学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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逃走

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 風紀委員会。学園の秩序を保つ、警察の役目を負う生徒たち。腕っぷし、もしくはそれ以外で治安維持に何らかの形で貢献できるだけの能力を持つ事が必須となる、学園の尊敬と畏怖を一身に浴びる存在。つまり、何が言いたいかというと。

 「俺たちは治安維持の為に追いかける事はあっても追いかけられる立場じゃないんだが」

 竜崎は人込みの中、ひっそりと頭を抱えていた。

 学園祭二日目。何時ものごとく仕事に追われていた風紀委員。今切実に求めるのは休息と食事、これが終わったら一週間寝倒してやる、と幽鬼もかくやといった表情で颯斗が叫んだ、と聞けば彼らの状況がよく分かるだろう。彼らが今一番に願うのはこれ以上、騒ぎを起こさないでくれ仕事を増やさないでくれ、である。

 そんな中、竜崎は学園内を足早に歩いていた。デスクワークも終わらない位たんまりあるのだが、風紀室に閉じこもっているだけでは解決しない仕事もあるわけで。お使いを頼める精神状態ではない颯斗を見かねて、各所を回っているのだ。気分転換も兼ねて。

 「盛大だな」

 ここ数年目にしている学園祭の風景に、改めて感嘆が漏れる。普段は外部を遮断する学園。それが一般公開されるとなれば、多くの人間が訪れる。張り切った生徒たちの熱気も相まって、いつも以上に賑やかだ。

 仕事の多さには辟易するが、悪くない。

 そんな風に思えるのが、竜崎の竜崎たるゆえんだろう。竜崎は生徒会室へ向けて再び歩き出した。

 のだが。

 「どうしてこうなった?!」

 竜崎の顏が盛大に引きつっていた。普通に移動していたはずが、外部の女性たちに捕まり。捌こうとするも、寝不足の頭の動きが鈍く。あれよあれよという間に、女性の数が増え。最終的には、竜崎の親衛隊まで出現したのだ。

 「ちょっと、アタシが先に声掛けたのよ!」
 「嘘つきなさいよ!アタシよ!」
 「ちょっと、竜崎様は、学園の方です!外部の人に靡く訳無いでしょ!」
 「竜崎様は僕たちの竜崎様なんだから、とっととどっか行きなさいよ!」
 「ちょ、仕事中だと何度言えばって、何処触ってやがる」

 これだけ見れば、竜崎の親衛隊が竜崎を守ろうとしているように見えるかもしれない。しかし、現れたのが所謂過激派だったのが運の尽き。守るどころか、徐々に普段は近づけない竜崎を誘惑してくる始末。遠慮も何もない人の群れに、竜崎の堪忍袋の緒が切れそうになる。ただでさえ疲労で沸点が低くなっているのだ。立場的にマズい、と理性警鐘を鳴らすが、止められなかった。

 「いい加減にっ」
 「きゃー!助けて!」

 込み上げる苛立ちに八つ当たりを過分に込めて低く叫んだ瞬間。近くで甲高い声が上がった。流石に何年も風紀をやっていれば自然と反応する。さっと顔色を変えて振り返る。いきなり纏う雰囲気が変わったのに気付いたのだろう。周囲の者達が一瞬動きを止めた。すると、その時。

 「こっち」

 小さく囁かれたと思うと、くいっと袖を引かれた。咄嗟の事につい従う。すると、先程まで動けなかった人込みから簡単に抜け出せた。不意を突かれると、ここまで簡単に動きを止めて、相手の動きに対応できなくなるんだなと竜崎は感心する。颯斗に聞かれれば、今はそんな場合じゃないだろうと怒鳴られるだろうが。

 「あ、竜崎様!」

 流石に我に返る親衛隊の者達。それに触発されて、それ以外の者達も動き出す。しかし、その時には既に竜崎は走り出していた。人込みから竜崎を引きずり出した、黒髪のメイドの恰好をした少女に手を引かれて。

 後ろから、鬼の形相をした大勢が追いかけてくる。前、というか、どこもかしこも人込みで動きずらい。マズい、と竜崎は頭を動かす。しかし、少女は全く意にも介せず人込みに突っ込んでいく。

 「おい!」

 焦って声を掛けるが、少女は足を止めない。寧ろ、良くぞそこまでと褒め称えたくなる勢いで人込みをかき分けて走っている。

 木の葉を隠すなら森の中。人から逃げるなら人込みの中ってね。

 懐かしい声が耳元で再生される。遠い記憶の中の声。今は近くに居ない愛おしい声に、竜崎は痛みに目を細めた。

 右へ左へ、上へ下へ。勢いよく校内を駆け抜ける。そうしているうちに背後の声も少なくなり、周囲の声もなくなってくる。その先は使用されていない空き教室のある区画。どうするつもりだ、と竜崎が口を開く前に、その内の一つに押し込められた。漸く顔を見る事が出来、振り返った竜崎は目を見開いた。

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