圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

教師の苦労、生徒は知らず

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「すまんな。字を書くの難しくて……読みにくいだろ……いや、その前に読めるか?」

 器用に鉛筆を尖らせていくなぁと見とれてしまった。

「大丈夫。ちゃんと読めるよ。筆圧は強いけど、丁寧に書いてあるから。これって、板書をそのまま写したんだよね」

「うん、正直それだけで授業中はいっぱいいっぱいになってる」

 困ったように笑って課題に取りかかる先輩を見て納得する。字を書くという作業が先輩にとって、かなり労力を要すると人目で分かってしまったからな。

 習字でもやっているような慎重さ。ボキボキと芯が折れる度、不安からか手が止まる。オレが持ってきたシャーペンでも渡そうかと思ったが、物理的に無理だな。

「先輩、一度ボールペン使ってみて。これなら芯折れないよ」

 ボールペンを貸してみる。恐る恐る使い出した先輩は、ぱあっと表情を明るくした。

「セイシュン! これ、すごいぞ! 字がマジックみたいに書けるぞ」

 マジックペンは使ってたけど、ボールペンは初めてだったらしい。嬉しそうな顔を見ていると、ついこっちまで朗らかになってしまうが、気を引き締めてオレは自分の作業に戻る。

「あぁっ! しまったッ! セイシュン、これは消しゴムが使えないのか!? 字が、紙が大変な事になったぞ!」

 乾いていないインクを消しゴムで擦ったらしく、課題のプリントに大きな黒いモヤが出来ていた。

「先輩、ペン使う時は消しゴムじゃあなくて、こっちを使って、修正テープ。使い方は……こう……で、後はこの上から書く。すぐに擦るとまたインク滲むから気を付けて」

 先輩のノートは板書を丸ごと写しているようだった。時代に取り残された学校である圏ガクでは、プロジェクターやタブレットとは無縁。

 その上、チョークは白の一色のみなので、非常に分かりにくい。オレは私物のマーカーで重要な部分を目立たせながら、授業内容を確認していく。

 今、使っている物を持ってきて貰ったのだが、今までの分も見ておきたいな。明日にでも、先輩の部屋に行って確認するか。

 数冊のノートを流し見し、次は課題に手を伸ばす。

「……?」

 課題の一つを見ていて、オレは不思議な感覚に捕らわれた。ちょっと前に見た事のあるような内容に首を傾げる。いや、まさかなと、次々に課題の内容を確認して、オレは先輩に気付かれないよう息を呑んだ。

 先輩の卒業は予想以上に難易度が高そうだと、悟るのに時間は必要なかった。

「セイシュン、今日はありがとうな。勉強に付き合ってくれて。一人でやりよりずっと捗った」

 先輩が漢字の書き取りを終えたのが、きりの良い時間だったので、本日はそれで解散する事にした。現状の把握は一応だが出来たので、オレとしては早急に今後のスケジュールを練らなければならない。

 申し訳なさからだろうか、控えめに嬉しそうな顔を見せ部屋に戻る先輩を見送り、オレは旧館の事務室へ足を伸ばす。

「夷川です。自習終わりました」

 担任に空き部屋を借りた時、終わったら声をかけるようにと言われていたのだ。どの部屋も旧館使用なので、もちろん鍵などないのだが、さっと掃除だけは済ませてある。こちらとしても、明日以降も使用させて貰えるよう、改めて声をかけておきたかった。

「おう、入れ」

 事務室から聞こえた声は担任のものではなかった。聞き覚えのある声に一瞬身構えてしまったが、逃げる理由もない。素直に扉を開け、入室する。

「金城のおつむの世話してくれんだって?」

 部屋で待ちかまえていたのは、先輩の担任でもある守峰だった。手にしているのはブラックの缶コーヒーなのに、居酒屋で一杯やっている雰囲気が漂っているのは何故だろうか。何者か知らずに目の前に現れたら、間違いなく堅気の人間には見えないな。

「まあ、座れや。金城のやってる事を見たんだろ。聞きたい事の一つや二つあるだろうと思ってな」

 勧められたイスに座る。手持ちぶさたなのか、指先を揉んだ後、耳の中を掻きながら、ため息のような煙草臭い息を吐き出す。

「先輩は授業に全くついて行けてないんですね」

 答えてくれるならば、単刀直入に聞いておこう。先輩の前では言えなかった事をズバリ尋ねる。守峰は「そうだ」と頷く。

「元々、うちの学校に来るような奴らは、まともに義務教育受けてない奴が大半なんだよ。入試もないしな。だから、一年の時はふるいにかける。お前もやっただろ、一学期は丸ごと中学ん時の内容をやって、それぞれの進行度合いを計るんだ。んで、個別に指導して、なんとか同じスタートラインに立たせる」

 大変だなと他人事ながら思ってしまう。いや、他人事ではなかったな。

「九九が分からん奴も珍しくないが、金城の場合は特殊でな。頭の出来は悪くないが、いかんせん小学校から始める必要があった。それにプラスして警察官採用試験ってのも乗っかって、まあ正攻法ではどうにもならんかったんだよ」

「試験対策を優先してたんですか?」
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