圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

はるうられ

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「金を払ったら……本当に黙っていると、確約出来るのか」

「ちょいと語弊がありますなぁ。わては情報を売るんや。手元には何も残さへん、金を貰て商品を引き渡したら忘れますから、黙るも何もありまへんなぁ」

 当たり前のようにフェアな条件を口にしているが、馬鹿なオレでも分かる。興津は信用すべきでない。

 けれど、無視も出来なかった。こいつが何を知っているのか検討もつかないが、こいつは恐らく先輩の急所を知っている。たった一つの暴力が、先輩のこれからを丸ごと奪う事を知っている。

 オレは握り潰しポケットにねじ込んだ封筒を取り出して、差し出すよう机に置く。

「あと九十五万」

 オレが何か言うより先に、ニヤニヤと笑いながら興津がカウントする。

「……今は、これ以上……用意出来ない」

「こんな豪勢に仕送りしてくれはるリッチな親がおるんや。まあ、子供の小遣いにしては額が大きいかもしれんけど……助けて貰えるよう、早よう電話しなはれ。刑事さんが帰ってまうまでに用意せななぁ」

 慈悲もなく、簡単に言ってくれる。百万なんて大金、用意出来る訳がない。興津にとってオレはいいカモだ。それが分かっていても、無視は出来ない。進むしかない。

「次の仕送りがあったとしても冬休みになる……親は当てに出来ない」

「そうかぁ……遠くにおる肉親が頼られんなら、近くにおる身内やな。由々式に相談してみるのもええと思うよ。夏に……何言うたかな、忘れてしもたけど、えらい規模の商売してきたらしいから、百万くらいポンと貸してくれるんちゃうかなぁ」

 にこやかに喋り続けながら、興津は時折こちらを値踏みするような視線を向けてきた。その不快な視線は、多分、正確にオレの心情を見抜いている。

「まあ、由々式がまともな報酬を貰て動くとは思われへんから、これも難しいかもしれんなぁ。信じられへんくらい、ただ働きが好きな奴やから」

 わざとらしく二度、声を出して笑った後、興津は開いていた扇をパンと音がするほど勢いよく閉じて「さて」と声を低くした。

「ほなら、わてが手を貸しましょか。あんたが自力で九十五万を稼げるよう、手配したってもかまへんよ。まあ、もちろん手間賃は頂戴しますけどなぁ…………誰にも迷惑かけず、あんた一人で金城を助けたいやろ。あんたやったら、そやなぁ、間違いなく刑事さんが帰ってまうまでに金は用意出来ると思うよ」

 グッと奥歯を噛む。目の前の奴をぶちのめして、この場で強引に解決してしまいたい衝動を堪える。

「…………何をしたらいいんだ」

 オレが衝動を飲み込み必死で絞り出した返事を聞くと、興津は甲高い笑いを上げた。

「やっぱりあんたはお利口さんやわ夷川。身の程を弁えとる。素直さは美徳や。大事にしいや」

 興津の笑い声が、頭の中身を引っかき回す。夏休みに見た向田の悲惨な姿に、柏木の忠告が上乗せされた。吐き気で嘔吐きそうになったが、やらなければいけない事が残っている。オレは頭を切り替えて、冷静に交渉を開始する。

「あんたと遊びたい思とる奴は多いんよ。今までは金城と柏木が邪魔しとったけど、それもなくなったしなぁ。まあ、ほっといても同じ末路やろうけど……どうせなら、仲良う遊ぶ方がお互いの為や。その仲介役をわてがやりましょ」

 オレが差し出した残りの金をしっかりと数えながら、興津は予想通りの事を話し始めた。

 予想外だったのは、先輩だけでなく柏木の名前まで出た事くらいだ。会長が先輩を余計な事に巻き込まないよう、トラブルメーカーのオレを見張らせていた、そんな所か。

「ちなみに何人までやったら一緒に遊べるか、教えて貰えるか? その方があんたもええやろ、効率よう稼げて」

 ぞっとするような事を真顔で言いやがる。今までの自分の所業を考えると、スバルに巻き込まれて仕方なくという言い訳は通じないとして、リアルに向田を再現させられるだろう。

 今すぐに皆元たちがいる旧館に飛んで帰りたい気持ちで一杯になるが、それは出来ない。

「その前に、お前が何を知っているのか教えろ。あの刑事に何を言うつもりだ」

 胸中を悟られないよう、精一杯の虚勢で興津に向き合う。

「それを言うてしもたら、商売にならんのとちゃいます?」

「オレはお前がクソ野郎だって事しか分からない。口でいくら『忘れる』と言われても信用出来ないって事だ」

「そら残念やねぇ。わてみたいな信用出来へんクソ野郎に一個しかあらへん体を預けるのは不安やろうし……ほな、この話はなかった事にしましょか?」

 特に問題はないと、顔色一つ変えずに席を立とうとする興津を引き止め、焦りが顔に出ないよう、ゆっくりと言葉を選ぶ。

「先輩が口止めしていた事をオレが引き継ぐ。百万はその口止め料だ。だから、その内容を知っておきたい」

 内容次第では、百万なんて馬鹿な条件は無視しても構わないだろう。前金で十万払ったようなもんだし、全力で絡まれるのは必至だが、先輩以外の奴にケツ掘られるなんて死んでも御免だ。

「金城がある生徒と話しとるのを聞いたんや。葛見のあの怪我は金城がやったんやて」

 口止めって寮長の事か。興津の言葉を例え先輩が認めようと、城井老人を信用すると言ってくれた寮長なら、きっと上手く事をおさめてくれる。

 興津を放置しても問題ない、そう判断して、後はこの場からどう逃げ出すか、頭の中は切り替わった。

「それ聞いて、色々調べてみたんや」

 周囲に興津の手下が潜んでいないか、それとなく探りを入れながら「何を?」と上の空で尋ねる。すると興津は、視線を外すのが不安になる嫌な笑みを浮かべ、机の上に無造作に置いてあった雑誌の下からタブレットを取り出した。

「葛見の怪我について。いつ、どこで、何がどうなって怪我したんか」

 タブレットを操作し、オレに画面を向けながら、興津は百万の値段をつけた情報をペラペラと喋り出した。

「葛見が足壊した時期に絞って調べたんや。ほとんど、まともな情報はあらへんかったけど……これちゃうかなぁ思てな」

 ピタリと興津の指が止まり、映し出されたのは小さな新聞記事の写真だった。内容にそぐわない小さな記事は、寮長から聞いた沈没事故だとすぐに分かった。

「わてが自力で見つけたのんは、これ一個きりやけど、世話になっとるお人の所で調べさせてもろたら、面白い事が分かってなぁ。この船、どうも人身売買の会場やったみたいで……その日、持ち込まれたモンの中に見つけてしもたんや」

 再び指がスライドされる。そこに出て来た写真を見て、思わず息が詰まった。
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