圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

夜のためのトレーニング

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 柏木の指摘が、本当に的を射ていたという事だ。先輩は本気でオレの事しか考えていない。

「オレ、先輩をちゃんと満足させたい。でも、今のままじゃあ無理だと思う」

 現実は残酷で、取って付けたような『接待ごっこ』では、例え先輩が受け入れてくれていたとしても、まともに相手は出来なかっただろう。体格の差ではない、明確な体力の差だ。

「セイシュン、俺は本当に満足してる。お前にこうやって触れるだけで十分なんだ。無防備に眠ってるお前を見てるのも好きだしな。それを取り上げないでくれ」

 先輩はオレの頬をそっと撫でながら、穏やかに笑ってくれる。俺はその手をしっかりと握り返す。

「あんまりオレを甘やかせないでくれ。オレ、絶対に先輩を満足させられるよう頑張る。頑張って、何回でもヤレるような体を作る!」

 エロマンガでも殆どの場合、一回では終わらないのだ。そこを見落としていた。女でも二三回は余裕でヤレるのに、男のオレが一回で寝落ちするなど情けないにも程がある。

「だから……先輩! 今度は先輩がオレをビシバシ鍛えてくれ!」

 オレの覚悟が伝わったのか、先輩は困ったように笑って「じゃあ」と口を開く。

「冬休みの予定を前倒しするか。明日から少しずつ始めてみよう」





 そんな訳で、翌日から先輩に付き合ってもらい、先輩の性欲を受け止める為の体力作りをスタートさせた。

 目的が目的なだけに、専門家(?)の柏木辺りにトレーナーを頼めば、肛門をピンポイントに鍛えるメニューを用意されそうだが、どれだけ効率が良くてもケツでダンベルを上げる自分には出会いたくない。先輩だって、ケツダンベルやらかす恋人は持て余すだろうしな。

 とりあえず昼休みに取り入れていた午睡を筋トレに変更したり、放課後の宝探しとジョギングを組み合わせたりしながら、地道に体を鍛え始める。底なしの性欲を思い出すと、その地道さに不安を覚えないでもないが、先輩が「まずは小手調べだ」と用意してくるメニューが想像以上にハードで、自分の体力のなさを嫌でも自覚させられた。効率よく鍛える為に、授業を空気椅子で受けてみるとか考えていたが、そんな余裕も筋力もない。午後の授業は昼休みの代償で、筋トレした部位がもれなくプルプル震えている始末だ。

 初日というか始めて数日は、あまりのキツさに先輩の本気を感じていたが、本当に言葉通りそれらが『小手調べ』だったと気付かされたのは、冬休み前の最後の週末だった。

 コツコツ続けたおかげで体が慣れたのか、速効でやってくる筋肉痛とおさらばしたオレは、調子に乗って先輩が普段やっているトレーニングを一緒にやりたいと申し出た。

 一緒に夜を過ごすと、先輩の性欲の一端しか満たせていない事実がのし掛かってきて、一人満たされまくったオレは眠気と戦いながら、半ば無理矢理に約束を取り付けた。

 日も昇らぬ早朝四時に起床。一瞬、布団恋しさに先輩の正気を疑ってしまったが、屈辱的な夕べの記憶(至福)を思い出し、気合いを入れて外へ出る。

「いつもは敷地内をぐるっと走るんだが、慣れるまでは運動場を使おう」

 迷子の心配がないから、先輩は笑ってそう言った。子供扱いか! と腹も立ったが、『敷地内』を見回すと抗議の声は上げられなかった。この真っ暗な中で先輩に置いて行かれたら、迷子とまではいかなくとも心細いに決まっている。

「分かった。じゃあ先輩についていくから、いつも通りに走ってみて」

 準備運動を軽く済ませ、オレから声をかけると、先輩は「セイシュンのペースに合わせるぞ」と意外そうに言う。それじゃあ先輩の『いつも』が見られない。素直に口にすると、先輩は困ったように笑って「無理しなくていいからな」と言い残し、姿を消した。

「は?」

 暗いせいか、先輩の姿を一瞬で見失ってしまった。パニクりそうになるが、すぐに先輩は戻ってきた。トラックを走っているらしく、それが分かれば目で追う事が出来るようになった。

「無理せず、セイシュンのペースで走るんだぞ」

 軽く手を振りながら声をかけてくれる。そこでようやく自分がボーッと突っ立っている事に気付き、オレも一緒に走ろうと先輩の背中を追いかけようとして、また先輩の姿を見失う。

「ちょっ、早すぎだろ!」

 離れて見ている分には姿を追えるが、同じようにトラックへ入ってしまうと駄目だった。常人離れした速度に思わずツッコミを入れてしまう。

「お前のペースに合わせるぞ」

 追いかける気も起きず軽く走っていると、一周を走り終え先輩が併走しながら言った。既にトラックを二周、全力疾走しているはずの先輩は、呼吸が乱れる事もなく普段通り平然としている。

 オレは返事をするより先に全力で走り出す。明らかにマラソンの速さではなく、すぐにバテるのは目に見えていたが、焦りのせいか、それとも単純に悔しいだけか、オレは全力で走った。

「疲れたら、ゆっくり歩けばいいからな。まだ先は長いぞ」

 即行でバテ始めたオレに追いつき、先輩は相変わらず穏やかな声で言う。

「……長いって……どれくらい?」

 追い抜かれないよう、歯を食いしばって全力疾走をキープしながら尋ねる。

「ん、一時間くらいかな」

 先輩の答えに一瞬で心が折れた。

「ゆっくり歩くんだぞ。あ、気持ち悪くなったらすぐに言えよ」

 ガクンと速度を落とす、いや、立ち止まったオレに振り返りながら言う先輩。軽く手を上げて「分かった」と返事をすると、息切れする情けない呼吸の合間に、規則正しい足音が聞こえて遠ざかる。
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