学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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黎明

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 高宮のスマホにメッセージが届いた後。高宮と嵯峨野はその権力を多分に使用して、颯斗は晴真と協力してその力が及ぶ限り、聖月の行方を追う事にした。後手に回った、と臍を噛む竜崎の肩を叩いて悔やんでいる暇はないと叱咤する。

 「それにしても、先ずは体育祭だ。皆に迷惑をかける訳には行かないし、下手に動いて真宮を刺激したくない」

 冷静な高宮の指示。今にも飛び出そうとする竜崎を宥める。お前なら理解できるだろうと言外に言われ、ぐっと激情を押し込める。立場と段取りと言うものをキチンと理解できる男だ。感情に任せて動いた結果、更に悪い状況に陥る事の危険性を身をもって知っている。

 「ったく。今度は何だっての」

 そこに、再び高宮のスマホが着信を知らせた。なんか嫌な予感しかない、と嫌々確認したその顔が引きつる。既に悪鬼の形相になっている竜崎を見て、スマホに再び視線を落とし、そのまま泳ぎ始める。

 「なんだ」
 「怒るなよ、怒るなよ?頼むから、怒るなよ?怒っても何もならないからな?」
 「さっさといえ」

 なんか、それフラグ。そんな風に呟く颯斗を睨みつける高宮。それでも言わないと後が怖いんだもん、と半べそを書くが、既にボルテージがマックスの竜崎に睨まれ、汗をかきつつそろっと告げた。

 「聖の保護者経由で、自己都合につき第一学園に転校。場合によっては退学の申し入れが……」
 「ほぉ」

 ガツン、と竜崎の傍にあった壁が悲鳴を上げる。最早表情を無くした男が、小さくそれだけ呟くと、仕事をすると言って静かに出て行く。その背後に燃え上がる炎が見えるのは気のせいだろうか。

 「怒るなって言ったろうに」
 「無理だと思いますよ」

 呆れたように主人に突っ込みを入れた嵯峨野が黙って前を指さす。恐る恐る振り返った高宮が見たものは。終焉とまで呼ばれ畏れられる、怜毅の怒りと闘気に満ちた姿と、背後に般若の面を浮かべて満面の笑みを浮かべた颯斗の姿。

 「怒るなって」
 「懐かしいですね。このNukusメンバーの大激怒の図。ハッキリ言って2度と見たくないと思っていましたけど」

 かつてとてつもない大騒動を巻き起こしたNukusの怒りに満ちた報復を思い出し。二人は死んだ魚の目をした。
 話し込んでいる内に、昼休み終了のチャイムがなった。同時に、風紀控室の扉が轟音と共に勢いよく開かれる。

 「いたぁ会長!やっと見つけた!油売ってる暇あったら仕事しろこのバ会長!」
 「うわぁ。何時もは仕事の鬼で逃げたくなる庶務君が、救いの天使に見える」
 「不本意ながら同意です」
 「何馬鹿な事言ってる訳?ついに頭も逝っちゃった?」
 「お前はもう少し目上の人間を敬おうな」
 「敬うべき人間は敬うから問題ない。行くよ」

 嵐の如く飛び込んできて高宮の首根っこを掴み引き摺って行くのは、生徒会の庶務。終わらない仕事に辟易しているのは生徒会も同じらしい。その中でも精力的に仕事をしている庶務の堪忍袋の緒が切れたという事だろうか。ずるずると引きずられつつ、書類で埋まっているだろう生徒会控室を想像し、ため息をつく。まだまだ眠れない日は続きそうだ。最も、怒り狂っている風紀Nukusと一緒にいるよりかはマシだと思い。黙って引きずられていくことにした。



 高宮と竜崎の奮闘により、午後の体育祭は無事に終了した。ひとまず聖月の退学は保留にし、クラスには体調不良で暫くの休みを連絡した。不安そうな面々だったが、実際に障害物競争でばてていた姿を見ていた者も少なくない。ひとまず納得したようだ。

 それでももの言いたげな顔をするのは蓮。聖月は破天荒だが、断りなく姿を消す人間ではないと主張していたのだ。竜崎はくっと唇を噛みしめると、すれ違いざまに囁いた。

 「大丈夫だ。その内、戻ってくる」

 それは蓮を安心させるための言葉であり、竜崎の覚悟。竜崎は歩きながら高速で頭を動かしていた。

 「高宮に言ったら怒鳴られそうだが」

 すっとポケットから取り出したのはスマホ。とある人物にコンタクトを取る為に、素早く操作をしていった。
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