339 / 411
蜜月
一番風呂
しおりを挟む
時刻は午後三時を少し回ったところ。普段よりも一時間以上は早めに風呂の準備は整った。
「一時間はゆっくりと風呂に入れそうだ。逆上せないように注意しないとな」
下山組の帰校時間を逆算すると、確かに一時間は余裕だろう。普段の風呂が五分かその程度なので『一時間』なんて聞くと大丈夫かなと一瞬不安になったが、服を脱いで改めて寒さを実感すると、一刻も早く湯船に飛び込みたくなった。
もちろん、そんなバカな事はしない。せっかくキレイにしたのだから、少しでもキレイに使いたい。
オレたちはガタガタ震えながらも入念に体の隅々まで洗った。風呂上がってからの予定(今夜こそ決行する冬休み初のセックス)の為と思えば、寒さなど二の次……な訳だが、先輩の背中を流してやるとか、そういう所までは余裕がなく、あまり普段と変わらなかった。
「ん、セイシュンも準備出来たな……じゃあ入るか」
普段は甲斐甲斐しくオレの世話を焼く先輩も、今日は自分の事で精一杯ならしい。オレはちょっと待てと声をかけ、桶に湯を溜める。そして、先輩の頭から湯を浴びせてやり、背中や髪に残っていた泡を洗い流してやった。
「よし! 先輩『せーの』で一緒に入ろうってッ言ってる最中に入るなよ!」
地味にオレよりも自分が湯船に浸かりたかったんじゃあないのかコイツ。今日の成果をしっかり噛みしめ、湯の気持ちよさを一緒に味わいたかったのに、先輩は一人で「あぁぁー」なんて声を上げてやがる。
薄情な奴に水飛沫を浴びせてやると、わざと勢いよく湯に足を突っ込む。飛び込むくらいの勢いで突撃したのに、肌を襲う感覚に驚き、続く一歩はそろりと恐る恐るになってしまった。
「うっわ……すげぇ、足じわじわする」
自分が思っている以上に体は冷えていたらしく、熱い湯に浸けると痺れのようなむず痒い感覚が体全体に広がる。氷が溶けるみたいに、体の芯に染みついた冷えがゆっくり消えていくのが分かった。
「きもちいぃ……」
掃除で水を触りっぱなしだったかじかんだ指先も柔らかくなる。肩までしっかり湯の恩恵を受けようと、体をぐんと伸ばせば、全身が湯に包まれる感覚に先輩と同じような声が自然と漏れた。
「風呂掃除、やってよかったな」
「うん……よかった」
呟くような先輩の声に同意する。体に溜まっていた疲れが、全部溶け出しているに違いない。凝り固まった体が緩んでいく。
ちょっとした広さがあるので、泳いでやろうと思っていたのだが、至福の時間を浪費したくなくて、先輩の隣で大人しく湯に浸かってしまった。
一時間はあっと言う間で、湯に浸かったり、余裕が出て来て背中の流し合いをしたりしていると、色っぽい展開には微塵もならずに過ぎ去ってしまう。
浴場で欲情するなど、あってはならない事だと思うし、平穏に過ぎてよかった訳だが、好き合う者同士がマッパで一時間も一緒にいるのに、全くそれっぽい空気にならないのは問題じゃあないかと、思わなくもない。
部屋に戻ったら容赦なくヤルつもりなので、予定としては問題ないが、どうにもモヤモヤした気持ちが付きまとう。この場ではなにもしないが、もっと……雰囲気的なものくらいあってもバチは当たらないぞと先輩に言いたくなった。
「セイシュン、下山してた奴らが戻ってくる前に上がるか」
一時間の入浴で、火照った満足そうな顔をした先輩が言う。この気持ちよさを下山組と共有する事で相殺したくない。名残惜しさはあるが、先輩に同意する。
「うわっ、上がっても気持ちいいなぁ」
湯から上がり脱衣所に移動しても感動があった。思わず声を上げてしまうくらい、火照った体に外の空気が冷たくて気持ちよかった。
これは湯上がりのコーヒー牛乳ならぬ、カフェオレも期待出来る。一人ほくそ笑みながら手早く着替えていると、隣からゴンとにぶい音が聞こえ、振り向くと先輩が壁に頭をぶつけていた。
「大丈夫か先輩! 逆上せた? 気持ち悪い?」
慌てて先輩の体を支えようとすると、逆に腕を掴まれる。そして、何故か無言で予備に持って来ていたタオルを頭から被された。ご丁寧に顎の下でタオルは結ばれ、火照った頭から湯気を上げる阿呆に変身させられる。
「おい……なにすんだよ。心配しなくても、ここまで温まったんだ。そんな即行で湯冷めなんてしねぇよ」
「いや、駄目だ……これは、駄目だ……」
先輩は壁から頭を離しはしたが、依然として壁を真っ直ぐ見つめたまま、要するにこちらを見ずに独り言のように呟いた。
「お、おい、ちょっ、先輩!? 本気でどうしたんだよ!!」
駄目だ駄目だと繰り返し、またぞろ壁に頭をぶつけだした先輩。一時間も風呂に入っていたせいで、頭がおかしくなったのかと、とにかく壁から先輩を引き剥がすべく腕を引っ張っていると、下山組の帰校を告げるバスの悲鳴、もといエンジン音が聞こえてきた。同時にオレは問答無用で先輩に担ぎ上げられる。
「うわッ! 先輩! ほんと何ッ!?」
訳の分からない状況に抗議してみるが「黙ってろ。舌噛むぞ」と冗談を挟めない雰囲気で言われた後、先輩はオレを抱えたまま本気で走り出した。
「一時間はゆっくりと風呂に入れそうだ。逆上せないように注意しないとな」
下山組の帰校時間を逆算すると、確かに一時間は余裕だろう。普段の風呂が五分かその程度なので『一時間』なんて聞くと大丈夫かなと一瞬不安になったが、服を脱いで改めて寒さを実感すると、一刻も早く湯船に飛び込みたくなった。
もちろん、そんなバカな事はしない。せっかくキレイにしたのだから、少しでもキレイに使いたい。
オレたちはガタガタ震えながらも入念に体の隅々まで洗った。風呂上がってからの予定(今夜こそ決行する冬休み初のセックス)の為と思えば、寒さなど二の次……な訳だが、先輩の背中を流してやるとか、そういう所までは余裕がなく、あまり普段と変わらなかった。
「ん、セイシュンも準備出来たな……じゃあ入るか」
普段は甲斐甲斐しくオレの世話を焼く先輩も、今日は自分の事で精一杯ならしい。オレはちょっと待てと声をかけ、桶に湯を溜める。そして、先輩の頭から湯を浴びせてやり、背中や髪に残っていた泡を洗い流してやった。
「よし! 先輩『せーの』で一緒に入ろうってッ言ってる最中に入るなよ!」
地味にオレよりも自分が湯船に浸かりたかったんじゃあないのかコイツ。今日の成果をしっかり噛みしめ、湯の気持ちよさを一緒に味わいたかったのに、先輩は一人で「あぁぁー」なんて声を上げてやがる。
薄情な奴に水飛沫を浴びせてやると、わざと勢いよく湯に足を突っ込む。飛び込むくらいの勢いで突撃したのに、肌を襲う感覚に驚き、続く一歩はそろりと恐る恐るになってしまった。
「うっわ……すげぇ、足じわじわする」
自分が思っている以上に体は冷えていたらしく、熱い湯に浸けると痺れのようなむず痒い感覚が体全体に広がる。氷が溶けるみたいに、体の芯に染みついた冷えがゆっくり消えていくのが分かった。
「きもちいぃ……」
掃除で水を触りっぱなしだったかじかんだ指先も柔らかくなる。肩までしっかり湯の恩恵を受けようと、体をぐんと伸ばせば、全身が湯に包まれる感覚に先輩と同じような声が自然と漏れた。
「風呂掃除、やってよかったな」
「うん……よかった」
呟くような先輩の声に同意する。体に溜まっていた疲れが、全部溶け出しているに違いない。凝り固まった体が緩んでいく。
ちょっとした広さがあるので、泳いでやろうと思っていたのだが、至福の時間を浪費したくなくて、先輩の隣で大人しく湯に浸かってしまった。
一時間はあっと言う間で、湯に浸かったり、余裕が出て来て背中の流し合いをしたりしていると、色っぽい展開には微塵もならずに過ぎ去ってしまう。
浴場で欲情するなど、あってはならない事だと思うし、平穏に過ぎてよかった訳だが、好き合う者同士がマッパで一時間も一緒にいるのに、全くそれっぽい空気にならないのは問題じゃあないかと、思わなくもない。
部屋に戻ったら容赦なくヤルつもりなので、予定としては問題ないが、どうにもモヤモヤした気持ちが付きまとう。この場ではなにもしないが、もっと……雰囲気的なものくらいあってもバチは当たらないぞと先輩に言いたくなった。
「セイシュン、下山してた奴らが戻ってくる前に上がるか」
一時間の入浴で、火照った満足そうな顔をした先輩が言う。この気持ちよさを下山組と共有する事で相殺したくない。名残惜しさはあるが、先輩に同意する。
「うわっ、上がっても気持ちいいなぁ」
湯から上がり脱衣所に移動しても感動があった。思わず声を上げてしまうくらい、火照った体に外の空気が冷たくて気持ちよかった。
これは湯上がりのコーヒー牛乳ならぬ、カフェオレも期待出来る。一人ほくそ笑みながら手早く着替えていると、隣からゴンとにぶい音が聞こえ、振り向くと先輩が壁に頭をぶつけていた。
「大丈夫か先輩! 逆上せた? 気持ち悪い?」
慌てて先輩の体を支えようとすると、逆に腕を掴まれる。そして、何故か無言で予備に持って来ていたタオルを頭から被された。ご丁寧に顎の下でタオルは結ばれ、火照った頭から湯気を上げる阿呆に変身させられる。
「おい……なにすんだよ。心配しなくても、ここまで温まったんだ。そんな即行で湯冷めなんてしねぇよ」
「いや、駄目だ……これは、駄目だ……」
先輩は壁から頭を離しはしたが、依然として壁を真っ直ぐ見つめたまま、要するにこちらを見ずに独り言のように呟いた。
「お、おい、ちょっ、先輩!? 本気でどうしたんだよ!!」
駄目だ駄目だと繰り返し、またぞろ壁に頭をぶつけだした先輩。一時間も風呂に入っていたせいで、頭がおかしくなったのかと、とにかく壁から先輩を引き剥がすべく腕を引っ張っていると、下山組の帰校を告げるバスの悲鳴、もといエンジン音が聞こえてきた。同時にオレは問答無用で先輩に担ぎ上げられる。
「うわッ! 先輩! ほんと何ッ!?」
訳の分からない状況に抗議してみるが「黙ってろ。舌噛むぞ」と冗談を挟めない雰囲気で言われた後、先輩はオレを抱えたまま本気で走り出した。
0
あなたにおすすめの小説
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
狂わせたのは君なのに
一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※この物語はフィクションです。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる