学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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邂逅

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 奮発して買った少し大き目な姿鏡。その前に立ち、大きめでゆったりした黒いパーカーを頭から被る。もぞもぞとパーカーの中で出口を探し、ぷはっと顔を出すとこれまたもぞもぞと袖を通す。体格を隠す為と病的なまでに白い肌を隠すには最適だけど、着にくいんだよなぁと内心ぶつくさ言いつつ、深めの黒キャップを手に取る。そっと目を伏せて帽子を被ると、久々の感覚に自然と口角が上がるのを感じた。うつむき気味の顔を上げ瞼を開くと、そこには全身黒の衣装に身を包み目元を隠した白髪の姿が映っていた。

 「うっわ。ひさしぶり」

 思わず零れ出た言葉と共に、そっと鏡に手を振れた。同じ動作で手を伸ばしてきた虚像と指先を振れ合わせると、唯一見える口元がゆるりと孤を描くのが見えた。

 「……っし。行きますか」

 それまでは何処か憂いを含んだ空気を纏っていた少年は、軽快な動きで身を翻し部屋を後にした。その背なかには、すでに、憂いの色は完璧に拭い去られていた。



 今にもスキップしそうな軽快な足取りで聖月は夜の街を歩いていた。ここは第九学園を要する第九特別区。広大な敷地に最先端の技術を詰め込んで開発した、世界でも有数の巨大都市の一つ。第九とつくことから察する事が出来るだろうが、勿論、第一学園から第九学園までを擁する都市が存在し、それぞれ学園の数字に対応した都市名を持つ。正確には、開発された都市に数字が振られ、その後に学園が設立されたのだがそれは余談。付け加えると、これらの九つの都市は総称してこう呼ばれている。ナンバーズ、と。

 聖月は煌々と照っている電灯を避け、寧ろその光によって創られる闇に同化するように歩いていた。昔から空気に溶け込むのは得意だった。白髪が目立つものの、それが視界に入って振り向くと、既に人込みに紛れて気の所為だったと思わせる。メリハリをつける事が大切なのだ、と薄い胸を張って悪戯に使う度に竜崎に頭を叩かれ説教を受けたものである。

 「おおっと。イケナイイケナイ。久しぶり過ぎてテンション上がってた」

 などど、下らない事を考えている内に周囲が闇色を増してきたのに気付き、意識を切り替える。治安の悪い場所はどことなく暗く感じるのは世界共通らしい。ひたりと足を止めると、ポケットに突っ込んでいた手を頭上に伸ばし、伸びをしつつその空気を存分に味わった。

 「やっぱいいねぇこのなんとも言えない緊張感。戻って来た感じがする」

 切ない色を口元に載せ、しばし感傷に浸って楽しむ。とは言え、そんな些細な一人遊びをしてもすぐに飽きるもので。再びポケットに手を突っ込んで中の物を引っ張り出しつつ周囲を見渡した。 

 「ぱっぱらぱっぱっぱー。ナンバーズの無駄機能そのエックスー」

 近くにあった電柱。その地面すれすれをあたりを付けて蹴り飛ばす。すると、薄い蓋が吹き飛ばされ、その下から電子系の穴が露出する。何らかの理由で付与された機能だろうが、聖月にはどうでもいい。偶然発見した時から、ついでに上手い利用方法を考え付き、それ以来はお世話になり続けている代物である。

 「龍に説教を受け続けてなお使い続け、結局、龍が根負けさせた数少ない戦利品。スイッチオーン」

 ポケットから取り出したのは、非常にコンパクトな仕様をしたパソコン。それと電柱をコードでつなぎ、電源ボタンを押す。演算機能に多少の何があるが、そこはチートじみた頭脳を持つ、自他共に認める頭脳派である。多少の事は自分で計算してカバーする。電子機器が使える事が重要。

 「よるのまちー、でんちゅうー、にゅくすー、すさのおー。やのつくじえいぎょー、あきかんー、けんかー」

 段々本題からずれた単語になっていくが、楽しそうに歌いながら軽やかにキーを叩く聖月。非常に楽しそうで何よりなのだが、昔の仲間達がいたら引きつった顔をして後ずさりしていただろう。なにせ、歌詞が少しずつ物騒になっていく上に、怖ろしい音痴によって外れた音程の歌が弾んでいるのだ。竜崎との喧嘩理由の筆頭であり、聖月に心酔する少年達にとって唯一に近い、改善してほしいポイント。聖月に自覚がないのが残念な所であったりする。



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