19 / 84
邂逅
5
しおりを挟む
奮発して買った少し大き目な姿鏡。その前に立ち、大きめでゆったりした黒いパーカーを頭から被る。もぞもぞとパーカーの中で出口を探し、ぷはっと顔を出すとこれまたもぞもぞと袖を通す。体格を隠す為と病的なまでに白い肌を隠すには最適だけど、着にくいんだよなぁと内心ぶつくさ言いつつ、深めの黒キャップを手に取る。そっと目を伏せて帽子を被ると、久々の感覚に自然と口角が上がるのを感じた。うつむき気味の顔を上げ瞼を開くと、そこには全身黒の衣装に身を包み目元を隠した白髪の姿が映っていた。
「うっわ。ひさしぶり」
思わず零れ出た言葉と共に、そっと鏡に手を振れた。同じ動作で手を伸ばしてきた虚像と指先を振れ合わせると、唯一見える口元がゆるりと孤を描くのが見えた。
「……っし。行きますか」
それまでは何処か憂いを含んだ空気を纏っていた少年は、軽快な動きで身を翻し部屋を後にした。その背なかには、すでに、憂いの色は完璧に拭い去られていた。
今にもスキップしそうな軽快な足取りで聖月は夜の街を歩いていた。ここは第九学園を要する第九特別区。広大な敷地に最先端の技術を詰め込んで開発した、世界でも有数の巨大都市の一つ。第九とつくことから察する事が出来るだろうが、勿論、第一学園から第九学園までを擁する都市が存在し、それぞれ学園の数字に対応した都市名を持つ。正確には、開発された都市に数字が振られ、その後に学園が設立されたのだがそれは余談。付け加えると、これらの九つの都市は総称してこう呼ばれている。ナンバーズ、と。
聖月は煌々と照っている電灯を避け、寧ろその光によって創られる闇に同化するように歩いていた。昔から空気に溶け込むのは得意だった。白髪が目立つものの、それが視界に入って振り向くと、既に人込みに紛れて気の所為だったと思わせる。メリハリをつける事が大切なのだ、と薄い胸を張って悪戯に使う度に竜崎に頭を叩かれ説教を受けたものである。
「おおっと。イケナイイケナイ。久しぶり過ぎてテンション上がってた」
などど、下らない事を考えている内に周囲が闇色を増してきたのに気付き、意識を切り替える。治安の悪い場所はどことなく暗く感じるのは世界共通らしい。ひたりと足を止めると、ポケットに突っ込んでいた手を頭上に伸ばし、伸びをしつつその空気を存分に味わった。
「やっぱいいねぇこのなんとも言えない緊張感。戻って来た感じがする」
切ない色を口元に載せ、しばし感傷に浸って楽しむ。とは言え、そんな些細な一人遊びをしてもすぐに飽きるもので。再びポケットに手を突っ込んで中の物を引っ張り出しつつ周囲を見渡した。
「ぱっぱらぱっぱっぱー。ナンバーズの無駄機能そのエックスー」
近くにあった電柱。その地面すれすれをあたりを付けて蹴り飛ばす。すると、薄い蓋が吹き飛ばされ、その下から電子系の穴が露出する。何らかの理由で付与された機能だろうが、聖月にはどうでもいい。偶然発見した時から、ついでに上手い利用方法を考え付き、それ以来はお世話になり続けている代物である。
「龍に説教を受け続けてなお使い続け、結局、龍が根負けさせた数少ない戦利品。スイッチオーン」
ポケットから取り出したのは、非常にコンパクトな仕様をしたパソコン。それと電柱をコードでつなぎ、電源ボタンを押す。演算機能に多少の何があるが、そこはチートじみた頭脳を持つ、自他共に認める頭脳派である。多少の事は自分で計算してカバーする。電子機器が使える事が重要。
「よるのまちー、でんちゅうー、にゅくすー、すさのおー。やのつくじえいぎょー、あきかんー、けんかー」
段々本題からずれた単語になっていくが、楽しそうに歌いながら軽やかにキーを叩く聖月。非常に楽しそうで何よりなのだが、昔の仲間達がいたら引きつった顔をして後ずさりしていただろう。なにせ、歌詞が少しずつ物騒になっていく上に、怖ろしい音痴によって外れた音程の歌が弾んでいるのだ。竜崎との喧嘩理由の筆頭であり、聖月に心酔する少年達にとって唯一に近い、改善してほしいポイント。聖月に自覚がないのが残念な所であったりする。
「うっわ。ひさしぶり」
思わず零れ出た言葉と共に、そっと鏡に手を振れた。同じ動作で手を伸ばしてきた虚像と指先を振れ合わせると、唯一見える口元がゆるりと孤を描くのが見えた。
「……っし。行きますか」
それまでは何処か憂いを含んだ空気を纏っていた少年は、軽快な動きで身を翻し部屋を後にした。その背なかには、すでに、憂いの色は完璧に拭い去られていた。
今にもスキップしそうな軽快な足取りで聖月は夜の街を歩いていた。ここは第九学園を要する第九特別区。広大な敷地に最先端の技術を詰め込んで開発した、世界でも有数の巨大都市の一つ。第九とつくことから察する事が出来るだろうが、勿論、第一学園から第九学園までを擁する都市が存在し、それぞれ学園の数字に対応した都市名を持つ。正確には、開発された都市に数字が振られ、その後に学園が設立されたのだがそれは余談。付け加えると、これらの九つの都市は総称してこう呼ばれている。ナンバーズ、と。
聖月は煌々と照っている電灯を避け、寧ろその光によって創られる闇に同化するように歩いていた。昔から空気に溶け込むのは得意だった。白髪が目立つものの、それが視界に入って振り向くと、既に人込みに紛れて気の所為だったと思わせる。メリハリをつける事が大切なのだ、と薄い胸を張って悪戯に使う度に竜崎に頭を叩かれ説教を受けたものである。
「おおっと。イケナイイケナイ。久しぶり過ぎてテンション上がってた」
などど、下らない事を考えている内に周囲が闇色を増してきたのに気付き、意識を切り替える。治安の悪い場所はどことなく暗く感じるのは世界共通らしい。ひたりと足を止めると、ポケットに突っ込んでいた手を頭上に伸ばし、伸びをしつつその空気を存分に味わった。
「やっぱいいねぇこのなんとも言えない緊張感。戻って来た感じがする」
切ない色を口元に載せ、しばし感傷に浸って楽しむ。とは言え、そんな些細な一人遊びをしてもすぐに飽きるもので。再びポケットに手を突っ込んで中の物を引っ張り出しつつ周囲を見渡した。
「ぱっぱらぱっぱっぱー。ナンバーズの無駄機能そのエックスー」
近くにあった電柱。その地面すれすれをあたりを付けて蹴り飛ばす。すると、薄い蓋が吹き飛ばされ、その下から電子系の穴が露出する。何らかの理由で付与された機能だろうが、聖月にはどうでもいい。偶然発見した時から、ついでに上手い利用方法を考え付き、それ以来はお世話になり続けている代物である。
「龍に説教を受け続けてなお使い続け、結局、龍が根負けさせた数少ない戦利品。スイッチオーン」
ポケットから取り出したのは、非常にコンパクトな仕様をしたパソコン。それと電柱をコードでつなぎ、電源ボタンを押す。演算機能に多少の何があるが、そこはチートじみた頭脳を持つ、自他共に認める頭脳派である。多少の事は自分で計算してカバーする。電子機器が使える事が重要。
「よるのまちー、でんちゅうー、にゅくすー、すさのおー。やのつくじえいぎょー、あきかんー、けんかー」
段々本題からずれた単語になっていくが、楽しそうに歌いながら軽やかにキーを叩く聖月。非常に楽しそうで何よりなのだが、昔の仲間達がいたら引きつった顔をして後ずさりしていただろう。なにせ、歌詞が少しずつ物騒になっていく上に、怖ろしい音痴によって外れた音程の歌が弾んでいるのだ。竜崎との喧嘩理由の筆頭であり、聖月に心酔する少年達にとって唯一に近い、改善してほしいポイント。聖月に自覚がないのが残念な所であったりする。
24
あなたにおすすめの小説
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる