圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

先輩孝行

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 荷物がいっぱいの車内を案じて、荒い運転を控えたらしい担任のおかげで、学校に到着して先輩が起こしてくれるまで意識が飛んでいた。変な格好で眠っていたせいで体がバキバキだったが、山のような食料を食堂に運び込む作業が待っている。

 率先して重い荷物(主に酒やジュース)を持って車を降りた先輩を追って、オレも両手に抱えられるだけ抱えて食堂を目指す。

「夷川、そんなにいっぺんに持つと大変なんだぞ」

 オレも一生懸命に足を動かしてはいるのだが、他の三人に遅れを取ってしまう。

「セイシュン、無理するなよ」

 周回遅れになったオレに先輩は声をかけてくれるが、待ってはくれなかった。

 渡されたまま、ぜんざいと餅、あとおせちを持って来てしまったが、失敗だったと反省する。

 食堂の机に荷物を置き、手ぶらになるとそこら辺に置いてある椅子が恋しくなったが、せっせと往復している奴らの横で、一休みする訳にはいかない。良心をフル稼働させて、のろのろと廊下に出ると、稲継先輩が自販機の辺りから出て来る所に出くわした。

「……夷川」

「稲継せんぱっッ!?」

 丁度良いから荷物運びを手伝えと言おうとしたが、言えなかった。いきなり抱きしめられてしまったからだ。

「よくやったッ!」

 そして、何故か褒められた。パンパンと痛いくらいの勢いでオレの背中を叩き、稲っちは満足したのか、それ以上何も言わず去って行った。

「……なんだ、アレ?」

 アイツは何がしたかったんだ。疑問が大きすぎて、男に抱きつかれた不快感が後回しになり呆然としてしまう。

「あ、夷川! まだまだ運ぶ物いっぱいなんだぞ……もしかして、どっか具合悪いのか?」

 オレが立ち尽くしていると、カップラーメンの箱を抱えた小吉さんが通りがかった。

「なんか……稲っちに褒められた」

 稲っちの奇行を報告すると、小吉さんもオレと同じく不思議そうに「買い出し、頑張ったなって事かな?」と足を止めてくれる。二人揃って廊下で首を傾げていると、

「そこにいるのは、夷川に小吉……だったかな。元気にしていたか?」

褒められた理由、奇行の原因が姿を現した。

「あっ! 圏ガクの女神だ!」

 オレが女神の名前を思い出す前に、小吉さんが叫んでしまった。

「橘だ! 女神って……私を馬鹿にしているのか」

 自分で持って来たらしいスリッパを履き、オレらに近づいて来た人は、相変わらず色々と規格外のサイズをしていた。ダウンではないコートのせいか、夏場と同じようにはっきりと、女神の象徴がオレら二人をロックオンする。いや、違うな。オレら二人の視線が、女神の象徴に釘付けになっているのか。

「教員不足だと聞いてな、先生のお役に立てるかと思い、正月の間をこちらで滞在させて貰う事になったので、よろしく頼む。今日の夕食はカレーを作ろうと思うので、君らも食堂へ食べに来なさい」

 それだけ言うと、女神は惚れ惚れする笑みを浮かべて、食堂へと入っていった。

 乳の存在感に圧倒されたオレらは、暫く食堂を眺めていたのだが、何を思いついたのか、小吉さんがぽんと手を打った。

「分かったぞ、なんで夷川が褒められたのか」

「オレが野村の残留を阻んだおかげで、女神と正月一緒に過ごせるから、か」

 てか、なんで稲っちが野村の件を知ってるんだろう。

「おれが言ったんだぞ。あっだ、だだだだ駄目だったのか?」

 駄目じゃあない。小吉さんのおかげで稲継先輩にでっっかい恩を売れた。新学期早々に待っている『野村に謝罪』という不愉快なイベントに報酬が付いた、そう思うと多少は救われた気がした。

 カレーを作ってくれるらしい女神にも急かされ、車の食料を食堂に運び込んだが、そこで任務完了とはいかなかった。冷蔵庫に入れる物があったり、好き勝手に持って行かれないよう数を振り分けたりと、細かい仕事がかなりあった。

 さっそく仕事を押しつけようと、稲継先輩の召喚を試みたが、女神のカレー作りにちゃっかり参加していて失敗した。まあ、楽しそうにしていたので、邪魔するのも可哀想かなと慈悲を与えてやった訳だが、おかげで買い出しのアレコレで丸一日潰れてしまった。

 豪快な大きさで斬新な歯ごたえの野菜がゴロゴロ入った女神特製カレーを食って、行水のような風呂に入り、ようやく部屋に戻って来られた。

「セイシュン、寒いからコタツに入ってろ。湯冷めする」

 ちゃんと湯船に浸からないと、先輩とのエロイベントは発生しないんだなと痛感する瞬間。部屋に入るなり、言われるまでもなくコタツにダイブしてしまうので、文句は言えないんだけど、ちょっと寂しい。

「先輩も湯冷めするよ。早くこっち来て」

 布団の外に手だけを出して呼び寄せる。すると、何かを手に握らせてくれた。

「珍しくおかわりしなかっただろ。足りない分を用意してやるから、ちょっと待ってろ」

 先輩はオレに駄菓子を握らせ、ストックしてあったインスタントラーメンを準備し始めた。

 せっかく女神の手料理なので、稲っちに遠慮したのだ……包丁が見つからなかったのか、叩き折ったような人参と皮ごとのじゃがいも、そして丸ごとの玉葱を使ったカレーは、オレらが無理して食べずとも、惚れた女を前にした童貞が食らい尽くすだろう。

「一個もいらないから、先輩、半分こしよう」

 コタツが温まってきたので、今度は頭だけを出して提案する。すると、大盛りサイズの味噌ラーメンを見せてきたので、大きく頷いてOKを出す。
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