圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

不在の理由

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 昼休みのチャイムが響く廊下を走り、自分の心臓の音に急かされ、まだ授業をやっているらしい、淡々と教師の声とチョークが黒板を叩く音だけがする教室の扉を開けた。

「一年が何の用だ」

 遠慮の無い勢いで扉を開いたオレを見て、教壇に立つ守峰が全身で『邪魔だ、出て行け』というオーラーを放ちながら言った。普通なら一目散に逃げ出す所だが、オレは守峰を無視して、迷惑そうにこちらを覗う三年の姿を一人ずつ確認する。

 そこに先輩の姿はなかった。

「なんで……」

 先輩は嘘を吐いたのか? あぁ、そうだよな。嘘だよな。補習なんてなかったんだ。真面目にノートや参考書を広げる奴らの中に、先輩は見られない。勉強道具だけが残っている机がないのだから、たまたま今、席を外しているという可能性もなさそうだ。

 自分の中で認めてしまうと、頭の中が真っ白になった。

 先輩がオレに嘘を吐いた。

 意味が分からず、オレはその場に蹲りそうになるが、体が足が勝手に動き、またどこかに向かって走り出した。

 言葉にならない焦りは、思考が形になる前にオレをその場所へと運ぶ。先輩の部屋の扉に手をかけた時、自分の荒い息遣いが聞こえ、真っ白だった頭に色が戻ってきた。

 一瞬、迷ってしまったが、オレは扉を開く。

「…………いない、か」

 無人であった事にホッとしてしまった。まだ頭の中がグチャグチャで、感情すらまともに機能していない。少し時間が欲しかった。

 いつも通り、そこにある、先輩の部屋にオレは無断で上がり込む。ひと夏を過ごした部屋は、旧館の自室と同じくらい極当たり前にオレの居場所になっている。オレが居てもいい場所になっている。

「昼飯でも食いに行ってんのかな」

 狭間のような完璧さはないが、先輩なりの整理がされた部屋を眺めて、オレは畳まれた布団の上に脱力するように倒れ込んだ。

 僅かに残る先輩の匂いは、どうしてか涙腺を酷く刺激した。そのまま布団にくるまって、何も考えずに泣きたかったが、唇を噛んで踏み止まる。乱れた布団を直し、ぽっかりと空いたスペースへ体を押し込み、膝を抱えて座った。

「何やってんだ……オレ」

 山センのおかげで、いまだ行方知れずのキャンプ道具が置かれていた場所で、一人体育座りで先輩を待つ自分の姿を想像すると、少し笑えた。

「……ちょっと違うか」

 部屋に帰ってきた先輩が、そんなオレを見て驚く所まで想像したら笑えたんだ。我ながら能天気な考えに呆れて、自分の中から甘ったるい考えを掃き出すように、長い長い溜め息を吐く。

「先輩、オレの事、嫌になったのかな」

 先輩が嘘を吐いた……正確には、そうじゃない。オレが先輩に嘘を吐かせたんだ。
 嫌と言わない先輩に甘えすぎた。オレはずっと前から、先輩が好きで好きで堪らなかったが、先輩にとってはそうじゃない。それなのに、オレの欲求に付き合わせて……多分、先輩に無理をさせてたんだ。

 少しずつ頭の中が落ち着くにつれ、オレの頭の中は反省でいっぱいになった。「ごめん」が溢れる度に、同じくらい「好き」という気持ちも溢れて胸が苦しくなる。嘘を吐かれたという悲しさも、それに拍車を掛けるので、歯を食いしばり暫くその奔流に耐えるしかなかった。

「せんぱい、なんか考え方ビミョーに古風だし……デカイ図体の割に変なトコ繊細だし」

 いきなり男同士のセックスとかさせられて、きっとそれはオレが思うよりもずっとハードルが高かったに違いない。

「ちゃんと謝ろう。そんで、もう一回、もっとゆっくり、いきなりケツじゃなくて、こう手コキくらいから慣らしていく感じで……いや、ちんこ掴ませたら一緒か。いやいや、してもらうって考えがまず駄目だな。オレが全力で奉仕する方向で……」

 欲求不満が反省にまで首を突っ込んでいるのに気付き、自分の頬を両手で思い切り叩く。下半身ではなく上半身を使わねば、また先輩を追い詰める事になる。

「てか、先輩も先輩だ。嫌なら嫌だって言えよな。ちゃんと言ってくれたら、オレだって我慢……出来たと思うし。つーか、全然そんな素振りも見せずに、嘘なんか吐きやがって」

 先輩になんて謝ろう、そう頭を捻っていると、反省とは真逆の考えが頭に浮かんで、俄然怒りが湧いてきた。

 逃げ出したいくらい嫌なんだったら、それっぽい態度を見せとけ馬鹿野郎。オレをしょげさせない為か知らないが、話合わせすぎだろ。そこから先輩の本心なんて分かる訳ねぇじゃん。

「クソ、考えれば考えるほどに腹が立ってきた。土下座した後で腹に頭突き食らわしてやる」

 反省と同量の怒りが、胸を圧迫する気持ちを中和させる。水くさい先輩に愛の鞭を打つくらい、今のオレならば可能だ。こういう部分が駄目な気もするが、それも含めてちゃんと言えとぶちかまそう。

「……先輩、遅いな。食堂で飯食ってるにしても、そろそろ帰って来てもいいだろ」

 ぐらぐらと揺れていた気持ちが落ち着き、ふと部屋の時計を見ると、かなりの時間が経っていた。昼休みのチャイムと同時に走って来たので、一時間以上をここで一人メソメソしていた計算になる。

 部屋の隅から這い出し、椅子に腰掛け、刻々と募る不安と戦いながら、更に一時間待ったが、先輩は戻って来なかった。

「オレが待ち伏せているのに気付いて、帰って来ないのか……いや」

 そうであったら、まだいい。オレを避けているだけなら構わない。

 でも、これは違うと確信があった。先輩と過ごした時間が、それを全力で否定するのだ。なら、どうして帰って来ないのか。

「先輩!」

 降って湧いた恐怖に、オレはまた走り出した。片っ端から扉を開け校舎内を駆け回り、部活棟や体育館、車庫や一年寮までくまなく捜したが、先輩の姿は見つからなかった。

 それでも足は止まらず、新館の食堂と旧館内も探すが、先輩どころか先輩を見た奴すら見つけられなかった。

 もしかしたらと思い、自室にも立ち寄ったが誰もいなかった。

「先輩がいない」

 押し入れの中まで確認したが、中身は布団と私物が詰め込まれたスポーツバッグが四つだけで、目的の大男が丸まって眠っているなんて事はなかった。

「なんで、誰も先輩を見てないんだよ」

 喉が渇いているせいで、声も干からびて聞こえる。まるで、本当に先輩が消えてしまったような錯覚に陥る。

「なんで、どこにもいないんだよ! 全部、全部捜したのに! 学校の中ぜん、ぶ……」

 誰もいない部屋で、やり場のない感情が溢れ、一つ気がついてしまった。オレは自分のスポーツバッグを引っ張り出す。

 丁寧に畳まれ、無造作に突っ込まれた衣服を掻き出していると、焦って空回りしていた頭に冷静さが戻ってきた。

 もし、先輩が学校の敷地内にいないのであれば、見つからないのは当然だろう。遠足での頼もしさや、夏休みに一人で山を登り帰校した事を思えば、先輩にとって誰にも知られず学校を抜け出す、脱走するのは難しくない。

 本当に先輩が外に出ているなら、オレでは追いつけない。強引に追いかけようと、良くて初級遭難コース、悪けりゃ本気の遭難だ。

「先輩が脱走なんて……するはずねぇし」

 得意げな顔して「真面目に授業受けてる」なんて言う奴なんだ。先輩が学校を逃げ出すなんて、ありえない……どうしようもない事情でもない限り。

「まだ捜してない所がある。最悪を考えるのは、やる事をやってからだ」

 体を重くする絶望感を振り払い、オレはスポーツバッグの底に貼り付けたガムテープを剥がす。

「先輩との約束を破る事になるけど、今日の分はノーカンだ」

 この期に及んで良識が顔を出す。心の中に浮かぶ先輩の悲しそうな顔に目を瞑り、自分に言い聞かせながら、粘着の弱いガムテープから、柏木に渡されたカードキーを回収した。

 カードキーを握り締め、部屋にばらまいた服をスポーツバッグへ押し込む。

 焦りが消え、嫌な予感が存在感を増したせいか、オレは散らかした部屋を手早く片づけ、迷う事なく真っ直ぐと新館へと走った。

 夕食が始まるには早い、午後五時を少し回った時刻が幸いしたのか、単なる偶然か、新館のエントランスホールに人気はなかった。

 外部からの訪問者なんて考えられない圏ガクの寮に、マンションのようなインターホンは必要なんだろうか。それをスルーし、オレはエレベーターの前に立ち、以前柏木がやっていたように、呼び出しボタンの代わりに設置されているポートへ握り締めていたカードキーをかざす。

 エレベーターを待つ間、誰にも出くわさないよう『来るな』と心の中で唱えていたのだが、それが五回もしない内に目の前の扉は静かに開いた。

 随分と久し振りに感じる文明の利器は、オレが乗り込むとまた静かに扉を閉じ、揺れ一つ感じさせず動き出す。自室以外の階には出入り出来ないようになっているのか、エレベーターの内部にも本来あるはずのボタンが存在していなかった。

 目的の階に到着したエレベーターの扉が開くと、ホテルさながらの内装が広がっており、予想通りとは言えあまりに別世界すぎて少し頭がクラクラした。

 これから、変態共の親玉の元へ乗り込むのだ。何が出るか分からないのは百も承知。自分が感じた通り、ここは別世界だと考えて進むのが正しいだろう。

「先輩……絶対に、見つける」

 新館最上階のフロアへ足を踏み入れると、背後でエレベーターの扉が閉まる。心細さが心臓をドクドクと鳴らしたが、オレはゆっくりと目的の部屋を探して歩く。

 無人の廊下は、自分の運動靴の足音が響いて、やたらと気になった。数歩進み振り返ると、色々な場所を走り回った靴の足跡が、磨き上げられた床にしっかりと残っていて、靴を脱ぐべきか馬鹿みたいに迷ってしまった。

「そんなの気にしてる場合じゃねぇ」

 弱気になる自分に活を入れ、大股で奥へ奥へと進む。

 ザッと見た所、一つ一つの部屋が大きいのか、最上階には合計して三つの部屋の扉しか存在しなかった。

 確か一つは医務室だったか、ならば廊下に置かれた生徒会室を思い出す豪奢なソファーは待合なのかもしれない。

「表札が上がっている部屋は一つだけ、か」

 三つの扉の内、意外にも一番小さい扉が目的の部屋のようだった。フロアの最奥にポツンと、他の豪華な装飾からは浮いた質素な扉に、その部屋を割り振られた生徒を示す表札が上がっている。

「『羽坂』と『金城』」

 先輩と会長の名前が上がっているのを見つけたはいいが、本当にここなのか自信が全くなかった。

 自分が住む為に、こんな山奥の学校にホテルを建てるような奴の私室だ。それこそワンフロア丸々自室になっていても納得だったのに、そこはあまりに普通だった。もちろん、旧館と比べたら普通とは言い難いが。

「ここにもインターホンか」

 扉の横にごくありふれたインターホンがある。エレベーターと同じ鍵穴もあり、三年の待遇の良さを改めて実感してしまった。生徒のプライバシーがここにはある!

「あ、もしかして、鍵があるのは、会長の特権なのかな?」

 手の中にあるカードキーを見つめて、詮無い事を考えてしまう。オレは小さく深呼吸して、キーを持った手でインターホンを押した。
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