354 / 411
蜜月
大晦日の予定
しおりを挟む
オレも箸とかお茶の準備を手伝った方がいいかな。と、考えている内にコタツの上には、着々と準備が整えられていく。
「明日は絶対に山センとっ捕まえる」
山センに小吉さんの金を返すよう言ってやろうと思っていたのだが、ずっと食堂に居たせいで食事のタイミングが他の奴らより早くなってしまい、今日は果たせなかった。今からでも冷蔵庫に突撃すればいいのだろうが、風呂上がりの凍えた体でコタツに入ってしまったので、無理せず明日に延期する。
「ちゃんと穏便に話合い出来るか?」
お湯を入れて数分待つばかりとなったカップラーメンがやって来る。のそりと上半身を布団から出し、至れり尽くせりの席へつく。
「素直に金を渡せば穏便に済むかな」
先輩は『明日は俺が話そう』と考えていそうな顔で、割り箸を割った。漂ってくるいい匂いにオレも箸に手を伸ばす。三分は経っていないタイミングで、先輩はラーメンの蓋を開いた。
「明日は奉仕作業ないよな?」
麺をほぐすようにラーメンを混ぜながら、明日の予定を聞いてくる。今日の買い出しのような突発的な用事がなければ、明日は丸一日フリーなはず。ラーメンを見つめながら頷くと「先に食べていいぞ」とオレの前に置いてくれる。
「それなら、掃除をしてちゃんと風呂に入らないか?」
手を合わせて遠慮はせずに一口啜る。うん、美味しい。
「いいよ。今年最後の風呂をゆっくり浸かろう……じゃあなくて、今年最後の一発をやろうって意味?」
「お前はなんでそう……ん、違う」
「じゃあ、しないの?」
何故か呆れた顔をされたので、言葉を変えてもう一度聞くと、先輩は赤面しながらラーメンを啜り出した。コタツの中で太ももを突いてやれば、恨めしそうな視線を向けて来る。
「先輩がそんなに風呂好きだとは思わなかったんだよ。いいよ、じゃあまず『風呂掃除と入浴』ね」
「『じゃあまず』ってなんだ? 何か他に予定があるのか?」
オレの言葉に先輩が不思議そうな顔をする。
「ないよ。だから考えよう。せっかく一日中フリーなんだから、何かしたいじゃん」
完全な自由が約束された貴重な一日なのだ。何か面白可笑しい事をやりたい。
「あ、そうか……休みは明日だけじゃあないんだ」
何をしようか、とにかく候補を挙げようとして、オレは奉仕作業の再開が四日である事を思い出す。そして同時に『これしかない!』と一つのアイデアが閃いた。
「先輩、オレずっと出来なかったキャンプがしたい!」
夏休みからお預けを食らっているキャンプの存在を思い出したのだ。山センに奪われた道具一式は取り戻してある。これは行くしかないだろう。
「あぁ……キャンプな……んー」
それなのに先輩のテンションはかなり低かった。全力の困った顔で暫く呻った後「すまん」と何故か謝られてしまう。
「明日……だけじゃないな。冬休み中にキャンプは出来ないんだ」
また駄目なのか。先輩から言われてオレは思い出す。キャンプに行こうとした時、先輩がいなくなってしまうかもしれない恐怖に襲われた事を。
オレが嫌な記憶に意識を持っていかれていると、先輩が申し訳なさそうな声で続けた。
「俺が用意した道具な、あれ、全部夏用なんだ。今の時期にあれを使うと、寒いだけでキャンプどころじゃないと思う」
「……夏用? それだけ?」
疑いの眼差しでオレが確認すると、しょんぼりした先輩は頷いた。心底ほっとして、オレはコタツから這い出る。
部屋の隅のキャンプ道具が積み上げてある所に行き、一番上に置いてあったクッションとしても大活躍する寝袋を手に取り広げてみる。丸めてあると、そこそこの厚みがあるが、広げるとそのペラペラさ加減に驚き、先輩の言葉に納得した。
圏ガクで支給される布団はこの寝袋と同じくらいぺちゃんこな煎餅布団な訳だが、一応室内なのでコートを着れば眠れる。けれど、この薄さの寝床で寒空の下は、手持ちの服をどれだけ重ね着しても厳しいだろう。そんなキャンプはやはり楽しくない。
「あ…………外が駄目なら中でやればいいじゃん」
潔く諦め他の案を考えようとした寸前で、それは口から転がり出た。
「中でって、部屋の中でキャンプするのか?」
全力で首を縦に振り、湧き上がってくるイメージを言葉にしようと、部屋の中を歩きながら話す。
「うん。ここは狭いから無理だけど、隣の部屋なら広さも十分だろ。机とか片付けたらキャンプ道具広げられると思うんだ。たき火とかは無理だけどさ、雰囲気だけでもキャンプっつーか……キャンプごっこしよう」
なかなか良いアイデアだと思い先輩を見ると、ふにゃっと笑ってくれた。
「たき火の代わりに石油ストーブを借りてくるか」
「うん! オレ餅とか芋焼いてみたい!」
熟成されたキャンプしたい欲求が、ここぞとばかりに押し寄せ、色々と用意する物が増えてしまった。それらを一つ一つ書き出していると、明日が待ちきれなくなり、メモを眺めながら眠った。
「明日は絶対に山センとっ捕まえる」
山センに小吉さんの金を返すよう言ってやろうと思っていたのだが、ずっと食堂に居たせいで食事のタイミングが他の奴らより早くなってしまい、今日は果たせなかった。今からでも冷蔵庫に突撃すればいいのだろうが、風呂上がりの凍えた体でコタツに入ってしまったので、無理せず明日に延期する。
「ちゃんと穏便に話合い出来るか?」
お湯を入れて数分待つばかりとなったカップラーメンがやって来る。のそりと上半身を布団から出し、至れり尽くせりの席へつく。
「素直に金を渡せば穏便に済むかな」
先輩は『明日は俺が話そう』と考えていそうな顔で、割り箸を割った。漂ってくるいい匂いにオレも箸に手を伸ばす。三分は経っていないタイミングで、先輩はラーメンの蓋を開いた。
「明日は奉仕作業ないよな?」
麺をほぐすようにラーメンを混ぜながら、明日の予定を聞いてくる。今日の買い出しのような突発的な用事がなければ、明日は丸一日フリーなはず。ラーメンを見つめながら頷くと「先に食べていいぞ」とオレの前に置いてくれる。
「それなら、掃除をしてちゃんと風呂に入らないか?」
手を合わせて遠慮はせずに一口啜る。うん、美味しい。
「いいよ。今年最後の風呂をゆっくり浸かろう……じゃあなくて、今年最後の一発をやろうって意味?」
「お前はなんでそう……ん、違う」
「じゃあ、しないの?」
何故か呆れた顔をされたので、言葉を変えてもう一度聞くと、先輩は赤面しながらラーメンを啜り出した。コタツの中で太ももを突いてやれば、恨めしそうな視線を向けて来る。
「先輩がそんなに風呂好きだとは思わなかったんだよ。いいよ、じゃあまず『風呂掃除と入浴』ね」
「『じゃあまず』ってなんだ? 何か他に予定があるのか?」
オレの言葉に先輩が不思議そうな顔をする。
「ないよ。だから考えよう。せっかく一日中フリーなんだから、何かしたいじゃん」
完全な自由が約束された貴重な一日なのだ。何か面白可笑しい事をやりたい。
「あ、そうか……休みは明日だけじゃあないんだ」
何をしようか、とにかく候補を挙げようとして、オレは奉仕作業の再開が四日である事を思い出す。そして同時に『これしかない!』と一つのアイデアが閃いた。
「先輩、オレずっと出来なかったキャンプがしたい!」
夏休みからお預けを食らっているキャンプの存在を思い出したのだ。山センに奪われた道具一式は取り戻してある。これは行くしかないだろう。
「あぁ……キャンプな……んー」
それなのに先輩のテンションはかなり低かった。全力の困った顔で暫く呻った後「すまん」と何故か謝られてしまう。
「明日……だけじゃないな。冬休み中にキャンプは出来ないんだ」
また駄目なのか。先輩から言われてオレは思い出す。キャンプに行こうとした時、先輩がいなくなってしまうかもしれない恐怖に襲われた事を。
オレが嫌な記憶に意識を持っていかれていると、先輩が申し訳なさそうな声で続けた。
「俺が用意した道具な、あれ、全部夏用なんだ。今の時期にあれを使うと、寒いだけでキャンプどころじゃないと思う」
「……夏用? それだけ?」
疑いの眼差しでオレが確認すると、しょんぼりした先輩は頷いた。心底ほっとして、オレはコタツから這い出る。
部屋の隅のキャンプ道具が積み上げてある所に行き、一番上に置いてあったクッションとしても大活躍する寝袋を手に取り広げてみる。丸めてあると、そこそこの厚みがあるが、広げるとそのペラペラさ加減に驚き、先輩の言葉に納得した。
圏ガクで支給される布団はこの寝袋と同じくらいぺちゃんこな煎餅布団な訳だが、一応室内なのでコートを着れば眠れる。けれど、この薄さの寝床で寒空の下は、手持ちの服をどれだけ重ね着しても厳しいだろう。そんなキャンプはやはり楽しくない。
「あ…………外が駄目なら中でやればいいじゃん」
潔く諦め他の案を考えようとした寸前で、それは口から転がり出た。
「中でって、部屋の中でキャンプするのか?」
全力で首を縦に振り、湧き上がってくるイメージを言葉にしようと、部屋の中を歩きながら話す。
「うん。ここは狭いから無理だけど、隣の部屋なら広さも十分だろ。机とか片付けたらキャンプ道具広げられると思うんだ。たき火とかは無理だけどさ、雰囲気だけでもキャンプっつーか……キャンプごっこしよう」
なかなか良いアイデアだと思い先輩を見ると、ふにゃっと笑ってくれた。
「たき火の代わりに石油ストーブを借りてくるか」
「うん! オレ餅とか芋焼いてみたい!」
熟成されたキャンプしたい欲求が、ここぞとばかりに押し寄せ、色々と用意する物が増えてしまった。それらを一つ一つ書き出していると、明日が待ちきれなくなり、メモを眺めながら眠った。
10
あなたにおすすめの小説
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※この物語はフィクションです。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
狂わせたのは君なのに
一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる