数人いた。その内の一人である聖月は何を貰ったのかと気になったのだ。因みに、景品は三つ種類があったらしい。
一つは、生徒会のメンバーを指名して一日自由にする権利。二つ目は食堂の一ヶ月無料券。三つ目は常識の範囲内における要求を学園に一つ突き付ける権利。
食堂に関しては、一応仮にも、男子高校生の集団という事で理解できる。学園への要求も、まぁ、所謂名家や裕福層が集まる学園としては理解できなくもない。
「生徒会を自由に出来るってのが意味不明だよなぁ。親衛隊っていう名のファンクラブが存在するからその関係だと思うけど」
「アイドルみたいなもんだしねぇ。クラスでの会話も八割がた生徒会自由権じゃなかった?」
もぎゅもぎゅと唐揚げを頬張りつつ小首を傾げる聖月。普通ならはしたない、と顔を顰める所だが、無駄に可愛らしくて文句を言う気も無くなるのがなんとも言い難い。やれやれと首を振りつつ、蓮は先を促す。
「聖月は生徒会にそんな興味ないだろ?学園への要求権って言われたら本気で恐ろしいから言うなよ?食べる事好きだから食堂にしたよな?」
「そろそろ一回俺に対する印象についてお話しようか蓮君?」
あんまりな予想に、聖月が半眼になって抗議する。しかし、普通だったらそんな事言わないわ!と大きく顔に書く蓮と、周囲の者達からの説教と懇願から、自分の発想が周囲の精神状態によろしくない事を理解している聖月はふいっとそっぽを向く。
拗ねてるから機嫌取って、と態度で示すがそこは蓮である。あっさりとスルーして答えを要求する。つまんないのー、とぼやきつつも聖月はエビフライにかじりつく。
「生徒会一日自由権」
「……マジで?」
「まじで」
サクサクの衣を堪能する聖月を信じられない物を見る目で見つめる蓮。ふふんと、驚き顏を見て機嫌を直した聖月が得意顔をする。
「生徒会に興味があったのか?」
「生徒会には興味ないよ。まぁ、理由はいろいろあるんだけど」
コクンと口の中の物を飲み込んだ聖月が切なげな微笑を見せる。しかし、蓮の訝し気な顔に気付き、一転してやんわりと微笑む。
「ちなみに。今その権利を発動しない代わりに利子つけて貰った」
「なかなか訳の分からない交渉してるなお前」
しれっと+αを付けてきた聖月に蓮は顔を引きつらせる。そこまでして何がしたいんだ、と思考を巡らせる蓮。それを見つめる聖月の瞳は何処か悲し気で。そっと目を伏せた事に蓮は気付かなかった。
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閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
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