圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

風呂掃除

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 一通り擦り終えホースで水を流すと、斑の模様は消えたが、まだまだ足りない。浴槽に戻り、再び洗剤を撒き床を擦る。それを数度繰り返した後、デッキブラシをたわしに持ち替え、細部(角やタイルの溝)の汚れを落としていく。

 狭間の見様見真似だが、デッキブラシの届かない場所がたくさんある事を思い知らされ、たわしを素手で握ってしまった後悔をしつつ、先輩と二人で昼飯も忘れて没頭した。

 広さと汚れの酷さで、予想以上の重労働になってしまった風呂掃除。冷たい水を触りつつも、体を動かしているので体は冷えず、むしろ汗すらかいた。単に水が飛んで濡れただけかもしれないが「風呂に入りたいなー」と思う程度に不快だ。

「腹減ったな。湯を入れる前に飯にしよう」

 気持ちとは裏腹に先輩の提案にはオレの腹が代返した。



 弁当代わりにカップ麺を持参していたので、お湯を貰うべく食堂に向かうと、ヤカンを乗せた石油ストーブの前で霧夜氏が読書中だった。

 先輩と喋りながら食堂に入ったが、霧夜氏はオレらなど眼中にないらしく顔を上げる事はない。湯沸かしポットからもお湯を拝借出来るが、体の熱が冷めてきた今はストーブの近くで食事をしたい。先輩も同じ気持ちならしく、霧夜氏に声をかけた。

「あぁ、金城君と夷川君ですね。今からお昼ですか? 随分と頑張りましたね」

 カップ麺を片手に湯をくれと申し出ると、霧夜氏は珍しく本を机に置き、ヤカンを手に取り「どうぞ」と自ら注いで下さった。自身の湯飲みにも白湯を注ぎ、ヤカンをストーブに置き席に戻ると、同席するよう勧めてくれる。ストーブの側は暖かくて、遠慮するという選択肢はなかった。

 同席は許してくれたが、特に何かを話すでもなく、霧夜氏は本の世界へ戻られた。それに気付いて、先輩は慌てて口を開く。

「あの、今日なんですが、少し早めにお湯を溜めてもいいでしょうか?」

 遠慮気味に言う先輩に続いて、オレも希望を口にする。

「一番風呂、貰ってもいいですか?」

 その為に頑張ったのだ。駄目と言われたら、申し訳ないが全力で読書の邪魔をしてやろうと思ったのだが「かまいませんよ」と穏やかな声で霧夜氏は答えてくれた。

「あまり早くお湯を使うのは問題ですが、一時間ほどなら問題ありませんよ。みなさんが帰ってくる前に先に浴場を使って下さい」

 寛大な圏ガクの校長先生にオレらは揃って「ありがとうございます」と礼儀正しく感謝を伝えた。

 昼食をサクッと済ませ、掃除の後片付けに取りかかる。掃除道具を洗いながら、浴槽の方に目をやり、達成感にちょっと感動した。

 斑の垢は消え、タイルが一つ一つ確認出来る。元々古い設備なので、キレイと表現するのは躊躇われるが、清潔感は十分で早く風呂に入りたくなった。

 先輩と二人で風呂に入る。昨日も入ったが、蛇口の湯を使うだけでは、その有り難みは半減どころかマイナスだったからな。濡れた体が秒ごとに冷えてしまい、裸で向き合っているのにエロい気分には一切なれないのだ。

「まあ……風呂場でヤル気はないけどな」

 エロい気分になってどうすると、自分自身に言い聞かす。湯船で色々垂れ流すなど、もってのほかだ。小吉さんにも気持ち良く風呂に入って貰いたいからな。

 時間になり湯を溜める。

「着替えを取りに部屋へ戻らないとな……ん、セイシュンはここで湯を見てるか?」

 じっと湯船を眺めるオレを見て、先輩はそう提案してくれる。ずっと見ていてもいいが、さすがに時間がもったいない。けれど一つ思いつき、先輩の言葉に甘え、一人でここに残る事にした。

 先輩を見送り、風呂場を後にする。

「まだ残ってるといいんだけどな」

 軽く走って自販機の前に立つ。休み中は基本的に補充されないので、全て売りきれの可能性もあったが、学校に残っているのはオレと同じく配給民、贅沢品であるジュースの在庫は豊富だった。

「よし、ちゃんとカフェオレが残ってるな。これを風呂上がりのコーヒー牛乳にしてやろう」

 湯上がりなら冷たいジュースも美味しく飲める。こっそり持って来た五百円を握り締め、思わずにやけてしまった。風呂上がりのコーヒー牛乳は、ちょっと憧れていたのだ。

 先輩とオレの分だけでなく、小吉さんのも買おう。あと、しょうがないから稲っちと矢野君にも飲ませてやろう。普段全力で嫌がらせしてくる山センの分は無しだ。五本しか買えないし丁度良い。

 風呂から上がったら、先輩には内緒で自販機にダッシュだな。オレがジュースを買おうとしているのがバレたら、間違いなく阻止してくる(先に買われる)だろうから。

 オレの考えを悟らせるのもよくない。先輩が戻る前に自販機から離れ、浴場へ急いだ。

「先輩、早く戻って来ないかな」

 そして、ゆっくり湯が溜まっていくのを意外と飽きない自分に呆れながらも、阿呆みたいに眺めて過ごした。
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