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暗雲
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しおりを挟む竜崎に抱えられて言った先は、救護室。
「お?風紀委員長か。どうした」
「体力ないくせに全力疾走してバテた馬鹿を休ませたくて」
「おっと、これは話題の風紀委員長のお相手さん」
「あははは」
二人してツッコミどころが多すぎる会話である。体力がゼロであることも相まって乾いた笑いを零すしかない聖月だった。
ごゆっくり、とそれで大丈夫なの養護教諭と思わざるを得ない台詞を残して二人は布で区切られた一角に放り込まれた。そっとベットに降ろされ、聖月はすぐに背を向けて丸くなった。
「ご機嫌斜めだな」
「当たり前でしょ」
ぶつぶつと文句を言う聖月の頭を大きな手がそっと撫でる。するり、とそのままウィッグを奪い去られ、ふわりとその白い髪が姿を現す。
「ちょっと」
「誰もいない」
慌てて取り戻そうと手を伸ばすが、さっさと胸ポケットにしまわれてしまう。そのまま一房持ちあげられ、そっと竜崎の薄い唇が寄せられる。ついでに色気滴る視線を向けられ、聖月は目元を染めてそっと視線を逸らした。竜崎はその白い髪がいたくお気に入りなのだ。邪魔なのもあって切りたいのだが、竜崎の満足そうな顔で髪を弄る姿を思い返すとどうしても切れなかったのである。
「ただの白い髪なのに。ホントソレ好きだよね」
「綺麗だろう?」
サラリと真顔で返され、聖月は熱が首元迄広がるのを感じた。こんな事をサラリと言われるから切れなくなるんだ、と聖月が顔を覆って悶える。そんな心情を解っているのだろう。竜崎が低く笑う。
「黒い魔女の恰好に、白い髪。何なら白の魔女でもいいがな」
「そうなったら全身真っ白じゃん。色なくなっちゃう」
「ウエディングドレスは白だろう?」
「ちょ、何の話?!」
甘く囁かれて聖月が沸騰する。羞恥に涙目になった恋人を楽しそうに見つめる。なんか意地悪くなってると聖月が半泣きである。
「学園祭のときも思ったが、似合ってるな。ミニスカメイドもミニスカ魔女も」
「女装癖無いからね」
「今度は何を着せるか。楽しみだな」
「ちょっと、女装癖無いって!」
必死に嫌がってみるが、可愛いからいいだろう?と流し目で謂れがっくりと項垂れる。くるん、と何かが一回転して意識が変わった聖月が、一転して竜崎の膝によじ登る。
「ふーん。可愛いのが好みなんだ」
「何せ、俺の恋人は滅茶苦茶美人だからな。何着ても似合うし、可愛い」
首筋から頬に掛けてをなまめかしく撫で上げると、喉を鳴らした竜崎が楽しそうに見下ろしてくる。どうしてやろうかこの男、と楽しくなってきたその時。
「……誰だ、こんないい場面で」
「あっはは。運はいいけどタイミングが悪いのは変わらないね」
竜崎のスマホに着信。色っぽい雰囲気が霧散し、忌々し気な顔でスマホを見つめる。あっさりと膝から降りた恋人をその大きな手が追うが、ぺいっと弾かれ渋面になる。
「仕事優先」
「ったく」
ため息を飲み込んだ竜崎が立ち上がる。着信は切れたものの、メッセージが飛んできたらしい。さっと目を通した竜崎がめんどくさそうな顔をする。
「時間かかりそうだ。ゆっくり休んでろ」
それだけ声を掛けて部屋を出て行く。はーい、と軽い声で返事した聖月はもぞもぞとベットに潜り込んでいった。
そして、暫くして仕事を片付けて戻って来た竜崎が目にしたのは。
空のベットだった。
「休んでいろって言ったのに、どこ行きやがったアイツ」
聖月は偶々養護教諭が席を外していた時に姿を消したらしい。またこの展開か、と毒づきながら竜崎は風紀の控室に向かっていた。探したいのはやまやまだが、仕事もあるし、急にいなくなるのはいつもの事だ、とその時は気にしていなかったのだ。
「っ。またか」
スマホに着信。うんざりした顔で見ると、颯斗からの着信。今日の警備には参加しているが、忙しすぎてゆっくり話す暇がなかった相手。何かあったのかと思った時、丁度午前の競技全てが終了したというアナウンスが流れてきた。同時にメッセージも。
"昼休みで時間も出来たし、話がある"
仕事とは思えない無いように、眉をしかめる。嫌な予感に竜崎は足を速めた。
「颯斗。どうした」
「ああ、戻って来た。いや、さっきやっと確証を得れて」
久方ぶりにじっくりみた颯斗の顔色はすぐれなかった。その言葉に、聖月に関する内容だと察した竜崎はタイムリーだ、と肩を竦めた。颯斗の前の椅子を陣取ってその顔を見るが、本人はスマホを弄っているだけ。焦れた竜崎が颯斗の名前を呼ぶと、颯斗は至って真剣な顔をしていた。
「ちょっと思ったよりも大きな話になって。どうしても一緒に聞いてほしい人がいるんだ」
「聞いてほしい人?」
「なんかお呼び出し喰らったんだけど、何事?」
その声に振り向くと、嵯峨野を連れた高宮が立っていた。のんびりと入ってきた高宮だったが、颯斗が真剣な顔をして据わっているのを見て、表情を消した。
「聞きたいこと、確かめたいことがある」
重々しく颯斗が声を掛けると、高宮は盛大にため息をついて前髪を鷲掴んだ。
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