圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

待ち伏せ

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 先輩が『追試』の宿題に戻った後、オレは寮長の元へ向かった。先輩との約束を取り付けたおかげか、すっかり頭の中は花畑で、二年フロアを軽い足取りで横断してしまい、矢野君に見つかって容赦のない蹴りを食らった。騒ぎを聞きつけた寮長が間に入ってくれたので、なんとか生き延びたがその後は更に地獄だった。

「…………」

 自室の現状を説明され、もはや言葉さえ与えてくれなくなった寮長は、視線のみで叱責し、オレに新たなトラウマを植えつけた。狭間に手伝って貰い、その日の内に扉を取り換え、全身全霊の謝罪も敢行。見かねた狭間が取りなす形で、ようやく寮長のお言葉を再び賜る事が叶った。

「金城先輩とは話せたのか?」

 先輩の呼び出しにオレの精神異常をダイレクトに伝えてくれた件について言いたい事がなくもなかったが、そのような事が出来るはずもありません。出そうになった余計な一言を飲み込み、簡潔に事情を説明すると、寮長は呆れたような脱力した笑みを浮かべ「そうか」と呟かれた。

 なんとか寮長のお怒りは静められたと安心しきった翌日、自分の甘さを思い知る。放課後が始まるや教室に突撃してきた執事モドキに連行され、オレは反省室にブチ込まれた。スバルを容易には捕まえられないと学習された寮長は、それならオレを匿えばいいという結論に達したらしい。問答無用だった。

 夕食には出してやると放り込まれた、冷えた地下室での数時間。狭間が事前に用意してくれたらしい薄い毛布にくるまり、先輩にしてやるご褒美のアイデアを練って、侘びしさを紛らわせた。

 そんな虚無った放課後を過ごす事数日、ついにその日はやって来た。一次の時と同じく、担任が運転する車で先輩は山を下りて行った。何時に終わるのか、担任に駄目元で尋ねたが「分からん」と言われてしまった。その日中には帰って来ると、当たり前の事を付け加えられたのだが『帰りは何時になるか分からないから出迎えは諦めろ』と暗に言われたのだろう。

「ここまで焦らされたんだ。もう待てねぇ」

 きっちり先輩の試験が終わるまでと、律儀な寮長が放つ執事モドキを撒き、オレは車庫に身を潜める。名付けて『灯台もと暗し』作戦……いや、どうでもいいなマジで。

「上手く隠れられれば、誰にも見つからず一番に先輩を出迎えてやれる。一石二鳥だ」

 触れれば死ぬような目に遭う鉄の塊以外にも、車庫には物が溢れている。私物の無駄にピカピカの車やバイクがある側ではなく、バスや軽トラが停車する奥に壊れた備品の墓場みたいな一角があり、オレはその中の壊れた大八車の影に身を隠した。

 ここ数日、凍えるような地下室の鉄格子の中で過ごしたせいか、居心地が悪いとは感じず、先輩が帰ってくるまでの数時間を昼寝でもしながら余裕で待てそうだった。

「あ、でも、寝てたらヤバイか。熟睡して気付かないとか、笑えねぇもんな」

「おや、こんな所でお昼寝ですか?」

「いや、だから寝ないって……うわッき、霧夜先生!」

 慌てて逃げようとして、大八車に挟まれ身動きが取れなくなってしまった。突然湧いて出た霧夜氏は、半分ひっくり返りながら藻掻くオレへ穏やかな表情で手を差し伸べてくる。

「ぐっ…………あ、りがとう、ございます」

 自力での脱出を試みるも失敗に終わり、表情も姿勢も一切変えずに待っていてくれた霧夜氏の手を掴んだ。線の細い印象からは想像出来ない力で引き起こされる。

 立ち上がり脇目も振らずダッシュで離脱、一瞬そう考えたのだが無駄だった。オレの掴んだ霧夜氏の手が、オレをしっかり掴んで離さなかった。

「夷川君。少しお手伝いして頂きたいのですが、よろしいですか?」

 先輩の帰りを待つので無理です。迷わず断るべきだったが、車庫に無断で侵入した事が後ろめたくて、言葉は口の中で転がる。

「ここで備品の修理をしようと思うのですが、私一人では心許ないでしょう。夷川君さえよければ、一緒に作業してくれませんか?」

 校長に頭を下げられたとあっては(別に下げてはいないんだが)、断るのは失礼だろうと、オレは二つ返事で引き受けた。堂々と車庫に居座れる理由があるのはありがたい。現金な手の平返しにも霧夜氏は表情を変えず、ただ静かに頷いた。

「じゃあ、オレは何をすればいいですか? 修理する備品ってどれです?」

 車庫に居た理由を詮索されると面倒だと思い、自主的に墓場へ視線を向ける。長く使われていない物が大半だろうが、一つ一つは壊れている訳ではなく、手入れをすれば使えそうな物ばかりだった。

「そうですねぇ、どれにしましょう」

 霧夜氏は墓場を覗き込み、思案するように顎を撫でた。まさか、霧夜氏の考えていた対象って墓場を形成する全部なのか? 合理的な選択だと思ったが早まったかもしれない。先輩が帰って来ても、作業が終わらない可能性しかない。

「では……これにしましょうか。沢山の物を運ぶのに便利そうです。台車では乗せられない量の荷物を運ぶのに使いましょう」

 霧夜氏はさっきまでオレが挟まっていた大八車を指さした。

「あぁ、これなら図書室の本を一気に運べますね」

 夏休みに本を詰め込んだ段ボールを抱えて、階段を阿呆みたいに往復した事を思いだした。多分、冬休みも同じ状況になるだろうから、オレら的にもありがたい。

「残念ながら、これを校舎内で走らせるのは難しいですね。階段もありますし」

 霧夜氏は上品に笑いながら、大八車を墓場から引きずり出した。すると、タイヤに何か引っ掛かっていたのか、大きな音を立てて大八車は傾く。
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