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暗雲
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そうこうしている内に、次々と競技が行われ、借り物競争の時間となった。
「頑張れ、蓮君」
「恨んでやる」
ひらひらと手を振ると、親の仇とでも言わんばかりに睨まれた。勿論、ニヤニヤと煽る笑顔をお返ししておいたが。さて、えげつないお題ってなんだろうかと、野次馬精神むき出しである。
『よぉぉい、すたーとっ!』
テンションが復活した放送委員長。その掛け声と共にピストルの音が鳴り、生徒たちが走っていく。因みに、委員長の暴走に関しては最早副委員長は諦めたようだ。拗ねられるよりかはいいといったところだろうか。
で、肝心の内容は。
視線をトラックに向けると、トップでお題に到達した少年が箱から紙を取り出した瞬間に、顔をひきつらせた。絶句して迷っていたようだが、それも一瞬のこと。勢いよく教師陣の待機スペースに突っ込んでいったかと思ったら。
「うわぁお」
ぎゃーっと悲鳴が上がる。隣の教師と話をしていた教頭の一瞬の隙をついて、その髪を引きはがしたのだ。まるで一陣の風のような芸当。教頭も己の髪が引き剥がされた事に気付かず話をしていたが、相手の視線が泳いでいるのに気付き、周囲を見渡し、その頭に手を当てて。
悲鳴……というか、怒声が上がった。
『おおっと、1年の部。最初にゴールしたのはSクラス!』
怒り狂う教頭の元から脱兎のごとく逃げ去りゴールしたその彼は、ぱっと実行委員に髪を手渡す。ついでにお題の紙も。
『お題は、教頭先生のかつら!1位でゴール!しかぁし、追いかけてきた教頭先生が何か言いたげ!先生どうぞ!』
『この生徒は失格!それから、私のそれはウィッグだ!かつらじゃない!』
『鶴の一声!1年Sクラス、最下位です!』
「え、まじか」
凄まじいブーイングが巻き起こり、少年ががっくりと沈み込む。聖月も顔をひきつらせた。理不尽過ぎる。蓮がえげつないと言っていた意味がよく分かる。
「もう少しマトモな事出来ないの。この学園」
乾いた笑いしかでない聖月だった。
結果的に、蓮はマトモなお題を引いたらしい。学園の備品である椅子、というお題を引いたようで。本人は籤運の良さに半泣きだった。もっとも、えっちらおっちら椅子を運んでいる小柄な少年の姿は可愛らしく、ファンが増えたというか、なんとも暖かい視線が蓮に突き刺さっていたようだが。
委員にめっちゃ褒められて労わられたんだけど、アレ何。戻って来た蓮が蟀谷を引きつらせていたのを見て、周囲の反応を黙っているという滅多にない優しさを発揮した聖月だった。
不機嫌な蓮を宥めている内に、3年生迄来たようだ。ひときわ大きな歓声に、何事かと視線を向けるとそこには竜崎がいた。
「そう言えば、風紀も参加だっけ」
「書類仕事手伝ってたんでしょ。風紀も生徒会も参加だよ。仕事しつつだけどね」
「そんな書類を見たような見てないような」
くだらないことを話していると、ピストルの乾いた音が響きレースが始まった。長い足を惜しげもなく使用して悠々と一番先に辿り着いた竜崎は、ためらうことなく箱に手を突っ込んだ。
「なに引くと思う?」
「さぁ?」
龍って昔から妙にこう言う運だけはいいからなぁと内心思いつつ傍観していた聖月だったが。クルリと、振り返った竜崎と目が合った瞬間、嫌な予感が全身を駆け巡った。
「アレ、こっちは知って来てない委員長?」
「うわぁ、嫌な予感しかない」
こっそり逃げたいが、竜崎から逃げられた覚えはない。後でお仕置きされるのも怖いし、と逃亡を諦める。あっという間に目の前まで来た竜崎は、周囲の黄色と黄土色の混じった悲鳴を無視して、すっと手を差し伸べてきた。
「えっと、この手、その心は」
「黙ってついて来い」
凛々しい顔と相まって、非常にかっこいい。周囲の反応から見て聖月の贔屓目は然して入っていないだろう。カッコいいのだが。聖月は冷たいものが背筋を滑り落ちるのを感じた。
「拒否権は」
「黙って、ついて、来い」
がしっと、腕を……ではなく腰を掴まれ勢いよく持ちあげられる。悲鳴を漏らす暇もない。そのまま視界がぶれる。何が起きたのか理解したのはその視界が落ち着いた時。気が付くとゴールにいた。竜崎に片腕で縦抱っこされている状況で周囲をキョロキョロと見回し。竜崎がお題の紙を提出するところを呆然と見つめていた。
『生徒から絶大な人気と信頼を得ている風紀委員長!生徒会長と人気を二分する絶対王者の一人の引いたお題は……』
そこ、溜めないでいいからさっさと教えろ!と聖月が声なき悲鳴を上げる。
『なぁンと!王道なお題"好きな人"!ネタお題をまさかの風紀委員長が引いたぁ!しかも、迷うことなくお相手を連れてきた!』
地響きがする程の悲鳴が上がる。ニヤリと笑う竜崎。視界の端では笑い転げる風紀と生徒会の面々が。挙句の果てに、動揺して動けない聖月の顎をとらえた竜崎が、深いキスを聖月に施す始末。
「んんん⁈」
「っ。コレ、俺のだから、手、出すなよ」
雄のフェロモン駄々洩れの、独占欲に満ちたシニカルな笑みで周囲を睥睨する。マイクで拾ったその声を、全校生徒に届け。更なる悲鳴が上がった。ぐいっと聖月を抱きしめて満足そうに笑う竜崎は気付かなかった。その腕の中で青ざめる聖月の顔に。そして、「やりやがった、あの馬鹿」と小さく呟いて苦々し気な顔をする高宮と、その背後で血相を変えてスマホを弄る嵯峨野の姿に。
「頑張れ、蓮君」
「恨んでやる」
ひらひらと手を振ると、親の仇とでも言わんばかりに睨まれた。勿論、ニヤニヤと煽る笑顔をお返ししておいたが。さて、えげつないお題ってなんだろうかと、野次馬精神むき出しである。
『よぉぉい、すたーとっ!』
テンションが復活した放送委員長。その掛け声と共にピストルの音が鳴り、生徒たちが走っていく。因みに、委員長の暴走に関しては最早副委員長は諦めたようだ。拗ねられるよりかはいいといったところだろうか。
で、肝心の内容は。
視線をトラックに向けると、トップでお題に到達した少年が箱から紙を取り出した瞬間に、顔をひきつらせた。絶句して迷っていたようだが、それも一瞬のこと。勢いよく教師陣の待機スペースに突っ込んでいったかと思ったら。
「うわぁお」
ぎゃーっと悲鳴が上がる。隣の教師と話をしていた教頭の一瞬の隙をついて、その髪を引きはがしたのだ。まるで一陣の風のような芸当。教頭も己の髪が引き剥がされた事に気付かず話をしていたが、相手の視線が泳いでいるのに気付き、周囲を見渡し、その頭に手を当てて。
悲鳴……というか、怒声が上がった。
『おおっと、1年の部。最初にゴールしたのはSクラス!』
怒り狂う教頭の元から脱兎のごとく逃げ去りゴールしたその彼は、ぱっと実行委員に髪を手渡す。ついでにお題の紙も。
『お題は、教頭先生のかつら!1位でゴール!しかぁし、追いかけてきた教頭先生が何か言いたげ!先生どうぞ!』
『この生徒は失格!それから、私のそれはウィッグだ!かつらじゃない!』
『鶴の一声!1年Sクラス、最下位です!』
「え、まじか」
凄まじいブーイングが巻き起こり、少年ががっくりと沈み込む。聖月も顔をひきつらせた。理不尽過ぎる。蓮がえげつないと言っていた意味がよく分かる。
「もう少しマトモな事出来ないの。この学園」
乾いた笑いしかでない聖月だった。
結果的に、蓮はマトモなお題を引いたらしい。学園の備品である椅子、というお題を引いたようで。本人は籤運の良さに半泣きだった。もっとも、えっちらおっちら椅子を運んでいる小柄な少年の姿は可愛らしく、ファンが増えたというか、なんとも暖かい視線が蓮に突き刺さっていたようだが。
委員にめっちゃ褒められて労わられたんだけど、アレ何。戻って来た蓮が蟀谷を引きつらせていたのを見て、周囲の反応を黙っているという滅多にない優しさを発揮した聖月だった。
不機嫌な蓮を宥めている内に、3年生迄来たようだ。ひときわ大きな歓声に、何事かと視線を向けるとそこには竜崎がいた。
「そう言えば、風紀も参加だっけ」
「書類仕事手伝ってたんでしょ。風紀も生徒会も参加だよ。仕事しつつだけどね」
「そんな書類を見たような見てないような」
くだらないことを話していると、ピストルの乾いた音が響きレースが始まった。長い足を惜しげもなく使用して悠々と一番先に辿り着いた竜崎は、ためらうことなく箱に手を突っ込んだ。
「なに引くと思う?」
「さぁ?」
龍って昔から妙にこう言う運だけはいいからなぁと内心思いつつ傍観していた聖月だったが。クルリと、振り返った竜崎と目が合った瞬間、嫌な予感が全身を駆け巡った。
「アレ、こっちは知って来てない委員長?」
「うわぁ、嫌な予感しかない」
こっそり逃げたいが、竜崎から逃げられた覚えはない。後でお仕置きされるのも怖いし、と逃亡を諦める。あっという間に目の前まで来た竜崎は、周囲の黄色と黄土色の混じった悲鳴を無視して、すっと手を差し伸べてきた。
「えっと、この手、その心は」
「黙ってついて来い」
凛々しい顔と相まって、非常にかっこいい。周囲の反応から見て聖月の贔屓目は然して入っていないだろう。カッコいいのだが。聖月は冷たいものが背筋を滑り落ちるのを感じた。
「拒否権は」
「黙って、ついて、来い」
がしっと、腕を……ではなく腰を掴まれ勢いよく持ちあげられる。悲鳴を漏らす暇もない。そのまま視界がぶれる。何が起きたのか理解したのはその視界が落ち着いた時。気が付くとゴールにいた。竜崎に片腕で縦抱っこされている状況で周囲をキョロキョロと見回し。竜崎がお題の紙を提出するところを呆然と見つめていた。
『生徒から絶大な人気と信頼を得ている風紀委員長!生徒会長と人気を二分する絶対王者の一人の引いたお題は……』
そこ、溜めないでいいからさっさと教えろ!と聖月が声なき悲鳴を上げる。
『なぁンと!王道なお題"好きな人"!ネタお題をまさかの風紀委員長が引いたぁ!しかも、迷うことなくお相手を連れてきた!』
地響きがする程の悲鳴が上がる。ニヤリと笑う竜崎。視界の端では笑い転げる風紀と生徒会の面々が。挙句の果てに、動揺して動けない聖月の顎をとらえた竜崎が、深いキスを聖月に施す始末。
「んんん⁈」
「っ。コレ、俺のだから、手、出すなよ」
雄のフェロモン駄々洩れの、独占欲に満ちたシニカルな笑みで周囲を睥睨する。マイクで拾ったその声を、全校生徒に届け。更なる悲鳴が上がった。ぐいっと聖月を抱きしめて満足そうに笑う竜崎は気付かなかった。その腕の中で青ざめる聖月の顔に。そして、「やりやがった、あの馬鹿」と小さく呟いて苦々し気な顔をする高宮と、その背後で血相を変えてスマホを弄る嵯峨野の姿に。
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