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邂逅
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しおりを挟むこの国には、五大名家が君臨している。彼らもまた、幾つか固有の特徴を持つ。この国の政治や経済に大きな影響を持つ彼らの共通した特徴と言えば、その家名に"宮"がつく事。つまり、話に出てきた“古宮”もまた五大名家の一つ。
「古宮と言われて真っ先に思い浮かぶのは、裏社会。この国の闇組織のトップに立ち、裏社会を完璧に掌握して裏からこの国に影響を及ぼしているということ」
「闇の第九学園はヤクザも多いし、そう言った意味では数十年おきに古宮家の直系が入ってくるのは当然と言うべきで、そこに当たった俺たちが運がないって事になる」
「全く。そんでもって会長はあの高宮でしょ?この学校というか、この世代どうなってんのよ」
心底嫌そうに呻くと、嬉しいような嫌なようなといった顔の蓮も無言で首肯する。高宮もまた五大名家の一つ。実力主義を謳う彼らは、一般の人間から人気が高い。そんな高宮の家の人間――それも、高宮凰我は次期当主という超優良物件。お近づきになりたい人間多い。何故そんな男が第九に居るのかが、七不思議に挙げられているというのは余談であるが。
そんな高宮と古宮の後継者二人が同じ世代に同じ学校に所属している。嬉しいような、嫌なようなとなるのは自然な事だろう。この国では子供も知っている常識。蓮自身は一般家庭出身だが、この特殊な学園に在籍している事もあり、その辺の話はしっかりと理解しているようだ。そう言えばどうしてここに蓮のような普通の人間がいるのか、と聞こうとして聖月は頭を振った。今はそれどころではない。
唯の厄介事や事件だったら嬉々として首を突っ込むが、今回は聖月にとっても無関係でいられない。立ち回り方を失敗する訳には行かない事情がある。
その真剣さは、顔を上げた聖月の瞳をみた蓮が驚くほどで。正直なところ、蓮は忠告をしても聖月は自らひっかきまわしに行くと思っていたのだ。
「古宮の名前は裏には絶大な影響があり、直系の者達は五大名家に相応しくカリスマ性があると聞いている」
「3年の古宮巽もかなりヤバいらしい。中等部に居た時から噂は聞いていたし、高校1年に上がった時には1日で中高等部全てのFクラスを支配下に置いたっていう逸話もうわさで流れているくらい」
「有象無象だったら蹴散らすのも難しくないし、やらかす事もそんな影響はない。けど、一度集団としてまとまってしまえば話は別。しかも、そのトップが切れ者ってなった瞬間に、脅威判定は格段に跳ね上がる」
「さすが。話が早いね。で、最初の話に戻るんだけど」
「その厄介な集団になっているFクラスに対して喧嘩を売ったも同然な状態って事?」
「正解。最も、噂が本当なら、ね。それに、顔も見せず、情報を与えてないっていうなら多少は安心だけど」
「ああ、それは大丈夫。得意分野」
「普通、正体隠しが得意分野になるっておかしいよね。自覚してる?」
どうしたものか、と思案している聖月にまぜっかえしつつ蓮は一つ息を吐いた。とりあえず、忠告は届いたようだ。寝覚めが悪いのは嫌だもんなぁと一人ごちつつ、頬杖をつく。険しい顏と何かを思いついて却下するといった浮き沈みの多い顔を眺めていたが、まぁ、そこまでピリピリする必要はないんじゃないか、と声を掛ける。
「その心は?」
「古宮巽には、今、ご執心の人物がいる」
「そっちにかかりきりって事?」
「そう。しかも、その人物を追いかけまわし始めたのが、ここ数年。まだ興味津々みたいで、他の事は結構おろそかにされてるみたい」
蓮は肩を竦めて見せる。なんだぁ、と力が抜けたように聖月は椅子に凭れかかってぐったりする。じゃあ対応は後で考えよーっと呑気に考えて、デザートを頼むかという難題に取り掛かろうとした瞬間だった。ふとその人物について何気なく聞いたのが間違いだった。
「でぇ?その追いかけまわされてる哀れな人って?」
「それが、ややこしい事になってるんだよねぇ」
嫌そうな顔で遠い場所を見つめる蓮。メニューを拡げたまま何事かと首を傾げて見せる。
「標的は、皇帝。つまり、生徒会――Kronousと風紀――Nukusの探している人物と同一って話だよ」
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