312 / 411
蜜月
頼もしい味方
しおりを挟む
オレの問いに守峰は「そうだ」と簡潔に答えた。
「正直な所、金城が筆記をパスしたって話を聞いて驚いた。完全に付け焼き刃、ぶっちゃけて言うとおれが山張ったんだが……奇跡だと思う」
現状を知ってしまうと、オレも城井老人の加護があったのかもしれないという感動が吹っ飛んだ。紛れもなく奇跡だったのだと、薄ら寒いものすら感じる。
「出過ぎた真似かとも思いましたが、金城先輩本人の希望でもあったので、一緒に勉強していこうと思っています」
文句はないだろうが、頼みもあったので改めて宣言すると、守峰は皮肉たっぷりに笑って見せた。
「お前の申し出はありがたく受けよう。おれらには他にも見てやらにゃいかん連中が多くてな。進路が決定している奴はどうしても後回しになっちまうんだ。無理のない範囲でいい。一年のお前に言うのは酷だが、頼んだぞ」
「はい。ただ、その件でお願いがあるんですが……聞いてもらえますか?」
意外そうな顔をされてしまったが、言うだけ言ってみろと許されたので頼みを口にする。
「自分なりにまとめたテキストや課題を使用したいと思うんですが、それに間違いがないか確認して貰えないでしょうか。お忙しいと思いますが、万全を期したいんです」
自信がない訳ではないが、自分だけの問題じゃあない。もし間違えていたら、先輩に迷惑がかかる。ほぼ関わりのない三年の教師に頼むのは気が引けるが、オレの担任に言うのも違う気がしたのだ。
「それは構わんが、今くらいの時間しか空いてなくてな。それでもいいなら、好きなだけ持って来い。すぐに目を通してやる」
ありがたい事に守峰は快諾してくれた。今日と同じ時間に旧館事務室で待っていてくれるらしい。オレは礼を言って背中を向ける。
「夷川、お前はどうするんだ?」
早速まとめるぞと意気込んだが、名前を呼ばれ足を止める。振り返ると守峰は火のついていない煙草をくわえようとしていた。
「進路だよ、お前の進路。決めてるのか?」
「いえ、まだ何も考えていません」
考えるまでもなく答える。すると、ニッと歯を見せて守峰は笑った。
「早いなんて事はねぇぞ、三年なんてあっという間だ」
今はそれどころではない。そうですねと曖昧な返事をする。
「ここは、どっからどう見ても掃き溜めだがな、本人にやる気さえあれば、どこだって入れてやる。お前も真剣に考えてみろ」
言うだけ言うと、守峰はライターにまで手を伸ばしていた。視線を手元に注いでやると「用が済んだら行け」と追い払われた。実に頼もしい不良教師に呆れつつも、挨拶をして事務所を出る。
翌日の放課後は、本人の承諾も得て、今までのノートを確認する為に先輩の部屋にこもらせて貰った。だいたいは予想通りだったのだが、飛び飛びに、重要語句が丸や四角で囲われている箇所があった。代理の教師が授業をしたのかと思い、補習から帰って来た先輩に確認すると照れ臭そうに笑いながら、種明かしをした。
「授業の進み方が早くて、書き終わるまでに黒板を消されちまったんだ。だから、授業終わった後でノート借りて写したんだ」
ちなみにノートを借りた相手は髭らしい。さすが受験生! てか、裏番と番長がノートの貸し借りしてんのか、うちの学校……平和すぎて笑う。
笑える事実のはずなのに、どうしてか笑えないのはオレが嫉妬深すぎるんだろうか。変な所で現れた髭の存在に、オレのやる気は更に燃え上がり、先輩を卒業させるべく頭をこねくり回した。
まず課題によって進行度合いにばらつきがあった。先輩の学力を分かった上で出ている課題と、とにかく出来てない奴にやらせているであろう無差別な課題があり、それらはノート内容と併せて見ると、担当教師の技量の差でもあった。
守峰を筆頭に受験組の受け皿になっている教師は、先輩の学力を理解し現状とのすり合わせが行われているので、課題に取り組めばさほど問題はない。けれど、そうでない教師が担当している教科は、課題を取り組む為の基礎知識が先輩に欠如しているせいで、実質ほぼ無意味な状態だ。
オレのやるべき事が明確になり、そのお手本もあるのだ。やって出来ないはずがないと、オレの「先輩卒業大作戦」は始動した。
まとめ上げたテキストと課題を守峰にチェックしてもらい、先輩と一緒にそれらをこなす。そうして、勉強の流れが出来始めた頃、初めてのお泊まり勉強会をする事になった。
「分からない所があったら、何度でも聞いて」
「ん、すまんな……物覚え悪くて、同じ事を何度みょ」
申し訳なさそうな顔をする先輩の頬を抓る。いつもと立場逆転だ。新鮮な感覚に浸っていたいが、オレが邪魔してどうする。
「そんな遠慮は無駄だから止めろよ。オレはオレの冬休みの為に頑張ってんの。気にするだけマジ無駄だから」
分かったら早くやれと、視線と顎で課題を指す。先輩は「そうだな、うん」と真剣な顔で課題に取り組み出す。
「正直な所、金城が筆記をパスしたって話を聞いて驚いた。完全に付け焼き刃、ぶっちゃけて言うとおれが山張ったんだが……奇跡だと思う」
現状を知ってしまうと、オレも城井老人の加護があったのかもしれないという感動が吹っ飛んだ。紛れもなく奇跡だったのだと、薄ら寒いものすら感じる。
「出過ぎた真似かとも思いましたが、金城先輩本人の希望でもあったので、一緒に勉強していこうと思っています」
文句はないだろうが、頼みもあったので改めて宣言すると、守峰は皮肉たっぷりに笑って見せた。
「お前の申し出はありがたく受けよう。おれらには他にも見てやらにゃいかん連中が多くてな。進路が決定している奴はどうしても後回しになっちまうんだ。無理のない範囲でいい。一年のお前に言うのは酷だが、頼んだぞ」
「はい。ただ、その件でお願いがあるんですが……聞いてもらえますか?」
意外そうな顔をされてしまったが、言うだけ言ってみろと許されたので頼みを口にする。
「自分なりにまとめたテキストや課題を使用したいと思うんですが、それに間違いがないか確認して貰えないでしょうか。お忙しいと思いますが、万全を期したいんです」
自信がない訳ではないが、自分だけの問題じゃあない。もし間違えていたら、先輩に迷惑がかかる。ほぼ関わりのない三年の教師に頼むのは気が引けるが、オレの担任に言うのも違う気がしたのだ。
「それは構わんが、今くらいの時間しか空いてなくてな。それでもいいなら、好きなだけ持って来い。すぐに目を通してやる」
ありがたい事に守峰は快諾してくれた。今日と同じ時間に旧館事務室で待っていてくれるらしい。オレは礼を言って背中を向ける。
「夷川、お前はどうするんだ?」
早速まとめるぞと意気込んだが、名前を呼ばれ足を止める。振り返ると守峰は火のついていない煙草をくわえようとしていた。
「進路だよ、お前の進路。決めてるのか?」
「いえ、まだ何も考えていません」
考えるまでもなく答える。すると、ニッと歯を見せて守峰は笑った。
「早いなんて事はねぇぞ、三年なんてあっという間だ」
今はそれどころではない。そうですねと曖昧な返事をする。
「ここは、どっからどう見ても掃き溜めだがな、本人にやる気さえあれば、どこだって入れてやる。お前も真剣に考えてみろ」
言うだけ言うと、守峰はライターにまで手を伸ばしていた。視線を手元に注いでやると「用が済んだら行け」と追い払われた。実に頼もしい不良教師に呆れつつも、挨拶をして事務所を出る。
翌日の放課後は、本人の承諾も得て、今までのノートを確認する為に先輩の部屋にこもらせて貰った。だいたいは予想通りだったのだが、飛び飛びに、重要語句が丸や四角で囲われている箇所があった。代理の教師が授業をしたのかと思い、補習から帰って来た先輩に確認すると照れ臭そうに笑いながら、種明かしをした。
「授業の進み方が早くて、書き終わるまでに黒板を消されちまったんだ。だから、授業終わった後でノート借りて写したんだ」
ちなみにノートを借りた相手は髭らしい。さすが受験生! てか、裏番と番長がノートの貸し借りしてんのか、うちの学校……平和すぎて笑う。
笑える事実のはずなのに、どうしてか笑えないのはオレが嫉妬深すぎるんだろうか。変な所で現れた髭の存在に、オレのやる気は更に燃え上がり、先輩を卒業させるべく頭をこねくり回した。
まず課題によって進行度合いにばらつきがあった。先輩の学力を分かった上で出ている課題と、とにかく出来てない奴にやらせているであろう無差別な課題があり、それらはノート内容と併せて見ると、担当教師の技量の差でもあった。
守峰を筆頭に受験組の受け皿になっている教師は、先輩の学力を理解し現状とのすり合わせが行われているので、課題に取り組めばさほど問題はない。けれど、そうでない教師が担当している教科は、課題を取り組む為の基礎知識が先輩に欠如しているせいで、実質ほぼ無意味な状態だ。
オレのやるべき事が明確になり、そのお手本もあるのだ。やって出来ないはずがないと、オレの「先輩卒業大作戦」は始動した。
まとめ上げたテキストと課題を守峰にチェックしてもらい、先輩と一緒にそれらをこなす。そうして、勉強の流れが出来始めた頃、初めてのお泊まり勉強会をする事になった。
「分からない所があったら、何度でも聞いて」
「ん、すまんな……物覚え悪くて、同じ事を何度みょ」
申し訳なさそうな顔をする先輩の頬を抓る。いつもと立場逆転だ。新鮮な感覚に浸っていたいが、オレが邪魔してどうする。
「そんな遠慮は無駄だから止めろよ。オレはオレの冬休みの為に頑張ってんの。気にするだけマジ無駄だから」
分かったら早くやれと、視線と顎で課題を指す。先輩は「そうだな、うん」と真剣な顔で課題に取り組み出す。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※この物語はフィクションです。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる