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新学期!!
反省と安心を君に
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「あっ! ちょ、勝手に食うなよ! 闇市に返品すんのに」
闇市に駄菓子を突き返そうと結論が出たというのに、先輩は煎餅の一つをバリバリと食べ始めた。
「返品なんてしないぞ」
口をモゾモゾさせながら、先輩はジト目でこちらを見ている。
「なんでだよ。スバルに餌やってどうすんだ」
断固返品を拒否する意思表示か、先輩は次の菓子を手に取って包装を剥き始めた。そして剥いた後で気付いたのか、手にしたチョコレートを持て余して、オレの口にねじ込んできた。甘くて美味しい!
「春日野にやるのは駄菓子だけだ。お前はやらない」
久し振りの甘さについ夢中になっていると、先輩がボソッと呟いた。
「……ほんとに何もしてないよ」
改めて、やっている事を思うと、あまりの酷さに後ろめたさが半端ない。先輩が嫌な気持ちになるのは当たり前だと、反省からしおらしい声が出た。
「うん、それは分かってる。セイシュンがそんな奴じゃない事は、分かってる」
先輩は自分に言い聞かせるよう、自分の言葉に頷きながら続ける。
「なんでだろうな。お前が危ない目に遭ってる……とか、そういう心配でもなくて……いや、それもあるか。うん」
先輩の言葉や仕草に戸惑いが見えた。その原因がうっすらと分かってしまう。オレにとって最上級の自惚れを呼んでしまうソレは、今の先輩にとって毒だ。
「あのさ、先輩は今なにしてんの? 筆記試験は終わってるんだろ。面接の練習?」
話題を強引に切り替えると、先輩から戸惑いが消えた。「よく知ってるな」と試験内容を知っている事に驚かれた。
「筆記試験の続きをやってるよ。試験の時は何も書けなかった問題があってな、今はそれにかかりきりだ」
作文は苦手だと、先輩は苦笑する。作文って論文の事だよな。確か一次試験の内容にあったはずだ……。
「不正のにおいがする」
掃いて捨てる程あると言ったオッサンの言葉を思い出し、ついポロッと不安が口から出てしまった。頑張ってる本人を目の前に言うべき事じゃあない。慌てて謝ると、先輩は穏やかな顔で「いいんだ」と言った。
「他の問題はなんとか書けたんだけどな。作文だけは一文字も書けなかったんだ。だから白紙で出した」
その後、オッサンに二次試験までの宿題だと、同じ物を渡されたらしい。不正も手段の一つとしか思ってなさそうなオッサンだし、それも有りなのかなと納得しかけたが、先輩は「だから」と続けた。
「始めるのに時間がかかるかもしれない」
「来年、また受け直すって事?」
「うん。今年落ちても、来年また受験しようと思ってる……んだが、俺の頭は出来が良くないからな。いつ受かるか、その、ちょっと未定だ」
困ったような顔で先輩は言葉を濁す。オッサンが背後にいる以上、そんな心配は無用だろうが、教えてやるのはそれじゃあないなとオレは不敵に笑ってやる。
「まあ、いいんじゃねぇの。何年かかっても」
受験失敗したからと言って、留年はしてくれなさそうだが。
「何年でも根気強くケツ叩いてやるよ」
思い切り上から目線で言ってやった。すると、先輩は自信無さそうな目をオレに向けてきた。
「セイシュン、待っててくれるか?」
待つって何を? 先輩を? 当たり前だろ。てか、オレから逃げられると思うなよ。冷静な思考が即行ツッコミを入れようとするが蓋をする。
「待っててやるよ。何年でも。だからって気ぃ抜くなよ。どうせなら一発で決めて来い」
先輩の顔が一瞬泣きそうに見えた。どんな顔をしたらいいのか迷っているような、何とも言い様のない表情を手で覆う。「うん」と声にならない声。そんな姿を見せられると、ここが寮長の部屋だという事を忘れて押し倒してしまいそうだ。恐ろしい。
オレが寮長への恐怖と性欲の間で葛藤していると、先輩は欲情を誘う雰囲気をせっせと片付けてしまった。恐怖に打ち勝てず無念に思っていると、先輩は無造作にまたオレの頭を撫でやがった。
「すぐに終わらせて戻って来るから、大人しく良い子で待っててくれ」
「分かってるし……もう、馬鹿な事せずに大人しくしてるし」
ガキ扱いするなと反論出来るはずもなく、されるがままに頭を撫でられてやった。先輩に余裕が戻ると、条件反射で甘えたくなる。二人で駄菓子を紙袋に放り込みながらも、オレの中では期待が満ちていく。
「じゃあ、春日野にはちゃんとコレで対処するようにな」
紙袋を大事そうに手渡される。その手をすかさず掴む。驚いた顔をされたが、欲求のまま熱っぽい視線を先輩に向け、引き寄せるように手に力を入れた。
「セイシュン」
先輩の空いた手がオレの口を押さえつけた。
「にゃんで」
阿呆みたいな声が出る。そっと添えるような力加減じゃあないからな。押し潰すような圧力に屈したのだ。
「今は止めとく」
部屋を見回し「ここは葛見の部屋だしな」とオレへの最大級の説得材料をちらつかせた後、先輩は小さく咳払いをした。
「全部終わってから、俺にお前をくれ」
ちょっとくらい先払いでもいいじゃあないかと食い下がろうとしたが、何が恥ずかしいのか先輩は耳まで赤くなっていたので、素直に頷いておいた。
先輩にはコウスケも裸足で逃げ出すような、フルコースのご褒美をやろう。そう決意すると、オレは右手の小指をピンと立てて先輩の鼻先に突き付けていた。
安心したようにふにゃっと笑った先輩は、ギュッと力強く小指を絡ませると、颯爽と部屋を出て行った。
闇市に駄菓子を突き返そうと結論が出たというのに、先輩は煎餅の一つをバリバリと食べ始めた。
「返品なんてしないぞ」
口をモゾモゾさせながら、先輩はジト目でこちらを見ている。
「なんでだよ。スバルに餌やってどうすんだ」
断固返品を拒否する意思表示か、先輩は次の菓子を手に取って包装を剥き始めた。そして剥いた後で気付いたのか、手にしたチョコレートを持て余して、オレの口にねじ込んできた。甘くて美味しい!
「春日野にやるのは駄菓子だけだ。お前はやらない」
久し振りの甘さについ夢中になっていると、先輩がボソッと呟いた。
「……ほんとに何もしてないよ」
改めて、やっている事を思うと、あまりの酷さに後ろめたさが半端ない。先輩が嫌な気持ちになるのは当たり前だと、反省からしおらしい声が出た。
「うん、それは分かってる。セイシュンがそんな奴じゃない事は、分かってる」
先輩は自分に言い聞かせるよう、自分の言葉に頷きながら続ける。
「なんでだろうな。お前が危ない目に遭ってる……とか、そういう心配でもなくて……いや、それもあるか。うん」
先輩の言葉や仕草に戸惑いが見えた。その原因がうっすらと分かってしまう。オレにとって最上級の自惚れを呼んでしまうソレは、今の先輩にとって毒だ。
「あのさ、先輩は今なにしてんの? 筆記試験は終わってるんだろ。面接の練習?」
話題を強引に切り替えると、先輩から戸惑いが消えた。「よく知ってるな」と試験内容を知っている事に驚かれた。
「筆記試験の続きをやってるよ。試験の時は何も書けなかった問題があってな、今はそれにかかりきりだ」
作文は苦手だと、先輩は苦笑する。作文って論文の事だよな。確か一次試験の内容にあったはずだ……。
「不正のにおいがする」
掃いて捨てる程あると言ったオッサンの言葉を思い出し、ついポロッと不安が口から出てしまった。頑張ってる本人を目の前に言うべき事じゃあない。慌てて謝ると、先輩は穏やかな顔で「いいんだ」と言った。
「他の問題はなんとか書けたんだけどな。作文だけは一文字も書けなかったんだ。だから白紙で出した」
その後、オッサンに二次試験までの宿題だと、同じ物を渡されたらしい。不正も手段の一つとしか思ってなさそうなオッサンだし、それも有りなのかなと納得しかけたが、先輩は「だから」と続けた。
「始めるのに時間がかかるかもしれない」
「来年、また受け直すって事?」
「うん。今年落ちても、来年また受験しようと思ってる……んだが、俺の頭は出来が良くないからな。いつ受かるか、その、ちょっと未定だ」
困ったような顔で先輩は言葉を濁す。オッサンが背後にいる以上、そんな心配は無用だろうが、教えてやるのはそれじゃあないなとオレは不敵に笑ってやる。
「まあ、いいんじゃねぇの。何年かかっても」
受験失敗したからと言って、留年はしてくれなさそうだが。
「何年でも根気強くケツ叩いてやるよ」
思い切り上から目線で言ってやった。すると、先輩は自信無さそうな目をオレに向けてきた。
「セイシュン、待っててくれるか?」
待つって何を? 先輩を? 当たり前だろ。てか、オレから逃げられると思うなよ。冷静な思考が即行ツッコミを入れようとするが蓋をする。
「待っててやるよ。何年でも。だからって気ぃ抜くなよ。どうせなら一発で決めて来い」
先輩の顔が一瞬泣きそうに見えた。どんな顔をしたらいいのか迷っているような、何とも言い様のない表情を手で覆う。「うん」と声にならない声。そんな姿を見せられると、ここが寮長の部屋だという事を忘れて押し倒してしまいそうだ。恐ろしい。
オレが寮長への恐怖と性欲の間で葛藤していると、先輩は欲情を誘う雰囲気をせっせと片付けてしまった。恐怖に打ち勝てず無念に思っていると、先輩は無造作にまたオレの頭を撫でやがった。
「すぐに終わらせて戻って来るから、大人しく良い子で待っててくれ」
「分かってるし……もう、馬鹿な事せずに大人しくしてるし」
ガキ扱いするなと反論出来るはずもなく、されるがままに頭を撫でられてやった。先輩に余裕が戻ると、条件反射で甘えたくなる。二人で駄菓子を紙袋に放り込みながらも、オレの中では期待が満ちていく。
「じゃあ、春日野にはちゃんとコレで対処するようにな」
紙袋を大事そうに手渡される。その手をすかさず掴む。驚いた顔をされたが、欲求のまま熱っぽい視線を先輩に向け、引き寄せるように手に力を入れた。
「セイシュン」
先輩の空いた手がオレの口を押さえつけた。
「にゃんで」
阿呆みたいな声が出る。そっと添えるような力加減じゃあないからな。押し潰すような圧力に屈したのだ。
「今は止めとく」
部屋を見回し「ここは葛見の部屋だしな」とオレへの最大級の説得材料をちらつかせた後、先輩は小さく咳払いをした。
「全部終わってから、俺にお前をくれ」
ちょっとくらい先払いでもいいじゃあないかと食い下がろうとしたが、何が恥ずかしいのか先輩は耳まで赤くなっていたので、素直に頷いておいた。
先輩にはコウスケも裸足で逃げ出すような、フルコースのご褒美をやろう。そう決意すると、オレは右手の小指をピンと立てて先輩の鼻先に突き付けていた。
安心したようにふにゃっと笑った先輩は、ギュッと力強く小指を絡ませると、颯爽と部屋を出て行った。
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