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新学期!!
性悪の事情
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顔色どころか、その表情からは感情そのものが見えなかった。抜け落ちているのではなく、自身の内側にしっかりと守られている、性悪の凜とした態度からは、そんな強い印象を受けた。興津の不敵で不気味な存在感を打ち消すぐらい、それは強く、興津に握られているのが性悪の弱みだと分かっているのに、情けないかなオレは二人の間に割って入る事が出来ずにいた。
「無駄な話は省こか。夷川を庇い立てするんやったら、葛見に全て、包み隠さずお前のぜぇーんぶ教えたってもええ、言う事やな」
興津が寮長の名前を口にした瞬間、僅かに性悪の纏う空気が揺らいだ。
「……ボクの事情と金城先輩は無関係だよ。こいつが何を考えて貴方の口車に乗ろうとしているのかは知らないけど、まず間違いなく余計なお世話」
「健気やなぁ。葛見にあんな恥ずかしい姿見られてしまうんや、きっと心の中では泣いとるよ。可哀想になぁ」
人を馬鹿にするような笑いを浮かべ、興津がオレに振ってくる。性悪の華奢としか言い様のない肩を見て、オレはさっき見てしまった姿を思い出す。ようやく頭に血が回り、興津を睨み返す事が出来た。
「だから、こんな下らない挑発に乗るな。この話に金城先輩は関係ないだろ、ならお前が気にする必要は何一つない。そうだろ」
念を押すように性悪は『理解しろ』と視線に込めて言う。この話の行き着く先、船の沈没事故と先輩は関係ない、そうだろうと。
「……でも、寮長に知られたくないんだろ。だから、先輩がずっと秘密を守ってたんじゃないのか」
「申し訳ないけど、それもただのお節介……今のボクを見れば分かるだろ。坊ちゃんはとうにご存じだよ。写真を見せられれば不快に思われるだろうけど、ただそれだけ。それ以上の意味はありませんよ、興津先輩」
諦めたような性悪の言葉に、寮長が話してくれた事がふと浮かび上がった。
『あの船の乗客は、人間を玩具として扱う外道共だ。その死を悼む必要はない』
写真で見た性悪の姿が寮長の声と重なる。きっと、寮長は知っている。興津が話すまでもなく。
「それにね、夷川」
性悪は興津の反応など待たず、クルリとオレの方へ向き直った。
「今のボクは会長の所有物なんだよ。こう言えば、馬鹿なお前でも分かるよね。『あの程度』の事は日常なんだって」
意図的に、だろう。からかうような響きで、蠱惑的な表情を浮かべ、性悪は本当に女にしか見えない姿で、そう言ってのける。
細い指がすーっとオレの頬を撫でた。不意の接触に戸惑い、思わず一歩退く。性悪の言う会長の日常が、柏木の衝撃の姿と一緒に蘇り、その言い分が現実味を帯びる。
「顔、赤くなってるよ。何を想像したの?」
余裕から滲む微笑を浮かべ、性悪は一歩距離を詰めてきた。さっきまでは気にならなかったのに、性悪から幽かに香る甘い匂いが、妙に気分を高揚させる。
顔が熱い。男相手に何やってんだ。そう必至で自分に言い聞かせ、性悪のペースから抜けだそうとしたが、ふいに顔を引き寄せられ失敗に終わる。
「興津の顔、笑えるよ。ゆっくり振り返って見てみな」
耳元で囁かれた言葉で、性悪から意識を引き剥がす事が出来た。言われた通りに興津を見れば、まるで恋人の浮気でも目撃したような、この場では異様な表情を浮かべていた。
「夷川には後でゆっくり教えてあげる。ボクがどれくらい会長に可愛がって頂いてるかを。あんな写真より、もっと、ずっと……興奮するよ」
性悪がオレの腕を撫でながら、芝居がかった台詞を吐く。興津の顔とセットなおかげで、これが芝居だとオレでも気付けた。明らかな嫉妬が、興津の表情をどんどん歪ませる。その憎悪の対象が自分なのか、会長なのか、いやどちらでも同じか、今の興津相手に、平和的な交渉が出来る雰囲気は微塵も残っていない。
「……まあ……。どっちでも同じや。末路は同じや、夷川」
声は冷静そのもの。けれど、興津が握り締めたカードキーは、今にもへし折れそうなくらい変形している。
「仲良うするんも、泣かすんも、どっちも好きやから、ええわ。まあ、せいぜい気張りや」
捨て台詞を吐き、何故か新館を出て行く興津。しっかり姿が見えなくなるまで見送ると、性悪はオレの腕を軽く突き放した。
「無駄な話は省こか。夷川を庇い立てするんやったら、葛見に全て、包み隠さずお前のぜぇーんぶ教えたってもええ、言う事やな」
興津が寮長の名前を口にした瞬間、僅かに性悪の纏う空気が揺らいだ。
「……ボクの事情と金城先輩は無関係だよ。こいつが何を考えて貴方の口車に乗ろうとしているのかは知らないけど、まず間違いなく余計なお世話」
「健気やなぁ。葛見にあんな恥ずかしい姿見られてしまうんや、きっと心の中では泣いとるよ。可哀想になぁ」
人を馬鹿にするような笑いを浮かべ、興津がオレに振ってくる。性悪の華奢としか言い様のない肩を見て、オレはさっき見てしまった姿を思い出す。ようやく頭に血が回り、興津を睨み返す事が出来た。
「だから、こんな下らない挑発に乗るな。この話に金城先輩は関係ないだろ、ならお前が気にする必要は何一つない。そうだろ」
念を押すように性悪は『理解しろ』と視線に込めて言う。この話の行き着く先、船の沈没事故と先輩は関係ない、そうだろうと。
「……でも、寮長に知られたくないんだろ。だから、先輩がずっと秘密を守ってたんじゃないのか」
「申し訳ないけど、それもただのお節介……今のボクを見れば分かるだろ。坊ちゃんはとうにご存じだよ。写真を見せられれば不快に思われるだろうけど、ただそれだけ。それ以上の意味はありませんよ、興津先輩」
諦めたような性悪の言葉に、寮長が話してくれた事がふと浮かび上がった。
『あの船の乗客は、人間を玩具として扱う外道共だ。その死を悼む必要はない』
写真で見た性悪の姿が寮長の声と重なる。きっと、寮長は知っている。興津が話すまでもなく。
「それにね、夷川」
性悪は興津の反応など待たず、クルリとオレの方へ向き直った。
「今のボクは会長の所有物なんだよ。こう言えば、馬鹿なお前でも分かるよね。『あの程度』の事は日常なんだって」
意図的に、だろう。からかうような響きで、蠱惑的な表情を浮かべ、性悪は本当に女にしか見えない姿で、そう言ってのける。
細い指がすーっとオレの頬を撫でた。不意の接触に戸惑い、思わず一歩退く。性悪の言う会長の日常が、柏木の衝撃の姿と一緒に蘇り、その言い分が現実味を帯びる。
「顔、赤くなってるよ。何を想像したの?」
余裕から滲む微笑を浮かべ、性悪は一歩距離を詰めてきた。さっきまでは気にならなかったのに、性悪から幽かに香る甘い匂いが、妙に気分を高揚させる。
顔が熱い。男相手に何やってんだ。そう必至で自分に言い聞かせ、性悪のペースから抜けだそうとしたが、ふいに顔を引き寄せられ失敗に終わる。
「興津の顔、笑えるよ。ゆっくり振り返って見てみな」
耳元で囁かれた言葉で、性悪から意識を引き剥がす事が出来た。言われた通りに興津を見れば、まるで恋人の浮気でも目撃したような、この場では異様な表情を浮かべていた。
「夷川には後でゆっくり教えてあげる。ボクがどれくらい会長に可愛がって頂いてるかを。あんな写真より、もっと、ずっと……興奮するよ」
性悪がオレの腕を撫でながら、芝居がかった台詞を吐く。興津の顔とセットなおかげで、これが芝居だとオレでも気付けた。明らかな嫉妬が、興津の表情をどんどん歪ませる。その憎悪の対象が自分なのか、会長なのか、いやどちらでも同じか、今の興津相手に、平和的な交渉が出来る雰囲気は微塵も残っていない。
「……まあ……。どっちでも同じや。末路は同じや、夷川」
声は冷静そのもの。けれど、興津が握り締めたカードキーは、今にもへし折れそうなくらい変形している。
「仲良うするんも、泣かすんも、どっちも好きやから、ええわ。まあ、せいぜい気張りや」
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