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邂逅
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しおりを挟む「はぃい?」
流石に顔を引きつらせる聖月。本人は認めていないが、聖月こそが皇帝と呼ばれている、その人である。一難去ってまた一難かよ、と天を仰いでみる。自分の運の悪さを恨みつつ、詳細を話せと蓮に迫る。今度はその勢いに押された蓮が引き気味になっている。
「簡潔に話すと」
「うん」
「元々は、古宮巽の周囲に不良達が勝手に集まって騒いでいただけだったんだよね。で、本人は興味ないもんだから、鬱陶しいと思いつつ放置していたらしい」
「ほうほう」
「だけど、それでも人が集まって来て、その時に皇帝の話をした奴が居たらしいんだよね。そしたら、力と血に飢えた獣……じゃなかった、古宮巽が興味を持ったらしい」
「で?」
「何故か、皇帝と戦いたい的な事を言い出したらしくて。で、鬱陶しいのを廃除して手駒を作るっていう一石二鳥を求めたらいつの間にか族って言う形になってたらしく、めでたく総長就任。夜の街に降りては荒らしまくってるらしい」
「はた迷惑な!」
思わず悪態をつく。流石に滅茶苦茶だよなぁと流石の蓮も微妙な顔で感想を述べる。とは言いつつも頭を抱える聖月を見やり、まぁ、俺たちは関係ないから別にいいじゃんと他人事として、紅茶を啜っている。恨めし気な顔を上げた聖月に、どうしてそんな顔をしているの、ときょとんとした顔を向けるオプション付きである。
「それはまぁ、置いといて。よくもまあ、そこまで詳しい事知ってたね?」
「まぁ、情報ツウですから!」
これまた薄い胸を張ってドヤ顔を見せる蓮。似たもの同士と言うべきか。そんな事を思った人間が近くにいたらしい。クスクス笑いが彼らの下に届く。むっとした表情で蓮がその方向を向くと、数人で席に着いた生徒が笑っていた。
「ちょっと、何か文句でも?」
「いやいや。情報ツウの蓮君は流石だなぁって言ってただけさ」
どうやら顔見知りらしい。わいわいと舌戦で盛り上がる彼らをみて、友達多いなぁと感心していた聖月だったが、次の瞬間、顔色を変えた。
「ついでに、一個補足な。どうやら素戔嗚が手を出すらしいぜ」
「素戔嗚?」
「古宮巽の族の名前。相手はKronousとNukusらしい。例の皇帝に関してやり合うらしいって話だ」
「わお。え、てことはKronousとNukusは皇帝を見つけたの?」
「さぁ?そこまでは分からないけど」
会話が続いていく中、聖月は頭の芯が急速に冷えていくのを感じていた。
キュ。シャワーの栓を回し、水を止める。温められた室内で、白い蒸気がユラユラと揺れているのを冷ややかに見つめる聖月。ゆっくりと白い手を目の前に翳し、ぐっと握りしめる。
「素戔嗚、か」
神代に神の世界を荒らした男神を関する族。KronousとNukusは族としては異色の存在。素戔嗚こそが、典型的なそれだろう。血と暴力の代名詞の一つ。そして、それは聖月にとって何よりも好んだものであり、軽蔑したものでもある。
「くだらない」
理由のない暴力はただの破壊。そこに聖月は一切の意味を見出せない。今回の皇帝に関する闘争というのは、まさにソレにあたると聖月は考えていた。
暫く、握りしめた拳を見つめ、ぽたりぽたりと髪から雫が落ちる音を聞いていたが、静かに顔を上げた。凛とした光をその青い瞳に宿し、聖月は浴室を後にした。
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