学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

文字の大きさ
82 / 84
逆襲

3

しおりを挟む
 ――Take1――
 「えーと、生クリームを温めて、チョコレートを入れた器に映して溶かして、凍らせる」
 ドバドバドバ。カチャチャチャチャ、ボフ。……ジジジジジ。
 「……って焦げてる焦げてる!」
 「はぁ?そんな短時間で……って煙?!」
 「ちょ、止めてください会長!燃えてます!」



 ――Take2――
 「えっと、溶かしたチョコレートとバターを混ぜたものに砂糖を加えて……」
 カシャカシャ。ドバババ。
 「え、ちょ、いれ過ぎ!」
 「会長!食事の方の料理と違って、お菓子作りは分量が命です!」
 「あ?甘い方が上手いんじゃねぇの?ほら」
 ペロ。
 「……ゲホっ!」
 「会長?!」
 「なにやって……ってしょっぱ?!塩入れたの?!ばかなの?!」
 「いや、砂糖って書いてあった!間違いない!」
 「確かに朝顔の性格的に間違ってるはずないし、ラベルにも書いてある……」
 ピロン。
 「ん?聖月からメッセージ?」
 ――塩と砂糖、間違えないようにね!ByカイトウH
 「アイツか!」
 「うっわ。もしかしなくてもやり返そうとしてる事バレて、しかもその舞台がこの部屋だって推測して、職権乱用で鍵拝借して、地味な嫌がらせしてきた?」
 「もう止めませんかホント……」



 ――Take3――
 「砂糖いれて、卵入れて、えー、粉を入れる?」
 ザザザザ。カシャカシャ。ポトポトポト。カシャカシャ。ダババババ、バフッ!
 「ギャー!」
 「ちょ、会長!一気に袋ひっくり返す馬鹿がどこにっ!ゴホっ!」
 「うわっ!煙っ!ゲフっ!って粉塵爆発するんじゃね?!ゴホっ!」
 「するかバ会長!馬鹿言ってないでさっさと窓開けろ!ゲホゲホゲホっ!」



 ――Take4――
 「やっと生地が完成だな」
 「疲れた……このバ会長……」
 「……次は料理ができるようになって頂いた方がいい気がしますね……」
 「そもそもこれ以上料理しない方向の方が手っ取り早くて安全な気がするよ朝顔」
 「おいそこ。失礼だぞ。後はオーブンで焼いて……」
 ピピピ。ヴィーン。ゴォォォォ。
 「うっしこれでおっけ」
 ……。
 「って全然膨らまないんだが?」
 「ええ?今度は何やらかしたの」
 「ああ?俺は何もやってねぇよ」
 「問題ないはずなのですが……あ、もしかして余熱」
 「ってか壊れてんじゃねぇのかこの機械!」
 ガツン!
 「ガツン……?って何してるんですか!」
 「え、壊れてるみたいだから蹴ったら治るかと」
 「馬鹿ですか貴方は!蹴ったらなおるって昭和か!予熱していないオーブンでお菓子作りなんて阿呆な事する方が悪いんですよ!貴方の頭の方をぶん殴りましょうか?!」



 ――Take5――
 「……従者に殴られる主なんてめったにいないだろう……」
 「だったら殴られない普通の主に成れるよう努力してください」
 「あははは。ここの主従も滅茶苦茶だねぇ。ウチも似たようなもんだけど。さて、余熱おっけー、生地おっけー。焼くぞー」
 ピピピ。ヴィーン。ゴォォォォ。
 「よし。今度こそ、成功するはず」
 ……。
 「……ねぇ。なんか焦げ臭くない?」
 「……奇遇ですね。同じこと思ってました」
 「ああ?確かにそうだが、お菓子作りってこんななんじゃねぇの?」
 「な訳あるかアホ!」
 ブワワワワ。
 「って、ちょ、煙?!」
 「焦げてる焦げてる!」
 「これどうすんだ?!コンセント抜くか?!」
 「抜いてどうする?!っていうかとりあえずスイッチ切って……」
 ゴォォォォ!!
 「って燃えてる燃えてる!このままじゃ火事!」
 「消火器持ってこい!このままじゃ寮が燃え……!」
 「ギャー!!」




 「……と言う訳でして」
 「うん。まあ、なんとなくそんな気がしてた」

 頭を抱える嵯峨野。悠茉は引きつる顔が元に戻らず視線も泳いでいる。完璧に料理初心者がやらかす事をひたすらやりまくったらしい。

 「これ以上続けていては私の部屋が……」
 「あはは。朝顔の部屋がなくなっちゃうどころか、寮がなくなって百人単位で家無し未成年者が発生するね」
 「……」

 苦労してきたんだな、と肩を叩く悠茉に泣きそうな顔を向ける嵯峨野。そこに颯斗まで参戦して、その一帯だけ謎の感動空間が生まれている。意味不明だ。

 「って事で、ここの厨房貸して欲しいんだが」
 「どういう繋がりだ!ウチを燃やす気か?!新手の嫌がらせか何かか?!」

 けろっとした顔で頼み込む高宮。空気を読むもくそもない状態である。ぎょっとして振り向いた悠茉が必死の形相で首を振るが、しかし、その腕をがっしり掴む二つの手が。

 「うーん。悪いんだけど、ここまで来たらやり切らなきゃ満足できなくて」
 「すみませんが、ウチの主はやり切らないと際限なく暴走するものでして……。いっそのこと完全燃焼させたいのでご協力願えませんか?プロが居れば多少はマシになるかと」
 「てめぇら、俺に押し付けに来たなあのどうしようもない馬鹿の事!」

 引きはがそうにも引きはがせず。押し問答は悠茉の完敗だった。そもそも不利な条件が重なりすぎている。貸しだからな!と負け惜しみの様に叫ぶ悠茉の尊い犠牲の元、漸く三人のはかりごとがスタートした。




 ちなみに。

 「やっぱり俺の店を壊す気だろう!」

 と作業中になんど悠茉が叫んだかは、定かではない。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...