学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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暗雲

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 特殊な学園とは言え、その活動内容自体はそこまで他の学校と乖離しているわけではない。三学期制で、それぞれに中間・期末試験があり、それ以外に、人にもよるが一ヶ月に一度の模試がある。イベントとしては、新入生歓迎会は特殊にあるとしても、学園祭、体育祭、芸術祭等、ありふれたものだ。

 つまり、何が言いたいかというと。

 「今学期のイベントは?」
 「体育祭。でも、大人しくしててよ」

 二学期が始まって暫く後。Nukusとkronosに仕掛けたゲームがひと段落したその後、聖月は風紀に入り浸っている……と言う訳ではなかった。放課後には通っているものの、親衛隊に目を付けられたくないと叫んだ聖月が逃げ回っているのだ。

 やっと取り戻した恋人のつれない様子に竜崎が青筋を立てているのはご愛嬌。最近では、怜毅と画策してウィッグを奪い取ろう作戦を立てているとかいないとか。さしもの聖月も絶句し、更に逃げる事を決意した。悪循環である。哀れなのは、それに付き合わされる周囲の人間であるのだが。

 そんな訳で、聖月は何時のも通り教室で蓮に絡んでいた。今は午後の授業中。自習だった為、さっさと課題を終わらせて話をしているのだ。周りも似たり寄ったりなので堂々と話が出来る。やる事やれば自己責任の学園らしい光景である。

 「体育祭かぁ。何やるの?」
 「具体的には、大したことは別に。騎馬戦とかリレーとか一般的なのが多いかな。変わり種で言うと、借り物競争とか、障害物競争とか?」
 「え、普通じゃない?」
 「借り物競争の内容がえげつないのと、コスプレしての障害物競走でもかい?」
 「うん、ごめん甘かった」

 特殊な環境で過ごしてきた学園生の蓮が、えげつないというのだ。想像に余りある。しかも、普通に男だてらに化粧をしている者が少なくない学園におけるコスプレ。何が出てくるやら、と聖月は顔を引きつらせる。なんとも言えない顔をしていた蓮だったが、心の底から懇願するように呟いた。

 「何が何でも、障害物競争と借り物競争は嫌」

 学園祭の女装を思い出しているのか、死んだ魚の目をしている蓮。これは委員長とクラス実行委員に注目だな、と思った聖月だった。


 「っていう話をしていたんだけど」

 カリカリと持ち込んだクッキーをかじりながら聖月は言った。放課後、逃亡しようとした聖月の前に現れた竜崎によって拉致され、風紀室に放り込まれていた。

 「僕、何もやっていないので風紀にご迷惑をお掛けするのは」
 「安心しろ。風紀委員長の権限で、めぼしいヤツはさっさと引き抜いて委員予備軍にすることは少なくない」

 くりっとした目で上目遣いに行ってみたが、火に油を注いだだけだったらしい。男の色気満開の美しい笑みを浮かべられれば、逃げ道はなかった。

 今こそ仕事をするべきだろう親衛隊!と周囲を見回すも、好意的な視線のみ。隠し切れない美貌に加え、屈託のない性格、学年トップの成績ともくれば、風紀に引っ張られるのも無理はない、と納得してしまっていたのだ。親衛隊にも、竜崎達から根回し済み。印象操作と噂を流す事で事を上手く進めていたらしい。悔しそうではあるが、渋々認めるといった感じの彼らを見て、開いた口が閉じない聖月だった。

 「後手に回ったな。俺の勝ちだ」

 こっそり耳打ちされた内容に、竜崎の脛を思い切り蹴飛ばした聖月は悪くないだろう。しかし、後に、尾鰭背鰭ついて廻ったうわさで"風紀委員長を叩きのめすくらいに強い、頭のいい美人の一年が風紀に加入した"というものがあるのを聞いて更なる撃沈をすることになるのだが。勿論、竜崎の連絡先を削除して着信拒否までするという地味な報復をすることになるのはもう少し先のお話。

 「そうか。じゃあコレ」
 「ちょっと、ナニコレ」

 あっさりと返された挙句、目の前に積まれるのは書類の山。ぎょっと目を見開いて竜崎を見上げると、笑顔で体育祭に関する書類だ、とその書類の山に手を置かれる。

 「いやいや、そういう意味じゃなくてだな。なしてこれが俺の前に」
 「風紀は万年人手不足でな。活動内容的に信頼のおけないヤツを入れられないし、今いるメンバーの殆どは脳筋」
 「つまり、書類仕事をする人間がおらず、龍はともかく、陽も巻き込んで、終は……首輪無しで外歩かせられないから強引に仕込んだ、と」
 「そういう事。それくらい軽いだろ。手伝え」
 「いや、俺部外者」
 「悪いが、そんな事言ってる場合じゃないんでな、聖」

 そういって竜崎の背後に現れたのは怜毅。更に目の前に書類の山を増やされ、頭を抱える聖月。この状態の二人にかかったら、どう足掻いても逃げられないのは身をもって知っている。諦めの境地に至った聖月は、据わった目で書類を一瞥しため息と共に手を伸ばした。

 書類程度だし仕方ないから手伝ってやるか、と一枚目を手に取った聖月は、ふと竜崎に尋ねた。

 「そう言えば、その陽……颯斗は?」
 「最低限の仕事はしている。どうしても気になる事があるから時間をくれといわれているんでな」
 「ふぅん」

 気になる事、が自らに関係する等と夢にも思っていない聖月は珍しいこともある物だと思うだけで片付けてしまった。しれっと聖月に関わる事を調べる時間を聖月に作らせる時点で、竜崎もかなりの腹黒と言っていいだろう。もの言いたげな怜毅は放置して竜崎も仕事に戻った。

 体育祭まであと少し。聖月に迫る暗闇も静かに忍び寄っていた。




 「あった、これだ」

 所変わって颯斗の部屋。全寮制のこの学園では、基本は2人部屋である。しかし、学年主席と風紀、生徒会はその特権として一人部屋を与えられている。例にもれず颯斗も一人部屋を与えられており、自室で調べものをしていた。

 難しい顔で両親や、知り合いの有力者にコンタクトを取っていた颯斗は、もたらされた情報を深堀していた。ハッキングを駆使して深い情報を得るのは晴真に任せるとして、そこまでの道筋を見つけると意気込んでいた颯斗は、ようやく聖月の抱える秘密の扉に手をかける事に成功していた。

 「真水家。あった。やっぱり変な名字だから何処かでみた気がしてたんだよね」

 そう呟いた颯斗の顔は辿り着いたことの喜びに溢れている……と思いきや、益々険しい顔になっていた。ぐったりと椅子に凭れかかった颯斗は、目元を手のひらで覆って呻いた。

 「もしかして、夏休みの高宮との接触、これが理由……?」

 一人真実の一端に辿り着いた颯斗。その眼の前のパソコンには"五大名家相関図"が表示されていた。
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