学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

文字の大きさ
47 / 84
暗雲

4

しおりを挟む
 そうこうしている内に、次々と競技が行われ、借り物競争の時間となった。

 「頑張れ、蓮君」
 「恨んでやる」

 ひらひらと手を振ると、親の仇とでも言わんばかりに睨まれた。勿論、ニヤニヤと煽る笑顔をお返ししておいたが。さて、えげつないお題ってなんだろうかと、野次馬精神むき出しである。

 『よぉぉい、すたーとっ!』

 テンションが復活した放送委員長。その掛け声と共にピストルの音が鳴り、生徒たちが走っていく。因みに、委員長の暴走に関しては最早副委員長は諦めたようだ。拗ねられるよりかはいいといったところだろうか。

 で、肝心の内容は。

 視線をトラックに向けると、トップでお題に到達した少年が箱から紙を取り出した瞬間に、顔をひきつらせた。絶句して迷っていたようだが、それも一瞬のこと。勢いよく教師陣の待機スペースに突っ込んでいったかと思ったら。

 「うわぁお」

 ぎゃーっと悲鳴が上がる。隣の教師と話をしていた教頭の一瞬の隙をついて、。まるで一陣の風のような芸当。教頭も己の髪が引き剥がされた事に気付かず話をしていたが、相手の視線が泳いでいるのに気付き、周囲を見渡し、その頭に手を当てて。

 悲鳴……というか、怒声が上がった。

 『おおっと、1年の部。最初にゴールしたのはSクラス!』

 怒り狂う教頭の元から脱兎のごとく逃げ去りゴールしたその彼は、ぱっと実行委員にを手渡す。ついでにお題の紙も。

 『お題は、教頭先生のかつら!1位でゴール!しかぁし、追いかけてきた教頭先生が何か言いたげ!先生どうぞ!』
 『この生徒は失格!それから、私のそれはウィッグだ!かつらじゃない!』
 『鶴の一声!1年Sクラス、最下位です!』

 「え、まじか」

 凄まじいブーイングが巻き起こり、少年ががっくりと沈み込む。聖月も顔をひきつらせた。理不尽過ぎる。蓮がえげつないと言っていた意味がよく分かる。

 「もう少しマトモな事出来ないの。この学園」

 乾いた笑いしかでない聖月だった。


 結果的に、蓮はマトモなお題を引いたらしい。学園の備品である椅子、というお題を引いたようで。本人は籤運の良さに半泣きだった。もっとも、えっちらおっちら椅子を運んでいる小柄な少年の姿は可愛らしく、ファンが増えたというか、なんとも暖かい視線が蓮に突き刺さっていたようだが。

 委員にめっちゃ褒められて労わられたんだけど、アレ何。戻って来た蓮が蟀谷を引きつらせていたのを見て、周囲の反応を黙っているという滅多にない優しさを発揮した聖月だった。

 不機嫌な蓮を宥めている内に、3年生迄来たようだ。ひときわ大きな歓声に、何事かと視線を向けるとそこには竜崎がいた。

 「そう言えば、風紀も参加だっけ」
 「書類仕事手伝ってたんでしょ。風紀も生徒会も参加だよ。仕事しつつだけどね」
 「そんな書類を見たような見てないような」

 くだらないことを話していると、ピストルの乾いた音が響きレースが始まった。長い足を惜しげもなく使用して悠々と一番先に辿り着いた竜崎は、ためらうことなく箱に手を突っ込んだ。

 「なに引くと思う?」
 「さぁ?」

 龍って昔から妙にこう言う運だけはいいからなぁと内心思いつつ傍観していた聖月だったが。クルリと、振り返った竜崎と目が合った瞬間、嫌な予感が全身を駆け巡った。

 「アレ、こっちは知って来てない委員長?」
 「うわぁ、嫌な予感しかない」

 こっそり逃げたいが、竜崎から逃げられた覚えはない。後でお仕置きされるのも怖いし、と逃亡を諦める。あっという間に目の前まで来た竜崎は、周囲の黄色と黄土色の混じった悲鳴を無視して、すっと手を差し伸べてきた。

 「えっと、この手、その心は」
 「黙ってついて来い」

 凛々しい顔と相まって、非常にかっこいい。周囲の反応から見て聖月の贔屓目は然して入っていないだろう。カッコいいのだが。聖月は冷たいものが背筋を滑り落ちるのを感じた。

 「拒否権は」
 「黙って、ついて、来い」

 がしっと、腕を……ではなく腰を掴まれ勢いよく持ちあげられる。悲鳴を漏らす暇もない。そのまま視界がぶれる。何が起きたのか理解したのはその視界が落ち着いた時。気が付くとゴールにいた。竜崎に片腕で縦抱っこされている状況で周囲をキョロキョロと見回し。竜崎がお題の紙を提出するところを呆然と見つめていた。

 『生徒から絶大な人気と信頼を得ている風紀委員長!生徒会長と人気を二分する絶対王者の一人の引いたお題は……』

 そこ、溜めないでいいからさっさと教えろ!と聖月が声なき悲鳴を上げる。

 『なぁンと!王道なお題"好きな人"!ネタお題をまさかの風紀委員長が引いたぁ!しかも、迷うことなくお相手を連れてきた!』

 地響きがする程の悲鳴が上がる。ニヤリと笑う竜崎。視界の端では笑い転げる風紀と生徒会の面々が。挙句の果てに、動揺して動けない聖月の顎をとらえた竜崎が、深いキスを聖月に施す始末。

 「んんん⁈」
 「っ。コレ、俺のだから、手、出すなよ」

 雄のフェロモン駄々洩れの、独占欲に満ちたシニカルな笑みで周囲を睥睨する。マイクで拾ったその声を、全校生徒に届け。更なる悲鳴が上がった。ぐいっと聖月を抱きしめて満足そうに笑う竜崎は気付かなかった。その腕の中で青ざめる聖月の顔に。そして、「やりやがった、あの馬鹿」と小さく呟いて苦々し気な顔をする高宮と、その背後で血相を変えてスマホを弄る嵯峨野の姿に。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...