圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

常識による非常識への制裁

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 その日はオレの予定通り、ご褒美はなしで済んだ。スバルが持って来たプリンによって、バレる可能性がチラついたおかげで、コウスケからの文句もなく、平和に一日を終える事が出来た……と、思っていたのだが、夕食を終えた後に呼び出しを食らった。

「夷川、旦那様がお待ちしているのだ。ちんたら歩くんじゃない! 駆け足だ!」

 明日やる自習内容をまとめていた所へ執事モドキがやって来て、急げ急げとオレを廊下に放り出し、走れ走れとケツを叩き回した。

 正直、後ろめたさがあり(知らぬ所で奢られたプリンの件で)全く予期していなかった訳ではないが、呼び出されるとは思いもせず、プリンの瓶を持ち帰らなかった事を少しばかり後悔した。

 日頃からスバルが迷惑をかけている事を謝罪する機会になるだろうと、覚悟を決めて寮長の部屋へと走る。

「旦那様、夷川をお連れしました」

 自分の部屋でもあるだろうに、執事モドキは礼儀正しく扉を叩き、中に居る寮長に伺いを立てた。

「入れ」

 寮長から短く返答があったので、バーンと勢いよく扉を開くと思ったのだが、執事モドキは黙ったまま動かなかった。不思議に思っていると、目玉が飛び出るんじゃないかと思うような勢いで背中を叩かれた。

「何をしている。旦那様のお許しは出た。早く入らないか」

 ピシッと姿勢を正し直立する執事モドキは、一人で入室しろと威圧してきた。その時点で、前にここへ来た時とは雰囲気が違う事に気付けず、オレは心の準備を何一つせずに扉を開けてしまった。

「失礼し、ま……す」

 途端に感じたのは、夏がいつの間に終わったのか、秋をすっ飛ばし冬を感じさせる空気。言葉は詰まり体は寒気に反応し震えが走る。

 旧館には冷暖房などは存在せず、寮内はまだ昼間の熱気が残り、暑さを感じるはずの気温がのさばっているのだが、オレを迎えた部屋の空気は明らかに異質な冷気が漂っていた。

「何を突っ立っているのか! 旦那様をお待たせするんじゃない!」

 扉を開けて異変に気付き、その場で固まってしまったオレを執事モドキは容赦なく部屋の中へと突き飛ばした。多少は加減したのだろうが、オレは車椅子の足元にまで転がってしまった。

「すいません、ッ」

 慌てて顔を上げると、寮長の絶対零度の視線に晒され、思わず体が竦んでしまった。オレは目にも止まらぬ早さで、扉まで這いながら後退して、その場で正座をすると、存在を全否定するような冷酷な視線から逃れるべく、頭を抱えるように床へと自分の視線を逃がした。

「いくつか確認したい事がある。そこでは話がしにくい。少し寄れ」

 全力で辞退したかったが、許されるはずもなく、正座のまま寮長との距離を詰めた。恐る恐る顔を上げると、自分が道端で干からびている虫の死骸にでもなった気分にさせて下さる視線を一身に浴びる。

「お前は海外での生活が長かったのか?」

 県すら殆ど出た事がないのに、国から出た事など一度としてない。意図を考える前に「いいえ」と返答して、一段と冷ややかになった視線に嫌な汗が吹き出す。

「以前、金城先輩が好きだと言っていたな。それは変わりないか?」

「もちろん、変わりません」

 いきなり先輩の名前を出されて、思わず即答してしまった。寮長がどれだけ視線をぶっ刺して来ようが、それだけは条件反射で口から出た。けれど、お気に召さない答えだったようで、寮長は無表情だった顔を盛大に顰めた。

「では、何故お前は春日野の口を吸うんだ」

 呼び出しの用件が開示され、オレは穴の中へ身を隠すよう床に額を擦りつけた。滝のように流れる汗のせいか、喉が乾いて上手く声が出ない。

 スバルが吹聴する可能性を全く考えていなかった。コウスケの言い分じゃあないが、元から過剰に接触してくる奴だから、世間的には以前と変わらない、そう思っていたが甘かった。

 プリンを貰うついでに放課後の行為について、寮長に喋っていたのか。

「夷川、さっきの勢いは何処へやったんだ。早く答えないか」

 迂闊だった。寮長相手だけじゃあなく、せめてスバルの口止めはしておくべきだった。

「僕は今、お前の金城先輩への感情に疑いを持たざるを得ない。春日野からお前と深い仲だと聞かされ、正直困惑している」

「先輩への気持ちに嘘なんか一つもありません」

 ややこしい部分を全て無視して、本心だけを伝えるが、それで良しとしてくれるはずもない。

「ならば、弁明の一つもしたらどうだ。金城先輩へ誠実さを今も持ち続けていると言えるのならば、な」

 自分の信頼を裏切ったのかと、鋭利な刃物のような眼光を飛ばしてくる寮長に「色々と複雑な事情が重なりまして」としどろもどろに答えを濁せば、口元だけで微笑を返されてしまう。

「僕が納得出来る答えを聞かせてくれるんだろう、夷川」

 全く笑っていない目を見つめて、中途半端な誤魔化しは無理だと悟った。いや、この部屋に足を踏み入れた時点でそれは明白だった。
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