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番外
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saya様から、「龍と聖のその後的な話を!」とリクエストいただきまして。喜び勇んだ結果、勢い余って書いてしまいました。
設定は完結から十余年たった頃。色々考えたりしたのですが……二人の話としたらこんな感じかな、と投稿してみます。全五話です。
自信半分不安半分、リクエストにお答えできていればいいなと思いつつ。楽しんでいただければ幸いです。
********
真宮没落から十年余り。国中をざわめかせた大騒動は、ようやく落ち着きを見せ始めていた。
「騒動の後、姿を隠して玉座についた真宮の新当主。成人して表立って行動できるようになった瞬間に派手に登場したと思ったら、いきなりやらかしてくれたしなぁ」
「潜伏中は、当主代行として表に立っていた真月深央のサポートとしてその側に控えてその間に不穏分子を徹底調査。完全に膿を集めきったうえで、最初の仕事は大規模粛清でしたからね。あれは酷かった」
そう話すのは、年を経て精悍さが増した高宮と、年齢不詳の美貌を誇る嵯峨野。高宮の父が未だ健在で当主の座についている為、彼らはまだ次期当主とその側近という立場に変わりはないが、大学部卒業後に傘下の企業に入社、瞬く間にそのトップに躍り出た。その躍進劇に嫉妬や疑念の声は上がったものの、多くが黙って従っている様子を見る限り、高宮の名前だけではなく本人の能力が遺憾なく発揮されている事がうかがえる。
その仕事場である、とある大企業の社長室。せっせと仕事を捌きながら、二人は雑談をしていた。その際、偶然ついていたテレビで、「謎に満ちた真宮家当主に迫る」という特番がかかった事で、冒頭の会話になったのだ。一旦手を止めた高宮は、嫌そうな顔で伸びをした。
「従わないヤツ、能力に見合わない立場にいるヤツ、権力に任せて馬鹿をやらかすヤツ。第一次粛清で難を逃れたヤツも、調子に乗って真宮不在の隙を狙って動くから第二次粛清で切られてやがる。聖――聖月のヤツが上手いというか、切られたヤツが愚かと言うか」
「手が止まってますよ」
すかさず叱責が飛んできて高宮は首を竦めた。チラリと目の前の書類の山を見やる。
「……なぁ、量がおかしくないか?」
「おや。珍しくいい所に目を付けましたね」
多すぎないか、という遠回しな抗議に対する返答として何かが間違ってる。ぎょっとした高宮は失言に気付き、慌てて修正しようとする。しかし、嵯峨野の方が早かった。すっと目の前に歩み出た彼は、さらに書類の山を増やした。
「実は、机のスペースの関係で出していなかっただけでもっとあるんですよ。仕事熱心な主を持てて幸せです」
「……これ、いつまでに片付ければいいわけ?」
「足掻いてないで手を動かさないと残業ですよ」
あっさりと今日の分だと告げられ、高宮は乾いた笑いを零した。
「残業ってレベルか?!どう見ても徹夜だろう!」
「したければどうぞ。まぁ、このまま話をしていたらそうなるでしょうけど」
残念ながら、優秀な側近には情けも容赦もなかったらしい。
俺は高宮の次期当主で、嵯峨野の主で、大企業の社長で、偉いはずなのにこの扱いの雑さは何なの!と喚きながらもせっせと書類の山を崩していく高宮。やれ、と言われればやってしまう性格に能力。それがあるから皆に利用されるのだと気付いているのかいないのか。チラリ、と必死の形相をする主を見た嵯峨野。ニッコリ笑って優しい側近で良かったでしょ、と声を掛ける。
「何処がだ?!」
「何せ、仕事の量は変えられないですがキチンと管理して仕事がしやすいように手を入れてますから。真宮に至っては優秀な者程過労死ギリギリまでこき使われてますよ?しかも、当主からの熨斗付き」
「俺の側近は優しいわ」
普通ならそうは言ってもと反論するところだが、何せ相手はあの聖月。たまにすれ違う真宮の者は揃って死んだ魚の目をしているか、血走っているかのどちらか。内情は察して余りある。
「まぁ、彼の場合は人を見る目がありますからね。本当にギリギリのラインで仕事を押し付けているのでしょう」
「その見極め感覚は素晴らしいと思うが、そんな上司嫌だわ……」
今も仕事に追われているだろう真宮の者達が哀れに思えてくる。高宮は遠い目をした。嵯峨野は心から感心しているようなので、真似しないかどうかが高宮の最近の一番の悩みである。そんな彼は、真宮の現状を心配しているようだ。
「しかし、最近の躍進を見る限り問題ないと思うのですが大丈夫なのでしょうか」
「何が」
「第二次粛清によって、恐怖政治を強いていると思われないかです。今だ以前の真宮が遺した傷は大きい。そこにあまりにインパクトを与える事は厳禁だったのではないか、と」
竜崎の引き起こした真宮没落事件。その際に多くの人間や企業が粛清されたのは記憶に新しい。その上で今度は聖月が二度目の粛清をして、自らの牙城を築いた。この二つは世間的に、第一次粛清、第二次粛清と呼ばれるようになった。それほど影響が大きかったという事の裏返しでもある。
「そんな事か」
しかし、それは不要な心配だ、と笑い飛ばす高宮。もの言いたげな嵯峨野にペン先を向けて、そこはアイツも考えているさと苦笑する。
「確かに、そのリスクはあった。だが、真宮の名前を使ってヤツが主導し、粛清対象となったのは、立場と能力が一致していない者や、真宮の成長を阻害するであろう毒になる者。しかも、誰から見てもといったヤツがメインで、その理由と共に公表していた」
「客観性があるため、文句が出なかったと?」
「ああ。しかも、ヤツのやる事に対して否定的意見を出す者も、その意見に論理性があれば傍に取り立てる事も同時にやっていた。つまり全ての者に対して、俺が次のトップだ、正当性があるならばかかってこい、ただし、意味なく道を塞ぐ者には容赦しないというアピールをしたのさ」
「過激ですね」
「それが出来るからアイツはめんどくさいのさ」
感心半分、嫉妬半分といった顔で高宮は呟く。普通ならば、様々な要因が絡まり合って上手くはいかない。それを更地になったんなら更に掘り返してしまえ、なんてトップ直々に主導して実行してしまったのだ。嵯峨野もため息をかみ殺している。
「しかも、それ以来我々の領域にガンガン踏み込んでくれてますしね」
「いちいち妨害行為してくれるから腹立つ」
第一次粛清によって、真宮の資金調達ルートはズタズタになった。それを聖月は残ったルートから資金を集め、あれよあれよという間に倍々ゲームにして元と遜色ないレベルまで戻してしまったのだ。しかも、ルートの置換再生工事も完璧。
ちゃっかりそれらのルートを自分の物にしようとしていた高宮だったが、いつの間にか奪い返されていたり、聖月に妨害されたりしたおかげで予想以上に旨味が無かった。しかも、他のルートにチョッカイを出されるというオマケ付き。それによって事業拡大も上手く行っておらず、総合的にはマイナスと言っていいレベル。
高宮父が引きつった顔を披露していたのが印象的だった。
「あれは見ものだったが、自分の事となると笑ってられないからな」
「そうですね。しかし、今回は我々の勝利でしょう」
そういって嵯峨野が差し出してきたのは企画書。とある企業の買収計画で、その企業を足掛かりに、新規業界開拓を行う予定なのだ。偶然にも同じ企業を真宮側も狙っており、かなりやり合ったのだ。普通の相手ならば高宮が圧勝出来るが、今回は相手が相手という事で全く気が抜けなかった。そのお陰でどうにか高宮の有利な状況に持ち込めて一息ついたところだった。
「上手く行ったか」
「はい。後は契約書をまとめるだけだと」
ほぼ完ぺきと言っていい勝利宣言。最近聖月に妨害されてばかりで上手く行っていなかったからな、と満足気な高宮。漸くだし抜けた、とうれしそうな嵯峨野と頷きあっていたその時だった。
「失礼します!社長、大変です!」
室内に飛び込んできたのは、その計画の責任者たる社員。滅多な事では動じないはずの歴戦のタフな社員が真っ青な顔で叫ぶ。
「契約の話が白紙になりました……!」
「はぁあ?!」
高宮と嵯峨野の絶叫が社内にこだました。
設定は完結から十余年たった頃。色々考えたりしたのですが……二人の話としたらこんな感じかな、と投稿してみます。全五話です。
自信半分不安半分、リクエストにお答えできていればいいなと思いつつ。楽しんでいただければ幸いです。
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真宮没落から十年余り。国中をざわめかせた大騒動は、ようやく落ち着きを見せ始めていた。
「騒動の後、姿を隠して玉座についた真宮の新当主。成人して表立って行動できるようになった瞬間に派手に登場したと思ったら、いきなりやらかしてくれたしなぁ」
「潜伏中は、当主代行として表に立っていた真月深央のサポートとしてその側に控えてその間に不穏分子を徹底調査。完全に膿を集めきったうえで、最初の仕事は大規模粛清でしたからね。あれは酷かった」
そう話すのは、年を経て精悍さが増した高宮と、年齢不詳の美貌を誇る嵯峨野。高宮の父が未だ健在で当主の座についている為、彼らはまだ次期当主とその側近という立場に変わりはないが、大学部卒業後に傘下の企業に入社、瞬く間にそのトップに躍り出た。その躍進劇に嫉妬や疑念の声は上がったものの、多くが黙って従っている様子を見る限り、高宮の名前だけではなく本人の能力が遺憾なく発揮されている事がうかがえる。
その仕事場である、とある大企業の社長室。せっせと仕事を捌きながら、二人は雑談をしていた。その際、偶然ついていたテレビで、「謎に満ちた真宮家当主に迫る」という特番がかかった事で、冒頭の会話になったのだ。一旦手を止めた高宮は、嫌そうな顔で伸びをした。
「従わないヤツ、能力に見合わない立場にいるヤツ、権力に任せて馬鹿をやらかすヤツ。第一次粛清で難を逃れたヤツも、調子に乗って真宮不在の隙を狙って動くから第二次粛清で切られてやがる。聖――聖月のヤツが上手いというか、切られたヤツが愚かと言うか」
「手が止まってますよ」
すかさず叱責が飛んできて高宮は首を竦めた。チラリと目の前の書類の山を見やる。
「……なぁ、量がおかしくないか?」
「おや。珍しくいい所に目を付けましたね」
多すぎないか、という遠回しな抗議に対する返答として何かが間違ってる。ぎょっとした高宮は失言に気付き、慌てて修正しようとする。しかし、嵯峨野の方が早かった。すっと目の前に歩み出た彼は、さらに書類の山を増やした。
「実は、机のスペースの関係で出していなかっただけでもっとあるんですよ。仕事熱心な主を持てて幸せです」
「……これ、いつまでに片付ければいいわけ?」
「足掻いてないで手を動かさないと残業ですよ」
あっさりと今日の分だと告げられ、高宮は乾いた笑いを零した。
「残業ってレベルか?!どう見ても徹夜だろう!」
「したければどうぞ。まぁ、このまま話をしていたらそうなるでしょうけど」
残念ながら、優秀な側近には情けも容赦もなかったらしい。
俺は高宮の次期当主で、嵯峨野の主で、大企業の社長で、偉いはずなのにこの扱いの雑さは何なの!と喚きながらもせっせと書類の山を崩していく高宮。やれ、と言われればやってしまう性格に能力。それがあるから皆に利用されるのだと気付いているのかいないのか。チラリ、と必死の形相をする主を見た嵯峨野。ニッコリ笑って優しい側近で良かったでしょ、と声を掛ける。
「何処がだ?!」
「何せ、仕事の量は変えられないですがキチンと管理して仕事がしやすいように手を入れてますから。真宮に至っては優秀な者程過労死ギリギリまでこき使われてますよ?しかも、当主からの熨斗付き」
「俺の側近は優しいわ」
普通ならそうは言ってもと反論するところだが、何せ相手はあの聖月。たまにすれ違う真宮の者は揃って死んだ魚の目をしているか、血走っているかのどちらか。内情は察して余りある。
「まぁ、彼の場合は人を見る目がありますからね。本当にギリギリのラインで仕事を押し付けているのでしょう」
「その見極め感覚は素晴らしいと思うが、そんな上司嫌だわ……」
今も仕事に追われているだろう真宮の者達が哀れに思えてくる。高宮は遠い目をした。嵯峨野は心から感心しているようなので、真似しないかどうかが高宮の最近の一番の悩みである。そんな彼は、真宮の現状を心配しているようだ。
「しかし、最近の躍進を見る限り問題ないと思うのですが大丈夫なのでしょうか」
「何が」
「第二次粛清によって、恐怖政治を強いていると思われないかです。今だ以前の真宮が遺した傷は大きい。そこにあまりにインパクトを与える事は厳禁だったのではないか、と」
竜崎の引き起こした真宮没落事件。その際に多くの人間や企業が粛清されたのは記憶に新しい。その上で今度は聖月が二度目の粛清をして、自らの牙城を築いた。この二つは世間的に、第一次粛清、第二次粛清と呼ばれるようになった。それほど影響が大きかったという事の裏返しでもある。
「そんな事か」
しかし、それは不要な心配だ、と笑い飛ばす高宮。もの言いたげな嵯峨野にペン先を向けて、そこはアイツも考えているさと苦笑する。
「確かに、そのリスクはあった。だが、真宮の名前を使ってヤツが主導し、粛清対象となったのは、立場と能力が一致していない者や、真宮の成長を阻害するであろう毒になる者。しかも、誰から見てもといったヤツがメインで、その理由と共に公表していた」
「客観性があるため、文句が出なかったと?」
「ああ。しかも、ヤツのやる事に対して否定的意見を出す者も、その意見に論理性があれば傍に取り立てる事も同時にやっていた。つまり全ての者に対して、俺が次のトップだ、正当性があるならばかかってこい、ただし、意味なく道を塞ぐ者には容赦しないというアピールをしたのさ」
「過激ですね」
「それが出来るからアイツはめんどくさいのさ」
感心半分、嫉妬半分といった顔で高宮は呟く。普通ならば、様々な要因が絡まり合って上手くはいかない。それを更地になったんなら更に掘り返してしまえ、なんてトップ直々に主導して実行してしまったのだ。嵯峨野もため息をかみ殺している。
「しかも、それ以来我々の領域にガンガン踏み込んでくれてますしね」
「いちいち妨害行為してくれるから腹立つ」
第一次粛清によって、真宮の資金調達ルートはズタズタになった。それを聖月は残ったルートから資金を集め、あれよあれよという間に倍々ゲームにして元と遜色ないレベルまで戻してしまったのだ。しかも、ルートの置換再生工事も完璧。
ちゃっかりそれらのルートを自分の物にしようとしていた高宮だったが、いつの間にか奪い返されていたり、聖月に妨害されたりしたおかげで予想以上に旨味が無かった。しかも、他のルートにチョッカイを出されるというオマケ付き。それによって事業拡大も上手く行っておらず、総合的にはマイナスと言っていいレベル。
高宮父が引きつった顔を披露していたのが印象的だった。
「あれは見ものだったが、自分の事となると笑ってられないからな」
「そうですね。しかし、今回は我々の勝利でしょう」
そういって嵯峨野が差し出してきたのは企画書。とある企業の買収計画で、その企業を足掛かりに、新規業界開拓を行う予定なのだ。偶然にも同じ企業を真宮側も狙っており、かなりやり合ったのだ。普通の相手ならば高宮が圧勝出来るが、今回は相手が相手という事で全く気が抜けなかった。そのお陰でどうにか高宮の有利な状況に持ち込めて一息ついたところだった。
「上手く行ったか」
「はい。後は契約書をまとめるだけだと」
ほぼ完ぺきと言っていい勝利宣言。最近聖月に妨害されてばかりで上手く行っていなかったからな、と満足気な高宮。漸くだし抜けた、とうれしそうな嵯峨野と頷きあっていたその時だった。
「失礼します!社長、大変です!」
室内に飛び込んできたのは、その計画の責任者たる社員。滅多な事では動じないはずの歴戦のタフな社員が真っ青な顔で叫ぶ。
「契約の話が白紙になりました……!」
「はぁあ?!」
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