圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

500円玉の行方

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 響総合病院も年末の休みに入っているらしく、普段なら賑わっている時間帯だが、病院前の駐車場を使う事が出来た。しかし、入り口に『休診』と札が出ているにも関わらず、扉は開くし、待合室には人の気配がある。小吉さんかと思ったが、覗き込むと何故か常連らしい爺さんや婆さんが何組か座っていた。担任も少し面食らいながら、オレらを残して病院の中に入っていった。

「……昨日から、休みって書いてあるじゃん。どうなってんの?」

 扉に貼ってあるカレンダーには、休みを取る日付に赤丸がついており、もちろん、本日の日付も誰が見ても分かる赤丸が書き込まれている。

「みなさん診察にいらっしゃっている訳ではないんですよ。年末のご挨拶に訪ねて下さっているんです」

 オレの独り言に背後から穏やかな声が返ってくる。男子高校生を拉致したとは思えない声に惹かれ振り返ると、スーパーで出会った女の人が立っていた。

「谷垣先生なら、中に入って行きましたよ」

 誰かを探しているのが視線で分かった。欲しがっている答えを察して口にすると、控えめだった表情が一瞬にして輝き出す。

「ありがとう」

 柔らかく微笑み、担任を追って病院の中へ消えていく。可憐な容姿なのに何故か獰猛な雰囲気を感じてしまった。誰もが羨むような状況だと思っていたが、担任が逃げ回っているのも分からんでもない気がした。

「あ、夷川と金城先輩だ」

 病院の中ではなく裏手から聞き慣れた声がして、そちらを見ると、箒とちりとりを持った小吉さんが嬉しそうに近づいて来た。

「小吉、大丈夫か?」

 話だけで小吉さんの状態を見ていなかった先輩が、心配そうに声をかける。

「はい、大丈夫です!」

 時間を持て余し、庭の掃除を買って出るだけあって、小吉さんは元気よく返事をした。元気なら良しだ。オレは特に気遣う事なく、肉まんを取り出し、二人に一つずつ手渡した。

「おぉ、肉まんだ! お店の人に貰ったのか?」

 店というのはあのスーパーだろうか。

「んな訳ないじゃん。コンビニで買ったんだよ。小吉さんと一緒に貰っただろ、五百円。あれで買ったの。みんなで食べよう」

 オレが肉まんの出所を説明すると、小吉さんは「あぁ、あの五百円かぁ」と少し寂しそうな顔を見せた。

「小吉さんも欲しい物あるなら、帰りにコンビニ寄ってもらえばいいよ」

 まだ固くはなっていないが、冷めてしまった肉まんを頬張りつつ言うと、小吉さんは首を横に振った。

「あのお金、もうないからいいんだ」

 寂しそうな理由はそれか。今の圏ガクで買える物は自販機のジュースくらいだが、オレもそうしようと思っていたので意外ではないのだが、続く言葉に絶句した。

「じゃんけんに負けて山センに渡しちゃったからな」

 あの野郎、小吉さんの貴重な現金を……。これは是が非でも取り戻さねば。静かに心を決めると、小吉さんが慌て始める。

「え、ええ、え夷川、そんな怒った顔するのは、だ、だだ駄目だぞ。けけけケンカになる。スーパーでも店の人に同じ顔してたんだぞ」

 小吉さんの言葉の意味が分からず、思わず凄むような声を出してしまう。小吉さんが可哀想なくらい萎縮してしまった。

「セイシュン、山本には俺が話す。それでいいな?」

 見かねた先輩が、肉まんを食べ終えオレの眉間を優しく突いてくる。

「別にオレだって普通に話せるし……二人ともオレが何やらかしそうだって思ってるの?」

 オレの素朴な疑問に、二人は何故か顔を見合わせ黙り込んだ。

「なんか、こう、バチッとなりそうな感じがする」

 小吉さんの曖昧すぎる説明に、先輩が困った顔をしながら補足する。

「友好的な話が出来そうにない雰囲気があるな」

 二人の言いたい事はなんとなく理解出来た。要するにアレだ、オレの感じが悪いって事だろう。

「でも、しょーがないだろ。ヘラヘラしてたら相手に嘗められるだけじゃん」

 元々愛想が悪い上、現在の生活環境では死活問題なのだ。相手を調子付かせて、面倒事が増えるのは避けたい。割と普通の事だと思う。

「学校は、まあ……仕方ないとしても、やっぱり、外で、店の人とかに、あ、あーゆう態度は駄目だぞ。うん」

「さっきのは学校にいる時とは違うって。
ちょっと敬語使えなかっただけじゃん。普通だって」

 小吉さんの言葉から察したらしく、現場に居合わせなかった先輩がオレに説教モードの顔を向けてくる。このままではヤバイと、オレは話題を変えようと試みた。

「それよりさ、学校に電話して確認するーとか言ってたけど、結局どうなったの?」

 高校生に酒の買い出しを任せる教師というのは、確かに怪しさというか、そんな奴本当にいるのかと疑いたくなる気持ちは分かる。それを丁寧に確認しようとしてくれた訳だが、それにしては担任の戻りが早すぎた気がした。
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