学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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黎明

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 「おい、これって」
 「うん。僕も驚いた」

 深央の事に辿り着いたのは晴真の手柄だった。技術を駆使してパソコンにかじりついていたかと思うと、たちまちのうちに竜崎の求める情報を探し当てたのだ。

 竜崎が求めていた最後の協力者。それは、聖月の語った、唯一の友の兄にして逃がしてくれたと語っていた"お兄さん"だったのだ。そこに辿り着くためには、椿のパーソナルデータから関連させた方が早いと判断。探し当てた彼女のデータからすぐに判明したその"お兄さん"は、聖月を連れ去ったその男だったのだ。

 「聖月は助けてくれたって言ってたらしいけど、この人味方にカウントして大丈夫なの?」

 晴真の懸念は間違っていない。予想外の状況に竜崎は眉根を寄せた。内部情報が欲しいと思い、思いついたのか彼だったのだ。聖月が聡明だ、と評するくらいならば真宮を出し抜いて情報を流したり、手引きをすることも可能だろうし、妹を殺されたという所を突けば真宮転覆に協力してくれると思ったのだ。

 「……。ちょっと待て。さっきの映像もう一度見せてくれ」
 「防犯カメラ?」

 手持無沙汰に晴真が流し始めた映像。一瞬引っかかりを覚え、晴真に頼む。その正体が分かった時、竜崎の意志は決まった。

 「晴真。颯斗と怜毅を呼んでくれ」
 「ん」

 理由も問わず、すぐにメッセージを打ち始める晴真。その脇で竜崎は思考を巡らせていた。

 それが作戦実行の少し前の事。



 「流石に驚いた顔をしているな」
 「そりゃあ。敵ではない、でも、味方でもなかったお兄さん深央が龍に協力するなんて想像もしていなかった」

 喚き散らす嗣耀と万寿をスルーして、深央は皮肉気な笑みを聖月に向けた。最早聖月にも、予想外過ぎて状況が読み込めない。補足説明したのは、竜崎の後ろに控えていた颯斗だった。

 「はいはーい。一番の見せ場は譲ったからそろそろ僕にもしゃべらせて」

 そんな空気をすっ飛ばして入り込んできた彼に、竜崎は苦笑して場所を譲った。説明しよう、と芝居がかった声と顔で颯斗は語り出す。

 「晴真がそこの深央さんに辿り着いた後、竜崎に言われて深央さんがどんな人かっていうのを周囲から探ったのが僕。最初は渋ってたけど、その錦の御旗同盟締結書類を見せた瞬間に喋ってくれたよ。で、一応の信頼が出来る……というか、正確には取引が出来る人だっていう結論になったんだよね」
 「そして、俺が付き添って話合いを行った」

 怜毅も横から口を出す。



 話し合いの場所として設けたのは、例の如くorneriness。晴真が突き止めたメールアドレスにメールを送ったのだ。『真宮を潰す。協力してほしい』と。ストレートすぎる、と晴真は渋面だったが竜崎はそのまま送信させた。

 「中々面白い事してくれんじゃねぇの、ガキの分際で」

 そう言って現れた深央。面白がる様な風情で話しつつも、その瞳は鋭い。一瞬でも気を抜けば協力者として落第がつくことはすぐにさせられた。竜崎の視線が一際強くなるのを見て、深央は眉を上げた。

 「さすが。アイツが見込むだけはある」
 「聖月か」

 片方の口角をあげる事で答えた男は、気だるげに椅子に凭れる。

 「つか、風流ってものを解さないのかお前は?流石に単刀直入すぎて笑ったわ、あの差出人不明のメール。不審に思われて無視されると思わなかったのか?」
 「アンタにコンタクトを取れるのは一回きりだと思ってな。警戒心も強いだろうし、本題を簡潔に送った方が興味を示すかと思ってな」

 しかも、と竜崎はスマホを差し出す。そこに映し出されていたのは防犯カメラの一場面。聖月を連れた深央は、一瞬だけ振り返ってカメラを真っすぐ見つめたのだ。まるで、ここまで来い、と言っているかのように。

 「この視線。普通なら、宣戦布告と受け取るだろう。聖月は連れて行く、お前たちに取り戻す事等不可能だ、と言うな」

 ふむ、と腕組みする男を見据えて、だが、と竜崎はつづけた。

「聖月との関係と、アンタの妹の話を聞いていたからな。あの警戒心の塊がアンタの事を一定の信頼が置けると話していたと。となると、今度はこの視線の意味も変わってくると思ってな。つまり、その意味は宣戦布告のその逆。聖月を取り戻したければ俺の下に来い。そのメッセージだと判断した」
 「なるほどな。それでイチかバチかの博打に出たわけだ」
 「ああ。真宮内部で派閥ってものもあるだろうが、聖月が生きていると都合が悪いのが多いのは大体察しが付く。それなのに、アンタはアイツを傷つけることなく真っすぐ本家に連れて戻ったというのもその決め手の一つだが……間違っていなかったようだな」

 第一段階クリア、と竜崎はひっそり息をつく。しかし、ここはまだ序章。これからが本番だと己に喝を入れ直す。

 「まぁ、ツッコミどころは多いが俺に辿り着いたところまでは認めてやる。及第点だ」

 ニヤリと笑った男は、差し出されたコーヒーを啜る。お、美味い、とうれしそうに啜る男。なんとも緊張感が無いが竜崎は無視する事にする。

 「頼みがある。聖月を取り戻したい」
 「そのために、真宮を潰す。求めるのは内部情報と内部への手引き」
 「……アイツが手放しで褒めるのが分かる」

 竜崎は渋面になって呻く。飄々としているがあっさりとこちらの求めを看破してくるあたり油断も隙も無い。主導権を取られた、と内心で舌打ちをしすぐに思考を切り替える。だが、深央の方が一枚上手だった。

 「いいぜ。のった」
 「は?」

 あまりにもあっさりと協力が取り付けられたことに、竜崎の目が点になる。後ろで控えていた怜毅が一瞬崩れた気配がする。年下二人の動揺に、深央が噴き出した。

 「なんだ。乗らないって言って欲しかったか?」 
 「……いや。ありがたいが、説得にもっと時間がかかると思ってたからな」

 どうにか立て直した竜崎が深央を睨みつける。ただより怖いものはないんでね、と呟くと深央は腹を抱えて笑い出した。

 「確かに!それはある」
 「で、対価は何だ」
 「それを用意できんのか?」

 挑発的に見据えてくる男に、竜崎は真っすぐ立ち向かう。

 「さぁ?出来る限りの事はするが、聞かないと分からん」
 「おいおい、思い切りよすぎねぇか?その解答で相手が協力を翻したらどうする」
 「思い切りがいいのはそっちもだろう?こちらの要求を看破した――開示しただけの時点で、アンタはこっちの協力要請に応じた。だが、対価もなしに動く人間じゃないだろう?となれば、俺たちに払える対価だろうと辺りを付けた。だからまず対価が何かを聞いてみようかと」
 「なるほど。悪くない」

 楽しそうに笑いながら、だが一つ間違いだ、と深央は指を立てた。

 「お前たちに対価を払わせるつもりはない」
 「……というと」
 「払ってもらうのさ」

 そうして深央が求めた対価の詳細を聞いた竜崎は目を見開いた。しかし、すぐに他の状況も踏まえ判断を下した。

 「取引成立だ」

 そして、共犯者に深央が加わったのだ。
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