圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

ご褒美の弊害

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「お前はオレにどうしろって言うんだ」

 素直にそう返すと、沈んだ顔を一瞬でパッと輝かせた。

「えべっさんがオレのこと掘ってくれたら最高なんじゃッ」

 すっかり馴染んでしまったビンタを見舞って、オレは痛めた手のひらを軽く吹き冷ましながら、ついでに溜め息を吐く。

「それで相談なんだけどね。そろそろ、次のステージに上がりたいかなって思うんだけど、どうかな?」

 頬を張られても全く動じない男は、もじもじとしながら妙な事を言い出した。嫌な予感を覚えつつも、聞かない訳にはいかず説明を求める。

「スバルもさーキスだけじゃ満足しなくなってきてるんだよねー。オレは別に、それでもいいんだけど、ほら欲求不満になると暴れちゃう子だから? そろそろ新しい刺激を与えてやった方がいいと思うんだよね」

「回りくどいな、はっきり言えよ」

 察しろと言わんばかりの言い回しに、苛つき軽率な言動をしてしまったと後悔は遅く、コウスケは真顔で「スバルとセックスしたい」と言い出し、オレは思わず頭を抱えた。

「えべっさん気付いてると思うんだけど、ご褒美の最中、オレもバルちんもガッチガチなんだよね。いいかげん爆発しちゃいそうでさぁ」

 そんなもん気付くか馬鹿野郎。心の底から知りたくない情報だった。

「そんな馬鹿な……つーか、スバルの目隠しは外せないし、無理だろ普通に」

 キスだけで満足しろと、コウスケの提案をバッサリ切り捨てたつもりだったがのだが、不思議そうな顔で首を傾げられてしまった。

「別に問題ないんじゃない。まあ、ある程度は拘束しといた方がいいかな。腰振ってる最中に目隠し取れたらヤバイからさ。あ、でも、オレがバルちんの上に乗ればその辺も問題ないか。やっべ、マジ興奮する」

 お前はそれをオレに見届けろと言うのか。

 一人で盛り上がるコウスケを放置し、オレは用意しておいた『ご褒美回避』の小テストを取り出した。自分の正気を保つ、唯一の道だ。例え、まだ教えていない内容を先取りしようと文句は言わせない。なんせ、授業では一度やっている内容だからな。

 だが、コウスケだって馬鹿じゃあない。ご褒美を遠い所に置くと、それが張りぼてだと見抜く恐れがある。そうなると、またポチクロや闇市を人質のように扱われてしまう。まあ、三人共三年だし、自分の身は自分で守れと、最悪忠告すればいいいかと思い始めてはいた。

 スバルがオレの名前を呼びながらちんこを勃たせ、その上にコウスケが乗って腰を振る姿を見るなんて、オレには耐えられそうにないからな。

 単なる欲望の捌け口にしているコウスケはともかく、真面目に勉強を始めたスバルの為に授業内容をまとめ直していると、部屋の扉を蹴るような音がした。

「んー、誰だろ。お客さんかな」

 勝手に占拠している部屋に客が来たら面倒だろうに、コウスケは何も考えていないのか無警戒に扉を開け放った。

「あれ、バルちん早かったね」

 プリント一式をまとめて、即座に脱出できるよう身構えていたのだが、気の抜けたコウスケの声でそれが無駄だった事を知る。部屋を奪われた奴らが取り返しに来るとか考えないんだろうか。ポチクロの様子から、それは有り得ないと分かっていても、新館は気の落ち着ける場所ではないなと改めて思った。

「えべっさん、やる」

 一瞬の緊張から解放され、軽く息を吐くと、目の前の机にコンと何かが置かれた。それは小洒落た小瓶に入ったプリンらしき物体だった。

「?」

 意味が分からず振り返ると、同じ瓶プリンを持ったスバルが、ベッドに座ってスプーンを差し出していた。

「これ、好きなんだ。えべっさんも食ってみろよ。マジでうまいから」

 スプーンを受け取りつつ「買ったのか?」と尋ねてみる。当然スバルは首を横に振り「もらった」と答えた。

「バルちん、オレの分は?」

「ない」

「だよね~知ってたぁ」

 間接的にだが、寮長の奢りになるプリンを持て余す。申し訳なさが半端なくて、コウスケにパスしそうになるが、スプーンを咥えてジッとこちらを見てくるスバルの視線がそれをさせてくれなかった。

「……いただきます」

 スプーンで掬うとその柔らかさに驚く。そして口に運んで再度そのなめらかさに目を見ひらいてしまった。

「美味しい」

 溶けてしまうような舌触りのプリンは初めてで、スプーンで掬うより瓶に口を付けて牛乳のようにゴクゴク飲みたくなった。久々の甘さが体に染み込んで、強ばっていた頬が緩む。スバルの手土産(寮長の奢り)は地獄のような現状を一瞬忘れさせてくれた。

「ん……なんだよ。返して欲しいのか?」

 一気飲みしたくなる衝動を抑えて、ちびちびと一口一口を味わっていると、またスバルがこちらをジッと見ている事に気が付いた。半分ほど中身の残った瓶を見ているのかと思い聞くと、何故か嬉しそうに笑って自分の持っている瓶を差し出してきた。

「気に入ったなら、オレっちのもやる」

「いい……一個食えば十分だ。いらないなら、コウスケにやれよ」

 わざとらしく喜んで見せるコウスケを無視して、スバルは面白くなさそうに瓶の中身をスプーンでかき混ぜ、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干した。

「今ちゅーしたらプリンの味すっかな」

 唇を舌先で舐めながら呟くスバルの言葉に戦慄する。

「しないよ」

 動揺するオレを見かねたのか、コウスケが冷静にスバルの疑問を切り捨てた。

「あーっとね、今したらするかもしれないけど、ご褒美は小テストの結果次第だからね。その頃にはしなくなってるよ、きっと」

 コウスケが表情一つ変えずにそう答えると、スバルは「つまんねーの」とそっぽを向いた。

 上品な味にチビチビ食っていたが、オレもスバルに倣ってプリンを一気飲みする。贅沢の極みだが、味わっている余裕もなく、スバルの瓶も回収して手洗い場に向かった。

 瓶を水で洗い、コップ代わりにしてうがいをする。

「あ……今日は、大丈夫か。テスト入れ替えてたな、そう言えば」

 口に甘さが残らないよう、念には念を入れたが、そもそもオレの口が甘かろうが辛かろうが意味のない事に気付き脱力する。

「クソッ……餌付けかよ」

 無邪気に瓶を差し出す顔を思い出して、罪悪感からオレは悪態を吐く。冷静さを取り戻すべく、瓶を丁寧に洗ってみる。新館の食堂に返却すればいいんだろうか……瓶を洗い終わると、でかい溜め息が出た。

 現状の胸くその悪さに反吐が出る。コウスケがスバルを掘ろうとしているなら、そもそもこんなに悩んだりしない。それだったら、どんなによかったか……問答無用で突っぱねる事が出来る。と言うか成敗だ、変態を成敗して完結だ。

 でも、現実は逆なのだ。しかも、最初に手を出してるのがスバルで、元はコウスケが完全な被害者だったのをオレは知っている。なら、この変態行為もスバルが自分で蒔いた種であり自業自得……自分が巻き込まれてなきゃ、罪悪感だって皆無なはずだったのに。話を聞くだけなら、笑い話で済んだはずなのに……どうして、こうなった! 

「……せんぱい、早く会いたいよ」

 自制心のなさに泣けてくる。ここまで自分の首を絞めなきゃ、大人しく惚れた奴の決断を待てない自分が情けない。

 先輩の試験、試練と言った方が正確かもしれない、それが終わるまで、数えてみれば、もう残すのは一週間ほどだ。先輩がいなくなるかもしれない、そんな不安は一切ない。それでも、会えない時間は理由の分からない不安で心を塗り潰す。

「ひげが……髭が、心の底から妬ましい」

 溢れ出しそうな想いを押し止める……ちょっと出たけど、これくらいなら可愛いもんだろう。

 鏡を見て切り換えが上手くいった事を確認して、少し濡れた目元を拭い、下心溢れる不純な自習会場へと戻った。
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