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捕獲
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しおりを挟む「皇帝は――聖は死んだ。そう言われるたびに、どんな思いを俺たちがしてきた事か」
「うん。皆優しいもんね」
突如姿を消した聖月を、竜崎を始めNukusも、kronosも必死に探した。その頃には、聖月は彼らにとって大きすぎる存在になっていた。彼らを纏め、彼らを象徴するものとなっていたからだ。しかし、どれだけ手を尽くしても聖月は見つからず、姿の見えない事を周囲は揶揄したのだ。どこぞで野垂れ死にしたのではないか、と。
「俺たちは信じなかった。死体を見ていない、死体を見るまでは信じる者か、と皆で決めた」
「しつこい人達」
困ったように笑う聖月。笑いごとか、と竜崎は頭を倒して聖月にぶつける。あの時、見つからない聖月に皆が絶望していた。聖月のいないNukusなどNukusではないと言い放った者もいた始末。竜崎はそれを咎めなかった。竜崎の思いは、聖月に代わって総長の座につかなかった行動で、皆が察するところにあった。しかし、皆が立ち止まっていても時間は過ぎて行くもので。竜崎もまた、進路という大きな悩みに直面していた。
「お前が消えた後、それでも俺たちの様などうしようもない奴らは沢山いて。助けを求められたこともあった」
「あはは。結局お人好しは変わらなかったし、見てみぬふり出来なかったか。らしいといえばらしいし、そこが好きだったんだけど」
夜の街でうろついていた者達は、殆ど例外なく第九学園高等部に吸い込まれていった。家が名家に成程、その汚名を疎んだ親に放り込まれる。しかし、当時の第九学園は、類を見ない程に荒れていた。中等部までは義務教育の名のもとに国が管理する。
しかし、高等部は違った。生徒自治、きこえはいいが、失敗すると学園崩壊まで引き起こす。その一歩手前まで来ていたのだ。Nukusに居場所を求める者達の嘆き。その求めに、竜崎は手を差し伸べたのだ。それが、彼の愛した聖月の意志であると信じて。
「俺たちNukusは、居場所を、尊厳を守る為に集まった。身を守るためのチーム。自警団に近い存在。だから風紀になった」
「で、お人好しのもう一つのチームまでついてきちゃって?元々この辺を治めていたのはkronosだから、生徒を治める生徒会になったって?」
「ご明察」
巻き込むつもりはなかったが、何処からともなく聞きつけた高宮が俺もやる、と勝手に乗ってきたのだ。高宮の癖に、と突っぱねようとしたのだが、疲れ切った嵯峨野に言われたのだ。こうなったら諦めるしかないと。すったもんだの末に、再び共闘関係が成立したのだ。
「それから二年、か。よくあそこまで回復したね」
「高宮と嵯峨野の能力が想像以上だった。お互い、それぞれの領分に集中できたのが大きい。それに、イレギュラーまで存在したしな」
「古宮、か」
元々第九学園を根とする古宮家の跡取り。Fクラスに近づく程に、彼の影響は強くなる。そして、彼を中心に一定の秩序が保たれる。なんの因果か、高宮の跡取りと高宮の跡取り、それに匹敵する能力を持つ竜崎。良くも悪くも、この三人の天才が一同に会したことで、学園を再生出来たのだ。
「なんともまぁ、因果だねぇ」
「何を呑気な。どれだけ苦労させられたことか」
ほけほけと他人ごとな聖月。竜崎はため息を殺すことが出来なかったようだ。ゆっくりと顔を上げて、空を見つめる。薄暗い闇に包まれているせいか、学園にいるよりも星の数が多い。竜崎は目を細めた。
「やっとの思いで学園を立て直した」
「うん」
「学年が違った怜毅にも颯斗にも晴真にも、果てには悠茉さんにまで手を借りた」
「うん」
「Nukusもkronosも、皆が笑ってた。それ以外の生徒も、普通に生活できるようになった」
「うん」
「でも、お前がいなかった」
「うん」
「お前だけが、いなかった」
「……うん」
すっと立ち上がった竜崎は、振り返る。じっとその細い背中を見つめると、ゆっくりと聖月が振り返る。その顔を隠す黒のキャップをとると、月明りが整った顔を照らし出す。
「今度見つけたら、離さない、逃がすものかと決めた。だから、容赦はしない」
「あらら、想像以上に物騒な愛の告白ですこと」
「言ってろ。お前のペースに任せていたら話が進まん」
今度は竜崎が手を伸ばす番。最初に聖月に拾われた時とは逆。差し出された筋張った手に、聖月は微笑んで手を伸ばす。そっと重なった手はそのまま勢いよく引かれ。聖月の華奢な体は、大きな熱い体にすっぽりと包みこまれた。
「お前は、真水聖月。第九学園の一年。俺の、恋人だ」
「ふふふ。見つけるのが早すぎ。これじゃゲームにならないよ」
「煩い。言っただろ、お前のペースに任せていたら」
「話が進まないって?」
ぎゅっとその胸にしがみついた聖月はゆっくりと顔を上げて、鮮やかに笑った。
「俺の負け、かな」
「とりあえずは、な」
二人の影が重なって、熱いキスが交わされる。二人の関係が、また一歩進んだ瞬間で。共に生きるか別れるかの大きな選択が迫られる分岐点に差し掛かった瞬間だった。
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