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蜜月
はじめてのお買い物
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「夷川、金城先輩、谷垣先生が呼んでます!」
年内最後の奉仕作業を終えた翌日、何故か朝っぱらから担任に呼び出しを食らった。
奉仕作業中の乱闘騒ぎの件を改めて説教でもするつもりかと思い、仮病で乗り切ろうと試みたが、真面目な先輩と純粋な小吉さんに挟まれたら、サボるどころか病院に連れて行かれそうだったので、大人しく呼び出しに応じる事にした。
旧館の反省室を思い描いていたが、伝言だけでなく案内までしてくれた小吉さんに連れて行かれたのは車庫だった。
「おう、来たか。じゃあ行くぞ」
担任はすでに車のエンジンをかけてオレたちを待っており、その様子を見るに呼び出しの用件は説教ではなさそうだ。
「年内の奉仕作業は昨日が最後じゃあないんですか?」
文句はないが疑問はある。昨日までと比べると、人口が半分になったワゴン車にゆったり乗り込み尋ねる。
「あぁん? 昨日言ってなかったか。今日は正月の食料調達だ。正月早々、非常食は食いたかねぇだろ」
昨日、担任から聞いたのは暴言と大差ない説教くらいなので、買い出しの事は今知ったと伝えると、車を発進しながら本日の予定を教えてくれた。
大晦日と三が日は下山しない為、オレらの食事を用意してくれる人はいない。その間を食いつなぐ食料を調達しに行く訳だが、ざっと二十人近い人間がいる圏ガク、となると一人で行くのは無謀。そこで、荷物持ちとしてオレら三人に白羽の矢が立ったらしい。
もう一組、候補はあっただろうに何故にオレたちなんだと聞けば、担任は苦笑しながら理由を言った。
「お前らなら、言わんでもしょーもない万引きなんぞせんだろうからな」
小吉さんと先輩は確かにそうだろうが、オレは大丈夫なのかと我が事ながら疑問に思う。もちろん、万引きなどする気はないが、オレが圏ガクに来る原因になった騒動は万引きなのだ。
担任の一言に複雑な気持ちになってしまったが、信用してくれているんだろうと都合良く思う事にした。信用されているのは、間違いなく先輩と小吉さんだろうけど。
私有地である山を爆走した後、壊れたのかと思う程ゆっくりと進むワゴン車は、いつもの公民館を通り過ぎ、大きめの道路に出ると真っ当な速度で目的地へと向かう。
見慣れない景色を二十分ほど眺めただろうか。都会とは言えないが、コンビニやチェーン店の飲食店が並ぶ通りに目的の店はあった。
「セイシュン、何か欲しい物あるか?」
デカデカと『安さが自慢』と書かれた看板のスーパーマーケットに到着すると、先輩がこっそり耳元で囁いた。
「先輩が欲しい」
欲しい物、そう言われて思い浮かぶのは一つで、オレも同じように耳元へ答えを囁いてやる。すると、さっきまで肩の触れ合う距離にあった先輩の体が、ザッと反対側の窓際まで一瞬で遠ざかった。
またも露骨な拒絶反応をされて、思わず舌打ちをしてしまう。小吉さんたちに気付かれないよう、見えない所で握っていた手も、当然離されてしまったので、コートのポケットにねじ込むと、指先に冷たくて固い何かが触れた。
「あ、これ、なんでこんなところに?」
取り出してみると、奉仕作業で貰った五百円玉だった。
「机の上に置きっぱなしになってたんだ。忘れない内にお前の服に入れといたんだが、駄目だったか?」
オレの独り言に、先輩は丁寧に答えてくれる。そこで、未遂に終わっていた企み……じゃあないな、計画を思い出す。
「先生! 買い出しの時、オレらも買い物してもいいですか?」
ばれないように買ってもよかったのだが、ちょっとテンションが上がってしまい担任に思い切り尋ねてしまった。
「なに買うつもりだ! 酒でも買うつもりか!」
何を思ったのか、反射的に怒鳴られた。
「いや、酒はいらないです。コーラとかそういうの、だけど」
怒声に対して正確に答えると「それを買いに行くんだろうが」と担任のテンションも落ち着いてくれた。
「正月に食いたいもんを買っていい。俺が適当に選ぶより、お前らが選んだ方が好みは近いだろ。ただし、全員分を買うんだから、限度ってもんは考えろよ」
全員と言う事は、オレらだけじゃあなく、もちろん残留一年の分も含まれているのだろう。そう思うと、好きな物を買って貰えるのに気持ちが萎えたが、些細な事は忘れようと努める。
信号で停車した時、担任が手渡してきた買い物メモをチェックしていると、その数の多さに少しだけワクワクしてきた。こんなに大量の買い物をするのは生まれて初めてだ。
先輩との距離が、メモを見る為に元に戻って少し経った頃、目的地らしいスーパーに到着した。
ごくありふれた普通のスーパーだったが、年末のせいか午前中の早い時間帯だと言うのに、周辺住民が強制的に集められているかのような混みようで、駐車するのにも時間を取られ、オレたちだけで先に入店するよう車から降ろされる。
年内最後の奉仕作業を終えた翌日、何故か朝っぱらから担任に呼び出しを食らった。
奉仕作業中の乱闘騒ぎの件を改めて説教でもするつもりかと思い、仮病で乗り切ろうと試みたが、真面目な先輩と純粋な小吉さんに挟まれたら、サボるどころか病院に連れて行かれそうだったので、大人しく呼び出しに応じる事にした。
旧館の反省室を思い描いていたが、伝言だけでなく案内までしてくれた小吉さんに連れて行かれたのは車庫だった。
「おう、来たか。じゃあ行くぞ」
担任はすでに車のエンジンをかけてオレたちを待っており、その様子を見るに呼び出しの用件は説教ではなさそうだ。
「年内の奉仕作業は昨日が最後じゃあないんですか?」
文句はないが疑問はある。昨日までと比べると、人口が半分になったワゴン車にゆったり乗り込み尋ねる。
「あぁん? 昨日言ってなかったか。今日は正月の食料調達だ。正月早々、非常食は食いたかねぇだろ」
昨日、担任から聞いたのは暴言と大差ない説教くらいなので、買い出しの事は今知ったと伝えると、車を発進しながら本日の予定を教えてくれた。
大晦日と三が日は下山しない為、オレらの食事を用意してくれる人はいない。その間を食いつなぐ食料を調達しに行く訳だが、ざっと二十人近い人間がいる圏ガク、となると一人で行くのは無謀。そこで、荷物持ちとしてオレら三人に白羽の矢が立ったらしい。
もう一組、候補はあっただろうに何故にオレたちなんだと聞けば、担任は苦笑しながら理由を言った。
「お前らなら、言わんでもしょーもない万引きなんぞせんだろうからな」
小吉さんと先輩は確かにそうだろうが、オレは大丈夫なのかと我が事ながら疑問に思う。もちろん、万引きなどする気はないが、オレが圏ガクに来る原因になった騒動は万引きなのだ。
担任の一言に複雑な気持ちになってしまったが、信用してくれているんだろうと都合良く思う事にした。信用されているのは、間違いなく先輩と小吉さんだろうけど。
私有地である山を爆走した後、壊れたのかと思う程ゆっくりと進むワゴン車は、いつもの公民館を通り過ぎ、大きめの道路に出ると真っ当な速度で目的地へと向かう。
見慣れない景色を二十分ほど眺めただろうか。都会とは言えないが、コンビニやチェーン店の飲食店が並ぶ通りに目的の店はあった。
「セイシュン、何か欲しい物あるか?」
デカデカと『安さが自慢』と書かれた看板のスーパーマーケットに到着すると、先輩がこっそり耳元で囁いた。
「先輩が欲しい」
欲しい物、そう言われて思い浮かぶのは一つで、オレも同じように耳元へ答えを囁いてやる。すると、さっきまで肩の触れ合う距離にあった先輩の体が、ザッと反対側の窓際まで一瞬で遠ざかった。
またも露骨な拒絶反応をされて、思わず舌打ちをしてしまう。小吉さんたちに気付かれないよう、見えない所で握っていた手も、当然離されてしまったので、コートのポケットにねじ込むと、指先に冷たくて固い何かが触れた。
「あ、これ、なんでこんなところに?」
取り出してみると、奉仕作業で貰った五百円玉だった。
「机の上に置きっぱなしになってたんだ。忘れない内にお前の服に入れといたんだが、駄目だったか?」
オレの独り言に、先輩は丁寧に答えてくれる。そこで、未遂に終わっていた企み……じゃあないな、計画を思い出す。
「先生! 買い出しの時、オレらも買い物してもいいですか?」
ばれないように買ってもよかったのだが、ちょっとテンションが上がってしまい担任に思い切り尋ねてしまった。
「なに買うつもりだ! 酒でも買うつもりか!」
何を思ったのか、反射的に怒鳴られた。
「いや、酒はいらないです。コーラとかそういうの、だけど」
怒声に対して正確に答えると「それを買いに行くんだろうが」と担任のテンションも落ち着いてくれた。
「正月に食いたいもんを買っていい。俺が適当に選ぶより、お前らが選んだ方が好みは近いだろ。ただし、全員分を買うんだから、限度ってもんは考えろよ」
全員と言う事は、オレらだけじゃあなく、もちろん残留一年の分も含まれているのだろう。そう思うと、好きな物を買って貰えるのに気持ちが萎えたが、些細な事は忘れようと努める。
信号で停車した時、担任が手渡してきた買い物メモをチェックしていると、その数の多さに少しだけワクワクしてきた。こんなに大量の買い物をするのは生まれて初めてだ。
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ごくありふれた普通のスーパーだったが、年末のせいか午前中の早い時間帯だと言うのに、周辺住民が強制的に集められているかのような混みようで、駐車するのにも時間を取られ、オレたちだけで先に入店するよう車から降ろされる。
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