学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

文字の大きさ
58 / 84
黎明

7

しおりを挟む
 「と言う訳で、準備が整った為、俺たちが来たわけだ」

 真宮本家で堂々と笑うのは竜崎。時間を戻して、竜崎達が真宮に乗り込んできた時に戻る。呆気にとられる真宮の者達の前で、竜崎は持っていた資料を投げつける。

 「いや、大変だったよ。丁寧にもみ消してくれたおかげで証拠集めがなかなかうまくいかなくてな」
 「お前は何もしていないだろうが。大変だったのは俺たちだっての」
 「全くです。他家との調整にその他雑事。どれだけ奔走したと」

 高宮と嵯峨野がやつれた顔でぼやくが、一旦無視。万寿と嗣耀が血相を変えて散らばった資料をかき集め、目を通していく。そこにあったのは、数年前、真宮で起こった子供の不審死の詳細。物的証拠を丁寧に集めた、事件として送検するに足るものだった。

 「貴様!どこの誰だか知らんが、真宮にこの様な事をしてタダで済むとっ」
 「そうよ!それに、こんな事したって、もみ消せばこんなもの」
 「中々豪快な事言うねぇ。流石権力者。なら、これもやるよ」

 もう一度放られる紙の束。そこには、真宮に繋がる企業との取引停止の書状や、株の下落などの資料。そして、書類の一番上にあるのは。

 「高宮、古宮、春宮、大宮、四家の同盟締結書類?!」
 「まぁ、今回限りの同盟だがな。アンタら、どんだけ恨み買ってんの?いろいろケチ付けられたし、説得も面倒だったけど、最終的に同意してくれた時に打倒真宮!って顔に書いていたらしいぞ。春宮と大宮の当主が」
 「その調整をしたのも俺たちなんだけど?!」
 「ついでにいうと、ほっとした顔をしていたのは下の者達でしたね。これで真宮の横暴に我慢せずにすむ、と。嬉しそうに解約書にサインしてくれましたよ」

 その時の騒動を思い出して苦そうに顔を顰めた高宮。茫洋と遠くを見つめる嵯峨野は暫く休暇をやるべきだろう。みるみる内に鬼の形相をする真宮を見て鼻で笑う古宮。

 「死体処理もずさんだったぜ。もう少しマトモに処理できる奴を探すべきだったな。最も、真宮にそんな奴を探す事出来ないだろうし、相手が真宮ならやりたがらないだろうな。裏じゃあ真宮おたくより古宮うちが怖いからな」

 飄々と笑う古宮。嗣耀と万寿も否応なく気付く。ここに居るのは高宮と古宮の跡取り。そして、同盟の代表としているのだと。その中心にたった男は、一般人の癖に二人を押しのけて主導権を握る。

 「まどろっこしい事は嫌いだから簡潔に終わらせる。真宮の資金源は完璧に絶った。事件についても証拠は十分に集まった。因みに、張り切った春宮が張り切りすぎて余罪を付けまくってくれたから泣いて喜んでいいぞ。これから警察が来るから大人しく捕まるんだな」
 「逮捕者リスト見たけど、大分黒いなこの家。上層部の殆どがしょっ引きに該当。真宮は空中分解決定だな」
 「ざまぁない。散々恐れられたハリボテもこの程度か」

 高宮と古宮の嘲笑に、万寿の顔が真っ赤に染まっていく。

 「黙りなさい!警察が来たところでこの家の敷居を跨がせないし、どうせ警察に引き渡されたとしてもすぐに釈放させるわよ!」
 「おいおい、聞いてなかったのか?春宮がはしゃいでるって」

 竜崎は凄絶な笑みを浮かべる。万寿の顔が一気に青へと変わる。

 「警察内部の整理を嬉々としてやったらしいし、今回はきっちり清算させるってよ。これまで辛酸をなめさせられた分も、な」

 確固たる犯罪の匂いがする事件、それを権力でもみ消されればメンツにかかわる。それを何年も指をくわえて見る事しか出来なかったかの家としては絶好のチャンス。何が何でも法の裁きを受けさせるだろう。

 そして、敷居を跨がせないだっけ?と芝居がかった仕草で両手を掲げた竜崎は、ニヒルに笑う。

 「鈍すぎるぜ、おばさん。それが出来るなら、俺たちはここに居ないっての?」
 「!」

 流石にここまで来て万寿も思い至ったようだ。その以前にとある場所を睨みつけていた嗣耀の視線を追う。そんな彼らを一歩引いたところで呆然と眺めていた聖月も、くっと唇を噛んで俯く。

 最初に竜崎が証拠写真をばら撒いた時に気付いた。いかに春宮が警察の立場を利用しようと、古宮が裏から調べようと、。物的証拠等、なのだ。それ以外の余罪についても、同様。完璧にもみ消すだけの権力が真宮にはあったのだから。それがここに在る、という事は理由は一つ。

 「いや、ホント優秀な人が内部にいてよかったわ。もみ消される前に、物的証拠や状況の写真、それ以外の証拠をきっちり集めて保管していたんだから」

 そして、嗣耀と万寿に気付かれる事無く竜崎達を招き、その後に訪れるであろう警察を引きいれる準備も行わなければならない。

 それが出来るのは、真宮内部の人間かつ高位の人間。高位の人間は権力に飢えている為、普通ならば寧ろもみ消そうとするはず。にも関わらず、秘密裡に保管した上で竜崎に手を貸す可能性があるのはただ一人。

 先程の目くばせ、こういう事だったのかと聖月はぼんやり思い。

 「深央!お前ね!」
 「貴様!気でも狂ったか!」
 「それ、俺に言う?俺の台詞だろどっちかってーと」

 殊勝な態度をかなぐり捨て、男は冷たく嗤う。それは、人一倍真宮に恨みを持つ、聖月にとって唯一の敵ではない男。

 「妹を理不尽に奪われた恨み、忘れる訳ねーだろーが」

 真月深央。子供の連続不審死の最後の犠牲者、聖月の唯一の友であった真月椿の兄。その人だった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...