学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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黎明

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 「と言う訳で、準備が整った為、俺たちが来たわけだ」

 真宮本家で堂々と笑うのは竜崎。時間を戻して、竜崎達が真宮に乗り込んできた時に戻る。呆気にとられる真宮の者達の前で、竜崎は持っていた資料を投げつける。

 「いや、大変だったよ。丁寧にもみ消してくれたおかげで証拠集めがなかなかうまくいかなくてな」
 「お前は何もしていないだろうが。大変だったのは俺たちだっての」
 「全くです。他家との調整にその他雑事。どれだけ奔走したと」

 高宮と嵯峨野がやつれた顔でぼやくが、一旦無視。万寿と嗣耀が血相を変えて散らばった資料をかき集め、目を通していく。そこにあったのは、数年前、真宮で起こった子供の不審死の詳細。物的証拠を丁寧に集めた、事件として送検するに足るものだった。

 「貴様!どこの誰だか知らんが、真宮にこの様な事をしてタダで済むとっ」
 「そうよ!それに、こんな事したって、もみ消せばこんなもの」
 「中々豪快な事言うねぇ。流石権力者。なら、これもやるよ」

 もう一度放られる紙の束。そこには、真宮に繋がる企業との取引停止の書状や、株の下落などの資料。そして、書類の一番上にあるのは。

 「高宮、古宮、春宮、大宮、四家の同盟締結書類?!」
 「まぁ、今回限りの同盟だがな。アンタら、どんだけ恨み買ってんの?いろいろケチ付けられたし、説得も面倒だったけど、最終的に同意してくれた時に打倒真宮!って顔に書いていたらしいぞ。春宮と大宮の当主が」
 「その調整をしたのも俺たちなんだけど?!」
 「ついでにいうと、ほっとした顔をしていたのは下の者達でしたね。これで真宮の横暴に我慢せずにすむ、と。嬉しそうに解約書にサインしてくれましたよ」

 その時の騒動を思い出して苦そうに顔を顰めた高宮。茫洋と遠くを見つめる嵯峨野は暫く休暇をやるべきだろう。みるみる内に鬼の形相をする真宮を見て鼻で笑う古宮。

 「死体処理もずさんだったぜ。もう少しマトモに処理できる奴を探すべきだったな。最も、真宮にそんな奴を探す事出来ないだろうし、相手が真宮ならやりたがらないだろうな。裏じゃあ真宮おたくより古宮うちが怖いからな」

 飄々と笑う古宮。嗣耀と万寿も否応なく気付く。ここに居るのは高宮と古宮の跡取り。そして、同盟の代表としているのだと。その中心にたった男は、一般人の癖に二人を押しのけて主導権を握る。

 「まどろっこしい事は嫌いだから簡潔に終わらせる。真宮の資金源は完璧に絶った。事件についても証拠は十分に集まった。因みに、張り切った春宮が張り切りすぎて余罪を付けまくってくれたから泣いて喜んでいいぞ。これから警察が来るから大人しく捕まるんだな」
 「逮捕者リスト見たけど、大分黒いなこの家。上層部の殆どがしょっ引きに該当。真宮は空中分解決定だな」
 「ざまぁない。散々恐れられたハリボテもこの程度か」

 高宮と古宮の嘲笑に、万寿の顔が真っ赤に染まっていく。

 「黙りなさい!警察が来たところでこの家の敷居を跨がせないし、どうせ警察に引き渡されたとしてもすぐに釈放させるわよ!」
 「おいおい、聞いてなかったのか?春宮がはしゃいでるって」

 竜崎は凄絶な笑みを浮かべる。万寿の顔が一気に青へと変わる。

 「警察内部の整理を嬉々としてやったらしいし、今回はきっちり清算させるってよ。これまで辛酸をなめさせられた分も、な」

 確固たる犯罪の匂いがする事件、それを権力でもみ消されればメンツにかかわる。それを何年も指をくわえて見る事しか出来なかったかの家としては絶好のチャンス。何が何でも法の裁きを受けさせるだろう。

 そして、敷居を跨がせないだっけ?と芝居がかった仕草で両手を掲げた竜崎は、ニヒルに笑う。

 「鈍すぎるぜ、おばさん。それが出来るなら、俺たちはここに居ないっての?」
 「!」

 流石にここまで来て万寿も思い至ったようだ。その以前にとある場所を睨みつけていた嗣耀の視線を追う。そんな彼らを一歩引いたところで呆然と眺めていた聖月も、くっと唇を噛んで俯く。

 最初に竜崎が証拠写真をばら撒いた時に気付いた。いかに春宮が警察の立場を利用しようと、古宮が裏から調べようと、。物的証拠等、なのだ。それ以外の余罪についても、同様。完璧にもみ消すだけの権力が真宮にはあったのだから。それがここに在る、という事は理由は一つ。

 「いや、ホント優秀な人が内部にいてよかったわ。もみ消される前に、物的証拠や状況の写真、それ以外の証拠をきっちり集めて保管していたんだから」

 そして、嗣耀と万寿に気付かれる事無く竜崎達を招き、その後に訪れるであろう警察を引きいれる準備も行わなければならない。

 それが出来るのは、真宮内部の人間かつ高位の人間。高位の人間は権力に飢えている為、普通ならば寧ろもみ消そうとするはず。にも関わらず、秘密裡に保管した上で竜崎に手を貸す可能性があるのはただ一人。

 先程の目くばせ、こういう事だったのかと聖月はぼんやり思い。

 「深央!お前ね!」
 「貴様!気でも狂ったか!」
 「それ、俺に言う?俺の台詞だろどっちかってーと」

 殊勝な態度をかなぐり捨て、男は冷たく嗤う。それは、人一倍真宮に恨みを持つ、聖月にとって唯一の敵ではない男。

 「妹を理不尽に奪われた恨み、忘れる訳ねーだろーが」

 真月深央。子供の連続不審死の最後の犠牲者、聖月の唯一の友であった真月椿の兄。その人だった。
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