学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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幕開

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 桜舞う、と言うには少し早い季節。まだ冬の寒さが尾を引くこの時期に、第九学園は卒業式を迎えていた。

 「あはは。朝顔ったら、結局生徒会を引退しても生徒会の心配?」
 「今まで自分で進めてましたから、他の人がやってるのを見ると、どこかハラハラと」
 「凛は心配し過ぎなんだよ」

 新しく始動した生徒会が中心となって進行された卒業式は、嵯峨野の心配をよそに危なげなく終了した。ひときわ立派な桜の木の下で待ち合わせた嵯峨野が、ほっとした顔をしているのを見て、聖月と高宮が笑う。嵯峨野としても思う所があるのだろう、なんとも言えない顔で遠くを眺めている。

 ひとしきり笑って収まった後、聖月は空を見上げた。雲一つない晴天である。

 「二人は第二に進学だっけ?」
 「ああ。お前らが居たから第九ここに居ただけだしな。そのお前らが第一に行くって決めた事だし、俺らも戻るかって話になってな」

 高宮がからりと笑う。この二人は、卒業後、第二学園大学部へ進学する予定だ。これから高宮を継ぐことも考え高宮の膝元第二に戻る事を決めたという。

 「俺たちはいなくなるけど、古宮がいるじゃん?」
 「止めて。本気でそれは」
 「寧ろ最悪ですね」
 「中々楽しそうな会話してんじゃねぇか」

 心底嫌そうな高宮と嵯峨野。考えただけで胃が痛い、と腹を抱える高宮の後ろから、笑いを含んだ低い声が聞こえた。げっと顔を歪めた高宮がそそくさと聖月の後ろに隠れる。

 「隠れられてねぇぞ、高宮の」
 「うるせぇ。お前と真正面から相対したくないだけだ古宮」
 「肝っ玉ちいせぇな」

 着崩しているとは言え、まだ制服を着ているくせに堂々と煙草を吸いながら古宮が登場。毛を逆立てて警戒する高宮が面白くてしょうがないらしい。もっと早くチョッカイ出すべきだったな、とある時呟いていたのを聖月は聞いていた。勿論、そこで高宮に警告するどころか、揶揄いのネタを謹んで進呈しておいたが。

 「って、お前の所為か!」
 「えぇ?何の事ぉ?」

 可愛らしくすっとぼける聖月に、感情が昂りすぎて声にならない高宮。じっとりと睨みつけてくる彼に、僕のモットーは"人の不幸は何とやら"だよ、とにこやかに笑って火薬を投げつけておく。ブチギレた高宮がそのまま取っ組み合いを始める。それを愉快そうに見ていた古宮の隣に、長身の影が並ぶ。

 「ったく。ちょっと目を離せばこれか」
 「竜崎」

 颯斗と怜毅を従えて呆れ顔で現れた竜崎に、古宮は手を軽く上げて挨拶をする。視線で返した竜崎は、じゃれ合う二人を眺めつつ、会話を続ける。

 「お前も進学か」
 「ああ。第九だがな。真宮の一件で動きやすくなったとはいえ、やはりこのご時世だからな。正攻法も必要なのは変わらん」

 そういって肩を竦めて見せる男。柔軟な思考が出来る古宮らしい発言だろう。生き残りには必要な素質である。けど、と竜崎を横目で意味ありげに見つめる。

 「お前は第一に割り込んだらしいが、いいのか?あそこは血統書付きのお坊ちゃんお嬢ちゃんばかりで刺激が無いんじゃねぇの?」
 「箱入りだから楽しそうだろう?」
 「だから、お手柔らかにお願いしますよ?純粋培養な彼らは、刺激に対して耐性がないんですから」
 「善処する」

 相変わらずいい性格をしている、と嵯峨野もため息をかみ殺している。しかも、今はこの程度で済んでいるからいいが、いつかは敵になる相手。嫌な予感がしない、と今からうんざりである。

 「せいぜい仲良くしようぜ?」
 「そうするしか無さそうですね」

 嵯峨野の考えをあっさりと呼んだ竜崎がニヤリと笑って協力を持ちかける。ここまで来たらやってやりますよ、と投げやり気味の嵯峨野と握手する。そこに暴れて満足した聖月と高宮が近づいてくる。対照的な二人の様子を見て、何事か察したようだ。触らぬ神に何とやら、とばかりに話を目を逸らしている。

 これでも、高宮では優秀と謳われてるのにな、と聖月はクスクス笑っていると、スマホに着信。チラリと確認すると、差出人は深央で迎えに来たらしい。竜崎に視線を向けると、心得たようにとなりに並んでくる。

 「てか、いつの間に来てたの君ら」
 「どこかの誰かが僕らを置いて行くから追いかけてきただけだけど?」
 「また置いていく気かと思ってな」

 ようやく颯斗と怜毅の姿に気付いた聖月。その態度に、方や般若の面を背後に浮かべた麗しい笑みを浮かべ、方や恨めし気な瞳をして幻想の犬耳と尻尾を力なく垂らす。そんなつもりないってば、と引きつりつつもフォローするが、余り信用されていないようだ。また後でご機嫌取りしないとな、と思っていた時だった。

 「聖さん」

 最後に現れたのは、Nukusのメンバー。これから彼らは風紀としてこの思い出が残る学園を守り、時が来たら聖月の元へ集う。それまでの一時的な別れだ、と頭で理解していても、愛すべき馬鹿たちは男泣きをしている。

 「必ず、行きますんで!」
 「ちゃんと待っててくださいよ!」
 「また勝手にいなくなったら承知しませんからね!」
 「はいはい。分かってるってば」

 口々に別れの挨拶を叫ぶ皆に、聖月は柔らかな笑みを浮かべる。すっと身を翻すと竜崎達を従えて、一歩足を踏み出す。しかし、その次の瞬間、聖月は振り返った。

 ここでの最後の言葉は、もう一度出会える事を夢見ながらもう二度と会わない事を祈ってる、ではない。ここに入学した時には、その言葉を告げて去る事を覚悟していたが、今はもうそんな必要はない。

 聖月は笑って手を振ると、叫んだ。

 「また、いつか、会える日を楽しみに待ってる!」


********
これにて終幕となります!長いことお付き合いいただきまして、ありがとうございました!

完結まで行けるか全く未知数だったところを、ここまで来れたのはひとえに読者の皆様のおかげです。

特に、日陰様とkiyomi様には特別に感謝を。奇しくも、お二人揃って諦めも考えるくらいに四苦八苦していたところに、暖かな言葉をかけてくださいました。そのお陰で、最後まで駆け抜けられたと言っても過言ではありません。本当に、ありがとうございました。

それでは、また違うお話などでお目に掛かれることを祈って。
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