圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

会長の採点

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『用があるなら中に入れば? 鍵は必要ないよ』

 押した指が離れると同時に、スピーカーから投げやりな声が聞こえてくる。

「え、あ、はい……てか、誰?」

 予想外な高い声の応答に、つい素で聞き返してしまう。すると、投げやりな声に険が滲む。

『家畜に名乗る趣味はない』

 ブツンと通話の切れる音を聞いた後、もう一度インターホンを押してみたが、機嫌を損ねてしまったらしく、連打しても反応は返ってこなかった。

 オレはカードキーをポケットにしまい、扉に手を伸ばす。インターホンに出たのは、間違いなく会長ではなかったが、誰だか知らない奴が入室の許可はくれたので、遠慮なく邪魔する事にした。

 もし会長が留守なら、待ち伏せのようになってしまうが、帰って来るまで待たせて貰う。

 オレが一人で先輩を探しても、絶対に見つける事は出来ない。情けないかなオレには、先輩の居場所すら検討もつかないのだ。学校を抜け出し、一人で山を下りるのも現実的に考えて不可能だしな。

「…………」

 自分の立っている非常識な空間に望みを託す。オレに出来なくとも、会長なら先輩を見つけられる。オレの頼みを聞いてくれる可能性は低いが、それが先輩の事ならば放置はしないはずだ。

「……一番いいのは、ここに先輩が居てくれる事だけどな」

 仲直りしたって言ってたし、久し振りに旧交を温める為に部屋に戻っているのだとしたら、どれだけいいだろう。まあ、多少は面白くないが……それなら笑って腹に頭突き食らわして水に流せる。

 胸中で苦笑しながらもオレは覚悟を決め扉を開き、動作の延長線上でタイムラグなしに扉を勢い良く閉めた。

「……? …………?? …………ッ!?」

 自分が何を見たのか、一瞬理解出来ずに悩んでしまった。頭の処理が追いつくと、ブワッと全身から嫌な汗が噴き出す。

 部屋の中に居たのは、腰に足を生やした全裸の男、漏れ聞こえてきたのは人とは思えないような呻き声……細部を思い出さずとも間違いなくお取り込み中だった。

「あの性悪ッ何が『入れば』だッ!」

 インターホン越しの声の主にも、ようやく思い当たった。男に見惚れるという屈辱を食わせやがったメイドの格好をした奴だ。クソッ、嫌なモン見ちまった。

「てか、こんな、まだ日も暮れてない内から、何やってんッ」

 扉に手をかけたまま憤っていると、突然内側から扉が開いて、動揺の治まらないオレはその場につんのめった。

「そんな所で何をしている? 話があるのならば入るがいい、夷川」

「うわぁああッ!!」

 オレは悲鳴と共に廊下へ転がり出て、目の前のモノから必死で逃げた。一瞬だったが、鼻先を掠めたおぞましいモノを振り払いたくて、顔を何度も手ではたく。

「お前に割いてやれる時間は多くはない。用件を言うがいい」

 尊大に腕を組む男は全裸のみならず、さっきまでケツ穴を掘っていたであろう勃起したちんこを隠しもせず、当然のようにオレを見下ろしてきた。

 オレは会長の事を全く知らない。現在、余すことなく全部が見えてしまっているとは言え、どんな言葉が返ってくるのか、全く予想が出来ず、固唾を呑んで待つしかなかった。

「金城からは、何も聞いていないのか?」

 淡々とした声からは、やはり感情は読み取れず、オレは走り出しそうな気持ちを抑え、慎重に答える。

「昨夜、就寝前に、寮に訪ねてきて、朝一から補習になったって言われた」

「その時の金城の様子はどうだ。普段と何か変わった事などなかったか?」

「別にいつも通りだよ。あー、なんか、その……一緒に過ごせなくて、ちょっと寂しそうだったけど」

 惚気になりそうで、少し言葉を濁して言うと、会長は黙って目を閉じ、長い溜め息を吐いた。

「補習終わるの待とうと思って、三年の空き教室で待ってたけど、闇市って奴に、先輩は補習なんて受けてないって言われて、見に行ったら本当にいなかった。それから、学校中先輩を捜しまくったけど、どこにも見つからなくて、もし学校の外に出てるならオレ一人では捜し出せないから……ここに来た」

 溜め息に惚気た事に対するモノか、責めるような気配を感じて、オレは慌てて説明を続けた。けれど『先輩を捜して欲しい』という頼みは、勢いだけでは出て来なかった。

 人が必死で話している最中も、勃起させたままの股間を隠しもしない人間に対して、オレの常識が混乱しているのもある。けれど『先輩を捜して欲しい』と口に出せなかったのは、もっと分かりやすい理由からだ。

「私は心底落胆させられたよ、夷川」
 
 目を開いた会長は、物理的にオレの口を塞いでしまうような、冷酷な視線を容赦なく向けてきた。

「お前は金城が手を離した事すら気付いていないのだな」

 その声も、いつかの車庫を思い出す、冷たく突き放したモノで、情けない心を抉るような鋭さに身が竦んだ。

「どういう意味だよ……アンタは、先輩がどこに行ったのか知ってるのか」

 何を言われているのか分からないのに、喪失感だけが大きくなる。意味が分からないのに、会長の言葉に昨夜の光景が重なり、心臓が弾けそうになった。

 繋げなかった先輩の手、遠くなる先輩の背中。

「そのままの意味だ。金城はお前の元を何も言わずに去った。今のお前は金城にとって『未来』になり得ないという事だ」

 知らず右手を握り締める。役立たずな手を痛いくらい握り締める。

「金城がどこへ行ったのか、もちろん知っているとも。金城がどこへ行こうとしているのかも、私はもちろん知っているさ」

 嘲笑う声を上げる会長に、オレは負けじと睨むように視線をやる。知らず失ったかもしれない恐怖を握り潰し、ここに何をしに来たのか、動揺する胸に刻みつけた。

 先輩が、どこかに行ってしまったのなら、オレが迎えに行く。

「先輩の居場所を教えてくれ」

「知ってどうする?」

「ここに連れ戻す。まだ卒業するには早すぎるだろ」

「……私はお前が嫌いだ」

「知ってるよ。オレに出来る事なら、なんだってやってやる。だから、教えるだけなんてケチ臭い事言わず、先輩の所までオレを連れて行ってくれ」

 全裸の勃起男を前にして、一歩も引かずにオレは言い切った。先輩を横から掻っ攫ったオレに対して、会長が何を思っているかは想像出来なかったが、柏木の言っていた事を信じるなら、悪いようにはしないだろう……賭けに出る根拠となっている奴が、目の前にケツ穴丸出しで吊られているという状況は、心臓に悪い事この上ないけどな。

「諦めの悪い男だな」

 会長の目がスッと細められる。向けられたのは、剥き出しの敵意だ。夏休みに見た胸糞悪い映像を思い出し、逃げ出したい気分になったが、先輩を取り戻す為なら、どんなクソみたいな交換条件だろうと受けて立つ。

「諦めの悪さにだけは自信あるぜ。まあ、自慢にならねぇけど……アンタだってこのままでいいのか? 先輩と一緒に卒業したいとか思わねーの?」

「フン、生意気な。そこまで言うのならば、覚悟は出来ているんだろうな」

 ちょっと挑発し過ぎたか。会長が焦らすように一歩オレへと近づいて来た。思わず一歩後ろへ下がりそうになったが、嫌悪感を無視して、なんとか踏み止まる。

「いい目をしている。お前は多少の事では折れたり、壊れたり、しないだろう」

 あと数センチでちんこが触れる距離で立ち止まると、会長は興味深そうにオレの顔を覗き込んでくる。下方が全力で気になったが、逸らせる目は持ち合わせがなかった。

「実に良い選択だ。金城も見る目がある」

 先輩の名前を出されて、嫌悪感が倍増する。生徒会の玩具にされる事が、情けないくらい嫌で堪らない。

「やるなら……早くしてくれ」

 逃げ出したい気持ちを潰す為、自分で退路を断った時、不意に隣りの部屋の扉が開いた。中に居たのは性悪メイドで、会長に対して恭しく頭を下げ、廊下に出て来た。

「夷川」

 メイドに気を取られた瞬間、会長がオレの名前を呼んだ。ハッとして視線を元に戻すと、会長は背中を向けて部屋に戻ろうとしていた。

「今のままでは落第だ。せいぜい足掻けよ」

 ついて来いと言われるかと身構えたが、それだけ言って会長は柏木の吊された部屋へと一人で帰ってしまった。

 無情にも扉は閉じられ、取り残されたオレは一人慌てふためいた。もう一度、先輩の手を掴むには、会長の力が必要だ。

「話は終わり。どれだけ喚こうが無意味だよ」

 無我夢中で扉に取り縋ろうとしたが、横からそれを阻むように声が投げつけられた。

「どうしても柏木の上に跨がりたいって言うなら止めないけど……何、変態プレイに興味でもあるの?」

 隣の部屋から出て来た性悪メイドが、ケラケラ笑う。

「先輩を捜してくれるなら、なんだってやってやるよ……頼む会長、ここを開けてくれ!」

 メイドの嫌味を軽く流し、扉を叩いて呼びかけ続けていると「これだから、馬鹿は嫌い」と吐き捨てるような声が聞こえた。

「金城先輩なら、捜す必要なんてないよ」

 嫌味ならば流せるが、コレは無理だった。気付けば扉に叩きつけていた手が、メイド服の襟ぐりを掴み上げていた。

「テメェらになくても、オレにはあるんだ」

 女にしか見えない姿のせいで罪悪感が感情を鈍らせ、メイドから手を離すとスパーンと右頬を平手で打たれた。

「ボクに気安く触るな。あと、人の話を最後まで聞け」

 華奢な体付きに相応しい非力さで、痛みはない……けれど。

「は? 何それ? 気持ち悪いんだけど」

 先輩がいなくなったのだと、追い詰められていた頭は、その衝撃で一気に弾けてしまった。壊れたように、意思とは関係なく目から熱いモノが流れ出る。

「絶対に先輩を見つけるんだ……こんなの嫌だ。絶対に、ぜったいに、せんぱいを、みつける」

 冷静にならなきゃいけないのに、ただただ願望だけが溢れ出る。

「小学生でも、もう少し我慢出来るんじゃない?」

 呆れた表情を見せるメイドに返せる言葉はない。オレだって情けないが、溢れかえる感情の、どこを抑えればこの涙が止まるのか分からないのだ。

「別に会長がお前を見限ったって訳じゃないよ。捜す必要がないだけ」

 呆れるのを通り越したらしいメイドは、乱れた襟元を整えながら、僅かばかり穏やかな口調で続けた。

「戻って来たからね」

 何を言っているのか分からず「え?」と間の抜けた声が出た。

「最後まで話を聞けって言ったでしょ。金城先輩なら、今さっき戻ったよ」

 思ってもいなかったメイドの言葉に、つい勢いで細い両肩に手をかけてしまった。

「だから、気安く触るなって言ってるだろ!」

 脳天を突き抜ける痛みに、オレはその場に蹲る。

「分かったら早く行けば?」

 無防備な後輩に金的を食らわせやがった鬼畜メイドは、人の後頭部に侮蔑の視線をそそぎ鼻で笑うと、楚々とした動作で部屋へと帰って行った。
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