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平穏
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お久しぶりです。お気に入り登録してくださった皆様、本当にありがとうございます。お陰様で100人という大台を達成する事ができました。
お礼と記念に……と考えていたのですが、中々思いつかず。ふともうすぐバレンタインだな、と思った瞬間に聖月君が頭の中でニヤリと笑ってくれました(笑)。時系列的には終末と幕開の間位でしょうか。転校する前、聖月君高校一年生の2月です。
バレンタインネタで全3話。お楽しみいただけたら幸いです。
**********
バレンタインデー。元は聖ウァレンティヌスが殉教した日に由来するこの日、各企業の販促活動に支配された民たちが恋のイベントとしてチョコレート菓子を差し出す。
「うふふ。誰か、しかも、聖人なんてとっておきの人の命日を恋のイベントにするとかイミフすぎるぅ」
「そんな性格の悪そうな顔でコケにするのはお前だけだよ」
げんなりした顔で突っ込むのは蓮。ニヤニヤとあくどい顔で笑う友人に、冷たい一瞥を贈る。もっともその程度で怯む相手ではない。
「え、だって、キリスト教ってなかなかいい性格してると思わない?祝祭に指定されている日って大体誰かの命日だよ?普通、死んだ日って悼む日であって、喪に服す的な行動起こすべきじゃない?」
「殉教が神聖視されている以上、殉教はめでたいんだろ」
「あはは。人の命を何だと思ってるんだろうねぇ。死んだら他の人が幸福になれるとか、世界が平和になるとか。そんな超常的な事が発生するならとっくに世界は平和で幸せに満ちてると思わない?」
「知るかよ。俺は無信教だから興味ないし。……それよりも」
ケラケラと三大宗教の筆頭を貶している友人の台詞をぶった切ったかと思うと、蓮は半眼にした瞳でギロリと美しい青年を睨みつけた。きょとん、とする顔は実に美しいが、本性を知っている者としては実にイラッとさせられる。眉間に皺を寄せて天を仰いだ蓮は、絞り出すように呻き声をあげた。
「何で俺がこんな事に付き合わなきゃなんないの?!」
両手いっぱいに抱えたるは、小麦粉、タマゴ、牛乳、その他諸々。朝っぱらから聖月の襲撃を受けて引っ張り出された蓮は、見事に荷物持ちをさせられていた。
「そんなの決まってるじゃない!」
にっこり可憐に笑って見せる絶世の佳人。しかし、その笑顔がどことなく黒く見えるのは、偏見だろうか。ぱん、と顔の横で手を合わせた聖月は十人を十人魅了する満面の笑みで宣った。
「バレンタインのお菓子を作る為さ!」
「ちょっと聞こえちゃいけない副音声が聞こえた気がするんだけど?!」
「失礼な!この清廉潔白純粋無垢な僕の姿が見えないの?!」
「見えるか!寝言は寝て言えこの馬鹿!」
何処までいっても信用ならない友人の台詞に絶叫する蓮。青い空に消えていくソレを不満そうな顔をして聞いていた聖月は、ぷくりと頬を膨らませた。
事の発端は、前述の通り。バレンタインを翌日に控えたこの日、偶然にも土曜日と休日だった。そもそも、ナンバーズと総称される九つの学園の日常は、ハードである。国内最高峰の教育を施す関係で、授業のレベルは一般の学校のソレとは格が違う。それに加えて生徒によっては委員会活動や、部活動も積極的に行う。学業においてもそれ以外においても、学園の生徒である以上は結果を出さなければペナルティが課される。
その為、日々の活動に手を抜く者はおらず、休日は英気を養う為に死んだように眠る者も少なくない。蓮もその内の一人だった。
しかし、あくまで少なくない、と言うだけ。つまり、例外が存在する。そんな生活をしていてなお、エネルギーをあり余せている者もいるのだ。そして、言わずもがな、蓮の親友を自称するはた迷惑な存在もまた、後者に含まれるわけで。
「レンれん蓮くーん!朝だよ起きろー!」
「うへぇ?!」
暖かな布団でぬくぬくしながら微睡んでいた蓮。突然部屋の扉が開いたかと思ったら、勢いよく重いものが降って来た。蓮はたまらず奇声を上げて飛び起きた。寝起きで動かない頭を無理やりたたき起こして状況を把握しようとする。そして真っ先に目に飛び込んできたのは。
「ちょ、な、どうやって入って来やがった聖月!」
「わぁ蓮君のキャラが崩れてるぅ!めっずらしぃ!」
「だまらっしゃい!」
蓮のベットに零れ落ちる白銀の絹糸。優美な線をシーツに描くその髪の持主が、爽やかな朝日に照らされて、それは麗しい蕩けた笑みを浮かべて寝そべっている光景。普段は隠しているその姿だが、既にカミングアウト済み。一瞬でその正体と状況を理解し怒声を浴びせる。しかし、ケタケタと笑うだけの聖月に、蓮の頭が早速痛み始める。言ってやりたいことは山ほどある。山ほどあるのだが。
「何さ」
「……別に」
”他人の不幸は密の味”がモットーであると豪語するこの友人は寧ろ嬉々として躱し、更に嫌がらせをしてくるだろう。小首を傾げて可愛らしく聞いてくる聖月に、ため息をついた蓮。諦めの境地に達していた。
「で、こんな貴重な休日の朝早くから何の用」
「ふっふっふー。良くぞ聞いてくれました蓮君!実は、僕にはとても重要なミッションがあるのです!」
「……はぁ」
優美な動作で上体を起こした聖月は、ふふん、と薄い胸を張る。この時点ですでに嫌な予感しかない蓮の引きつった顔ににっこりと笑みを返して宣言した。
「明日はバレンタインデー!他人の意のままに動くのは癪だけど、今回だけは乗ってやろうじゃない!と言う訳で、買い物行くよ!」
「いや、絶対聖月の考えるバレンタインデーって一般の人が考えるソレとは思いっきり乖離しているはずだよね?!」
思わず突っ込みを入れた蓮。漸く頭が回ってきた事を自覚すると同時に、ふと一つの疑問が頭をよぎった。
「ってか、そもそもどうやって部屋に入ってきたわけ?聖月は特待生で一人部屋。ここの鍵持ってないでしょ」
「え、何言ってるの蓮君」
じゃん、という声と共に取り出したのはよくよく見覚えのある鍵。目を剥く蓮に対し、聖月は満面の笑みを浮かべて見せる。
「勝手にスペアを作ったのか?!」
「まっさかぁ。そんな悪いことしないよぉ。だって俺、風紀委員だもん。こんなのちょっと言い訳すれば手に入る」
「なお悪いわ!職権乱用だ馬鹿!誰だコイツに権力与えたの!」
「え、龍に決まってるじゃん!文句言いたいなら行って来れば?」
蓮は崩れ落ちる以外の選択肢がなかった。
そんなこんなで、朝から引っ掻き回された蓮。外出届が無ければ敷地から出られないと足掻くも、聖月には通じず。どこからともなく取り出された蓮の外出許可証を見せられた時点で、蓮の貴重な休日の使い道は決まった。
そして、現在に至る。ああじゃない、こうじゃない、と連れまわされた挙句に荷物持ちをさせられてぐったりした蓮を連れて聖月が向かったのは自分の部屋。学園のシステムは厳しいが、それに応じたように結果を出す者には好待遇が与えられる。聖月は高性能キッチン付きの一人部屋に住んでいた。
「……で?聖月って料理できたっけ?」
「失礼な。料理なんてレシピ覚えれば簡単に出来るじゃん。本職を目指すわけじゃないんだし」
あっさりと返された言葉に、蓮は乾いた笑いを零した。そうだった、性格はともかくハイスペックだった、どうせならもう少しマトモな奴にスペックを与えるべきじゃなかったか神様よ。そんな失礼な事を思いつつ、蓮は肩を竦めた。そのスペック故に苦労してきた事もまた理解しているので言わないが。
壊滅的な音痴故に原曲が何か分からない鼻歌を歌いつつ、聖月が買ってきたものを整理している。疲れの残る体をソファに預けながら蓮はふむ、と考え込んだ。
「お菓子関係のものは結構一般的な物買ってたけど、何作るつもり?」
「良くぞ聞いてくれました!今回はシュークリームを作っちゃいまーす!」
振り返った聖月はそれはそれは楽しそうである。経験があるから分かる。この顔をしている時はろくでもない事を考えている。蓮は買ってきたものを改めて思い返し、顔をひきつらせた。
「えっと。ちなみにあれらは料理に使うんだよね?」
「それは出来上がってからのお楽しみ?」
「……俺、要らない」
「えー。そんな事言わずに。ね?」
明らかにお菓子作りに関係ないであろうそれらを頭に浮かべた蓮はそっと部屋を後にしようとする。触らぬ神に祟りなし。もっとも、蓮の願いが叶う訳もなく。妖艶な笑みを浮かべた聖月の圧力に屈した蓮は、どうにでもなれと自棄になったとかいないとか。
数時間後。ソファに倒れたままピクリとも動かない蓮を横目に、聖月は口元を三日月の形に刻んだ。目の前には大量に盛られたシュークリームの山。見た目で行くと美味しそうである。こんがりと焼きあげられたシュー。形もふっくらしていて美しい。実際口に含めばさっくりとした食感が口を楽しませるだろう。
「さぁて。最後の仕上げ」
ふふふ。込み上げる笑みをかみ殺しきれず零した聖月はポケットから携帯を取り出した。ぱぱぱっと打ったメールの文面は。
「"明日の12時、ornerinessに来られたし。時間までに現れなかった場合は……その時のお楽しみだお(⋈◍>◡<◍)。✧♡"っと」
めぼしい人物に一斉にメッセージを送信する。ウットリとした様子で携帯に唇を寄せた聖月は待ち切れなさそうにキスをする。
「楽しみだなぁ」
何も知らない人には、恍惚を。聖月を知っている人には、戦慄を。それぞれ抱かせる美しい笑みを浮かべた聖月はふと、己の口元についたチョコレートクリームに気付き、赤い舌でなめとった。
「うん。完璧っと」
口の中に広がる控えめな甘さを堪能して自画自賛すると、聖月はせっせとシュークリームを詰め始めた。
お礼と記念に……と考えていたのですが、中々思いつかず。ふともうすぐバレンタインだな、と思った瞬間に聖月君が頭の中でニヤリと笑ってくれました(笑)。時系列的には終末と幕開の間位でしょうか。転校する前、聖月君高校一年生の2月です。
バレンタインネタで全3話。お楽しみいただけたら幸いです。
**********
バレンタインデー。元は聖ウァレンティヌスが殉教した日に由来するこの日、各企業の販促活動に支配された民たちが恋のイベントとしてチョコレート菓子を差し出す。
「うふふ。誰か、しかも、聖人なんてとっておきの人の命日を恋のイベントにするとかイミフすぎるぅ」
「そんな性格の悪そうな顔でコケにするのはお前だけだよ」
げんなりした顔で突っ込むのは蓮。ニヤニヤとあくどい顔で笑う友人に、冷たい一瞥を贈る。もっともその程度で怯む相手ではない。
「え、だって、キリスト教ってなかなかいい性格してると思わない?祝祭に指定されている日って大体誰かの命日だよ?普通、死んだ日って悼む日であって、喪に服す的な行動起こすべきじゃない?」
「殉教が神聖視されている以上、殉教はめでたいんだろ」
「あはは。人の命を何だと思ってるんだろうねぇ。死んだら他の人が幸福になれるとか、世界が平和になるとか。そんな超常的な事が発生するならとっくに世界は平和で幸せに満ちてると思わない?」
「知るかよ。俺は無信教だから興味ないし。……それよりも」
ケラケラと三大宗教の筆頭を貶している友人の台詞をぶった切ったかと思うと、蓮は半眼にした瞳でギロリと美しい青年を睨みつけた。きょとん、とする顔は実に美しいが、本性を知っている者としては実にイラッとさせられる。眉間に皺を寄せて天を仰いだ蓮は、絞り出すように呻き声をあげた。
「何で俺がこんな事に付き合わなきゃなんないの?!」
両手いっぱいに抱えたるは、小麦粉、タマゴ、牛乳、その他諸々。朝っぱらから聖月の襲撃を受けて引っ張り出された蓮は、見事に荷物持ちをさせられていた。
「そんなの決まってるじゃない!」
にっこり可憐に笑って見せる絶世の佳人。しかし、その笑顔がどことなく黒く見えるのは、偏見だろうか。ぱん、と顔の横で手を合わせた聖月は十人を十人魅了する満面の笑みで宣った。
「バレンタインのお菓子を作る為さ!」
「ちょっと聞こえちゃいけない副音声が聞こえた気がするんだけど?!」
「失礼な!この清廉潔白純粋無垢な僕の姿が見えないの?!」
「見えるか!寝言は寝て言えこの馬鹿!」
何処までいっても信用ならない友人の台詞に絶叫する蓮。青い空に消えていくソレを不満そうな顔をして聞いていた聖月は、ぷくりと頬を膨らませた。
事の発端は、前述の通り。バレンタインを翌日に控えたこの日、偶然にも土曜日と休日だった。そもそも、ナンバーズと総称される九つの学園の日常は、ハードである。国内最高峰の教育を施す関係で、授業のレベルは一般の学校のソレとは格が違う。それに加えて生徒によっては委員会活動や、部活動も積極的に行う。学業においてもそれ以外においても、学園の生徒である以上は結果を出さなければペナルティが課される。
その為、日々の活動に手を抜く者はおらず、休日は英気を養う為に死んだように眠る者も少なくない。蓮もその内の一人だった。
しかし、あくまで少なくない、と言うだけ。つまり、例外が存在する。そんな生活をしていてなお、エネルギーをあり余せている者もいるのだ。そして、言わずもがな、蓮の親友を自称するはた迷惑な存在もまた、後者に含まれるわけで。
「レンれん蓮くーん!朝だよ起きろー!」
「うへぇ?!」
暖かな布団でぬくぬくしながら微睡んでいた蓮。突然部屋の扉が開いたかと思ったら、勢いよく重いものが降って来た。蓮はたまらず奇声を上げて飛び起きた。寝起きで動かない頭を無理やりたたき起こして状況を把握しようとする。そして真っ先に目に飛び込んできたのは。
「ちょ、な、どうやって入って来やがった聖月!」
「わぁ蓮君のキャラが崩れてるぅ!めっずらしぃ!」
「だまらっしゃい!」
蓮のベットに零れ落ちる白銀の絹糸。優美な線をシーツに描くその髪の持主が、爽やかな朝日に照らされて、それは麗しい蕩けた笑みを浮かべて寝そべっている光景。普段は隠しているその姿だが、既にカミングアウト済み。一瞬でその正体と状況を理解し怒声を浴びせる。しかし、ケタケタと笑うだけの聖月に、蓮の頭が早速痛み始める。言ってやりたいことは山ほどある。山ほどあるのだが。
「何さ」
「……別に」
”他人の不幸は密の味”がモットーであると豪語するこの友人は寧ろ嬉々として躱し、更に嫌がらせをしてくるだろう。小首を傾げて可愛らしく聞いてくる聖月に、ため息をついた蓮。諦めの境地に達していた。
「で、こんな貴重な休日の朝早くから何の用」
「ふっふっふー。良くぞ聞いてくれました蓮君!実は、僕にはとても重要なミッションがあるのです!」
「……はぁ」
優美な動作で上体を起こした聖月は、ふふん、と薄い胸を張る。この時点ですでに嫌な予感しかない蓮の引きつった顔ににっこりと笑みを返して宣言した。
「明日はバレンタインデー!他人の意のままに動くのは癪だけど、今回だけは乗ってやろうじゃない!と言う訳で、買い物行くよ!」
「いや、絶対聖月の考えるバレンタインデーって一般の人が考えるソレとは思いっきり乖離しているはずだよね?!」
思わず突っ込みを入れた蓮。漸く頭が回ってきた事を自覚すると同時に、ふと一つの疑問が頭をよぎった。
「ってか、そもそもどうやって部屋に入ってきたわけ?聖月は特待生で一人部屋。ここの鍵持ってないでしょ」
「え、何言ってるの蓮君」
じゃん、という声と共に取り出したのはよくよく見覚えのある鍵。目を剥く蓮に対し、聖月は満面の笑みを浮かべて見せる。
「勝手にスペアを作ったのか?!」
「まっさかぁ。そんな悪いことしないよぉ。だって俺、風紀委員だもん。こんなのちょっと言い訳すれば手に入る」
「なお悪いわ!職権乱用だ馬鹿!誰だコイツに権力与えたの!」
「え、龍に決まってるじゃん!文句言いたいなら行って来れば?」
蓮は崩れ落ちる以外の選択肢がなかった。
そんなこんなで、朝から引っ掻き回された蓮。外出届が無ければ敷地から出られないと足掻くも、聖月には通じず。どこからともなく取り出された蓮の外出許可証を見せられた時点で、蓮の貴重な休日の使い道は決まった。
そして、現在に至る。ああじゃない、こうじゃない、と連れまわされた挙句に荷物持ちをさせられてぐったりした蓮を連れて聖月が向かったのは自分の部屋。学園のシステムは厳しいが、それに応じたように結果を出す者には好待遇が与えられる。聖月は高性能キッチン付きの一人部屋に住んでいた。
「……で?聖月って料理できたっけ?」
「失礼な。料理なんてレシピ覚えれば簡単に出来るじゃん。本職を目指すわけじゃないんだし」
あっさりと返された言葉に、蓮は乾いた笑いを零した。そうだった、性格はともかくハイスペックだった、どうせならもう少しマトモな奴にスペックを与えるべきじゃなかったか神様よ。そんな失礼な事を思いつつ、蓮は肩を竦めた。そのスペック故に苦労してきた事もまた理解しているので言わないが。
壊滅的な音痴故に原曲が何か分からない鼻歌を歌いつつ、聖月が買ってきたものを整理している。疲れの残る体をソファに預けながら蓮はふむ、と考え込んだ。
「お菓子関係のものは結構一般的な物買ってたけど、何作るつもり?」
「良くぞ聞いてくれました!今回はシュークリームを作っちゃいまーす!」
振り返った聖月はそれはそれは楽しそうである。経験があるから分かる。この顔をしている時はろくでもない事を考えている。蓮は買ってきたものを改めて思い返し、顔をひきつらせた。
「えっと。ちなみにあれらは料理に使うんだよね?」
「それは出来上がってからのお楽しみ?」
「……俺、要らない」
「えー。そんな事言わずに。ね?」
明らかにお菓子作りに関係ないであろうそれらを頭に浮かべた蓮はそっと部屋を後にしようとする。触らぬ神に祟りなし。もっとも、蓮の願いが叶う訳もなく。妖艶な笑みを浮かべた聖月の圧力に屈した蓮は、どうにでもなれと自棄になったとかいないとか。
数時間後。ソファに倒れたままピクリとも動かない蓮を横目に、聖月は口元を三日月の形に刻んだ。目の前には大量に盛られたシュークリームの山。見た目で行くと美味しそうである。こんがりと焼きあげられたシュー。形もふっくらしていて美しい。実際口に含めばさっくりとした食感が口を楽しませるだろう。
「さぁて。最後の仕上げ」
ふふふ。込み上げる笑みをかみ殺しきれず零した聖月はポケットから携帯を取り出した。ぱぱぱっと打ったメールの文面は。
「"明日の12時、ornerinessに来られたし。時間までに現れなかった場合は……その時のお楽しみだお(⋈◍>◡<◍)。✧♡"っと」
めぼしい人物に一斉にメッセージを送信する。ウットリとした様子で携帯に唇を寄せた聖月は待ち切れなさそうにキスをする。
「楽しみだなぁ」
何も知らない人には、恍惚を。聖月を知っている人には、戦慄を。それぞれ抱かせる美しい笑みを浮かべた聖月はふと、己の口元についたチョコレートクリームに気付き、赤い舌でなめとった。
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