学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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捕獲

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 「と、言う訳でとりあえず捕まえた」
 「あはは。久しぶりでいいのかな?」

 翌日。風紀委員室に、聖月の姿があった。例のごとく入り浸っている高宮が天を仰ぎ、嵯峨野が絶句したまま固まる。怜毅は何か形容しがたいものを食べたかの様な顔でもの言いたげにしている。

 「なんかもう。今に始まった事じゃないが、お前らのシナリオはどうなってやがる」
 「疲れる事は高宮の世話だけで十分なんですが」
 「……とりあえず、ゲームは終了。お前はこれからもNukusにいるってことでいいだな?」
 「残念なことに、ゲームは俺の負けかなぁ」

 ふふふと、実に楽しそうに笑う聖月。昔から人を振り回す事に生きがいを感じるトラブルメーカーである。性格が悪い。皆の微妙な顔を見れて満足したようだ。しかし、聖月ばかり満足な顔をさせるつもりもないのが竜崎。

 「という事だ、お前ら」
 「へ?」
 「総長ー」
 「聖さぁん」
 「皇帝ぃ」
 「誰だ皇帝なんて言ったやつ……ぅぅわ?!」

 風紀室のドアを開けた瞬間になだれ込んでくるガタイのいい男たち。全員、聖月のいたNukusをしるメンバーである。いい年した男の癖に半泣き……どころかガチ泣きをしている者も少なくない肉ダルマの集団が聖月に襲い掛かる。気に食わない呼び方をされて反射的に叫び返した聖月だったが、その重みに耐えきれず筋肉ダルマたちの下敷きになっていく。

 「ってアレ?聖さんって真っ白な髪ですよね?」
 「人違い……?でも龍さんがいうんだから間違いあるはず……?」
 「つか、そもそも俺ら聖さんの顔見てないから本人なのか分かんねぇや」
 「お前らは馬鹿か馬鹿なのか、というか、とりあえずどけぇ!!」

 顔を見合わせて首を傾げる男たち。脳筋の彼らにはウィッグとカラコンという発想がない。存在を知っていても、それを使って変装しているという思考に結びつかないのだ。はてなマークを浮かべたままの男たちの下で、聖月が怒声をあげてもがく。その知った声に慌てて飛び上がる男たち。

 してやったり、と満足そうな顔で頷く竜崎。似た者コンビか、と高宮が顔をひきつらせたのは余談である。


 男たちに懇々と説教する聖月という非常に珍しい絵面を堪能しながら、高宮は蟀谷を揉んでいた。嵯峨野に至っては何も起こっていなかったとばかりである。頭を振って意識を切り替えた高宮は、隣の男に視線を向けた。

 「で、結局どうなってんだ」
 「さてな。とりあえず下手に動かれないように捕まえただけだ。本当の勝負はこれからだろうな」
 「……」

 あっさりと呟く竜崎に、怜毅がすっと顔を引き締める。そこまで構えなくていい、と手をふりながら、高宮は思案する。颯斗の動向を調べた限り、聖月の秘密に気づく日はそう遠くない。聖月との協定の内容的にはそれを阻止するべきだが、高宮は迷っていた。あーあ、損な役割と思いつつ竜崎に目を向ける。

 「そう遠からず、動きがあるはずだ。と思って動け。俺の守りも万全ではない」
 「……分った」

 竜崎は聖月に視線を向けたまま頷く。そしてやおら立ち上がると聖月に歩み寄っていく。ぎゃーっと怒り狂う聖月を抱き寄せ宥め始める。

 「お前が仕掛けたんだろう馬鹿龍!」
 「これくらいがちょうどいい仕置きだろう」
 「むかつく!」
 「仕置きに俺たちを使わないでください。ちょっと鬼畜」

 子猫の怒りを宥めるようにいなす竜崎。ジタバタと暴れる聖月だが、好いた男の腕の中ゆえか、嬉しそうな雰囲気も見え隠れする。正座を強いられていた男たちが不満の声を上げるが、無視される。がっくりと項垂れる男たち。なかなかシュールな絵面である。

 「結局、恋人が腕の中にいないのに耐えきれなかっただけかあの馬鹿は」
 「なんだ、気付いてなかったのか?」

 ふと思いついた事を口にした高宮だが、驚いたように怜毅に返され撃沈する。聖月といい竜崎と言い、無駄に頭が回るから周囲を振り回す癖に、結局やっている事は恋人同士の追いかけっこという名のじゃれ合い。

 「やってられるか……」

 高宮の嘆きは風紀室の空気に紛れて消えた。

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