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逆襲
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フォンダンショコラ。
フランス発祥のョコレートケーキであり、割ると中からトロリとしたチョコレートが溢れてくる。小麦粉入りの場合は生焼け故に腹痛を引き起こす可能性があるが、手軽さと美味しさゆえに人気のお菓子である。
――――――――――
「で、呼び出されてみれば明らかに危険と思われるフォンダンショコラ。いいねぇ最高」
「第一声から失礼だなお前は」
ホワイトデー当日。果たし状よろしく送られてきたメールに、嬉々として答えた聖月。実に楽しそうに現れた、どころかむしろ到着が早すぎて高宮サイドを慌てさせたのは余談である。最愛の恋人と連れ添って現れた聖月はさっそく席につき、ワクワク顏で待機している。竜崎は呆れ顔だ。
「気持ちはわからんでもないが……お前、馬鹿なのか」
「この二日間でやたら馬鹿と言われまくったんだが。自信喪失させるのがお前らの作戦か?」
一生分の馬鹿を言われた気がする、と高宮が遠い目をした。フォンダンショコラが完成するまでは深夜テンションもかくや、と言ったところだったのだが、終わったので燃え尽きたのだろう。むしろ、この二日間を思い返して追加ダメージを喰らっているようだ。
「はいはーい。それじゃ期待に応えて早速始めましょー!」
逆に壊れたのは悠茉の方だった。散々迷惑をかけられ、店を爆破させられそうにもなれば壊れるのも当然だろう。むしろさっさとイベントを終わらせて追い出そうという意図が透けて見える。すでに聖月が爆笑している。
「あはは。悠茉可哀想!」
「誰のせいだ誰の!そもそもお前がここまで良い性格してなければこんな事にならんかったわ!」
煽るどころかむしろ煽られ。悠茉の沸点がついに振り切れた。パイ投げよろしくその顔に投げつける――事はなく、その眼前に思いっきり皿を叩きつける。食材が勿体ないと生真面目な悠茉らしい行動である。手順がちがう、と高宮サイドは目を剥いているが。
「あ、なに、これ貰っていいの?」
「あ」
「馬鹿!流れが違うだろう!」
やってからしまったという顔をした悠茉。高宮が呆然としていたが、慌てて回収しようとする。しかし、聖月の方が一歩早く、その皿を手に取ったかと思うと、そのまま勢いよくかぶりついた。
「お、悪くないんじゃない?」
「は?」
予想だにしない台詞に、目が点になる高宮達。その後ろでは嵯峨野がフォンダンショコラの様子を確認している。
しかし、シュークリームと違って元々埋め込んでいるから、中身が全く確認できない。高宮サイドの顔色が徐々に悪くなっていく。まさか当たりを食べさせたのか?!と悠茉を振り返るも、ブンブンと首を振られる。出したのはハズレのケーキだったはずなのに。聖月を翻弄するはずが、高宮サイドの方が翻弄させられている。竜崎は呆れ顔だ。
「ふっふーん。こっちももーらいっと!」
「っておい!」
呆然としている間にもシレっと悠茉の手からフォンダンショコラを奪っていく聖月。今度もかじりついては嬉しそうに笑っている。
「うーん。美味っ!」
「あの、えっと、何がどうなって……?すでになにか仕掛けられてる、とか?!」
「ちょっとまて。その前に、この二日の俺の奮闘どこ行った?」
「……やば。収集つかなくない?」
「あ、やっぱり颯斗もグルだったんだ。いーけないんだー!裏切り者ー!」
ケラケラ笑う聖月の口元にはチョコレートクリームが。作った本人たちが全く状況を掴めていないのだ。収集がつかないのも当然だろう。
やり返すつもりが全く歯が立たなかった事に気付き絶望した顔をする高宮。嵯峨野も報復が無いかびくびくしているようだ。つまらなそうにぼやいて聖月の傍に座った颯斗。聖月が笑いながらその頬をつついている。責める口調とは裏腹に、本人的には別に気にしていないようだ。寧ろ楽しそうである。
そのまま残ったフォンダンショコラの山に突撃していく聖月と、混乱の末に何故かフォンダンショコラの山を守りに走っている高宮達の騒動を眺めていた竜崎は、クツクツと喉の奥で笑いがら悠茉の方へと歩み寄った。そのままお疲れ、と肩を叩きコーヒーを要求する。
「なんかホント、疲れたし。何が何だか分からないし。一番の被害者は俺じゃない?」
「全くな。そんな被害者のアンタに一つ良いこと教えてやるよ。これじゃ貧乏くじもいいとこだからな」
同情の瞳を向けてきた年下の男に、げんなりした表情を向ける悠茉。しかし、その低い呟きに目を見張った。
「高宮のヤツ、どうせほとんどハズレ作ったんだろ?で、聖月が一番最初に食べた感想。“悪くないんじゃない?”だとさ。次のを食べた時には“美味い”って、最初からそう言えばいいのに、どうして言わなかったのかね」
Nukusのメンバーは、聖月に倣ってか基本的に嘘をつかない。そして、本当の事も言わない。それが示す意味は。
「全く。真宮の事が落ち着いてはしゃいでるな、アイツ。馬鹿騒ぎが出来る事が嬉しくてしょうがないらしい。好き好んで自爆しに行く馬鹿はアイツくらいだろう」
そう言って竜崎はコーヒーを飲み干し、店内を走り回っている一団に近づいて行った。悠茉がくったりと力を抜いてしゃがみ込む。そして、込み上げてくる笑いを隠すためにそっと口元を手で覆った。
自分の為に作ってくれた菓子が嬉しすぎて、策略事全部食べ切るとは。いかにも聖月らしい選択だ。しかも、高宮たちの度肝を抜いて策略を踏み倒すという熨斗付き。
「らしい、と言うか。アイツに勝てるヤツなんて居るのかね」
他の男を追いかけるな、と捉えられている聖月を見て苦笑する。
結局、一番おいしい想いをしたのは、聖月であったというお話。
フランス発祥のョコレートケーキであり、割ると中からトロリとしたチョコレートが溢れてくる。小麦粉入りの場合は生焼け故に腹痛を引き起こす可能性があるが、手軽さと美味しさゆえに人気のお菓子である。
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「で、呼び出されてみれば明らかに危険と思われるフォンダンショコラ。いいねぇ最高」
「第一声から失礼だなお前は」
ホワイトデー当日。果たし状よろしく送られてきたメールに、嬉々として答えた聖月。実に楽しそうに現れた、どころかむしろ到着が早すぎて高宮サイドを慌てさせたのは余談である。最愛の恋人と連れ添って現れた聖月はさっそく席につき、ワクワク顏で待機している。竜崎は呆れ顔だ。
「気持ちはわからんでもないが……お前、馬鹿なのか」
「この二日間でやたら馬鹿と言われまくったんだが。自信喪失させるのがお前らの作戦か?」
一生分の馬鹿を言われた気がする、と高宮が遠い目をした。フォンダンショコラが完成するまでは深夜テンションもかくや、と言ったところだったのだが、終わったので燃え尽きたのだろう。むしろ、この二日間を思い返して追加ダメージを喰らっているようだ。
「はいはーい。それじゃ期待に応えて早速始めましょー!」
逆に壊れたのは悠茉の方だった。散々迷惑をかけられ、店を爆破させられそうにもなれば壊れるのも当然だろう。むしろさっさとイベントを終わらせて追い出そうという意図が透けて見える。すでに聖月が爆笑している。
「あはは。悠茉可哀想!」
「誰のせいだ誰の!そもそもお前がここまで良い性格してなければこんな事にならんかったわ!」
煽るどころかむしろ煽られ。悠茉の沸点がついに振り切れた。パイ投げよろしくその顔に投げつける――事はなく、その眼前に思いっきり皿を叩きつける。食材が勿体ないと生真面目な悠茉らしい行動である。手順がちがう、と高宮サイドは目を剥いているが。
「あ、なに、これ貰っていいの?」
「あ」
「馬鹿!流れが違うだろう!」
やってからしまったという顔をした悠茉。高宮が呆然としていたが、慌てて回収しようとする。しかし、聖月の方が一歩早く、その皿を手に取ったかと思うと、そのまま勢いよくかぶりついた。
「お、悪くないんじゃない?」
「は?」
予想だにしない台詞に、目が点になる高宮達。その後ろでは嵯峨野がフォンダンショコラの様子を確認している。
しかし、シュークリームと違って元々埋め込んでいるから、中身が全く確認できない。高宮サイドの顔色が徐々に悪くなっていく。まさか当たりを食べさせたのか?!と悠茉を振り返るも、ブンブンと首を振られる。出したのはハズレのケーキだったはずなのに。聖月を翻弄するはずが、高宮サイドの方が翻弄させられている。竜崎は呆れ顔だ。
「ふっふーん。こっちももーらいっと!」
「っておい!」
呆然としている間にもシレっと悠茉の手からフォンダンショコラを奪っていく聖月。今度もかじりついては嬉しそうに笑っている。
「うーん。美味っ!」
「あの、えっと、何がどうなって……?すでになにか仕掛けられてる、とか?!」
「ちょっとまて。その前に、この二日の俺の奮闘どこ行った?」
「……やば。収集つかなくない?」
「あ、やっぱり颯斗もグルだったんだ。いーけないんだー!裏切り者ー!」
ケラケラ笑う聖月の口元にはチョコレートクリームが。作った本人たちが全く状況を掴めていないのだ。収集がつかないのも当然だろう。
やり返すつもりが全く歯が立たなかった事に気付き絶望した顔をする高宮。嵯峨野も報復が無いかびくびくしているようだ。つまらなそうにぼやいて聖月の傍に座った颯斗。聖月が笑いながらその頬をつついている。責める口調とは裏腹に、本人的には別に気にしていないようだ。寧ろ楽しそうである。
そのまま残ったフォンダンショコラの山に突撃していく聖月と、混乱の末に何故かフォンダンショコラの山を守りに走っている高宮達の騒動を眺めていた竜崎は、クツクツと喉の奥で笑いがら悠茉の方へと歩み寄った。そのままお疲れ、と肩を叩きコーヒーを要求する。
「なんかホント、疲れたし。何が何だか分からないし。一番の被害者は俺じゃない?」
「全くな。そんな被害者のアンタに一つ良いこと教えてやるよ。これじゃ貧乏くじもいいとこだからな」
同情の瞳を向けてきた年下の男に、げんなりした表情を向ける悠茉。しかし、その低い呟きに目を見張った。
「高宮のヤツ、どうせほとんどハズレ作ったんだろ?で、聖月が一番最初に食べた感想。“悪くないんじゃない?”だとさ。次のを食べた時には“美味い”って、最初からそう言えばいいのに、どうして言わなかったのかね」
Nukusのメンバーは、聖月に倣ってか基本的に嘘をつかない。そして、本当の事も言わない。それが示す意味は。
「全く。真宮の事が落ち着いてはしゃいでるな、アイツ。馬鹿騒ぎが出来る事が嬉しくてしょうがないらしい。好き好んで自爆しに行く馬鹿はアイツくらいだろう」
そう言って竜崎はコーヒーを飲み干し、店内を走り回っている一団に近づいて行った。悠茉がくったりと力を抜いてしゃがみ込む。そして、込み上げてくる笑いを隠すためにそっと口元を手で覆った。
自分の為に作ってくれた菓子が嬉しすぎて、策略事全部食べ切るとは。いかにも聖月らしい選択だ。しかも、高宮たちの度肝を抜いて策略を踏み倒すという熨斗付き。
「らしい、と言うか。アイツに勝てるヤツなんて居るのかね」
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