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蜜月
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「んぅ、っちょっと待って、待てって。マジで小吉さんとか来そうだから、せめてあっちでしよう」
理性をフル稼働させ、先輩と絡んでいた舌を引き離し、鍵のかかる隣の部屋を指さし全力で提案してみた。この教室も内側から鍵をかける事は出来るのだが、その扉に中を覗ける窓が付いており、その先にキャンプ場を設置してしまったので、もれなく丸見えになってしまうのだ。
「大丈夫だ」
扉を一瞥し、焦るオレとは対照的に冷静な先輩は、独り言のように呟くと、おもむろに服を脱ぎだした。
ランタンの頼りない灯りの元、先輩の上半身が露わになる。痛々しい傷痕に影が落ち、堪らなくそそる体が目の前にあった。
ストーブの火が、オレの理性も簡単に燃やしてしまう。さっきまであった焦りが消え、先輩の味を思い出して口の中に唾が溜まる。
先輩の指が触れた肌、そこに残るじれったさを服ごと掴む。すぐにでも脱がされると思ったのに、先輩はジッとオレを見つめて動かない。その目に探りを入れると、分かりやすい欲情が煮えくり返っているのが見えた。
「先輩……しないの?」
焦れったさごと自分で服を脱ぎ捨てたい衝動を抑え、誘うように呟いてみる。甘ったるい響きに自分でも反吐が出るが、オレも多少は学んだのだ。勢いに任せてがっつくより、先輩はこういう、ちょっと引き気味なのが好きだという事を。
「……すまん」
先輩好みに誘ってやったのに、返ってきた言葉に愕然とする。見れば先輩の燃え上がっていたヤル気は、水でもぶっかけられたのか見事に消火されていた。
申し訳なさそうな、辛そうな顔が、オレを見下ろす。
「あっちの部屋でヤル気になった?」
雲行きの怪しさにオレは内心焦りつつ体を起こした。さっきまでは、今にものし掛かってきそうな勢いだったのに、先輩がオレから離れようとしたからだ。
「ごめん、オレ、なんか萎えるような事言った?」
先輩の好みを誤解していたのかと慌ててフォローしてみるが、先輩は小さく首を振り「違う、お前は悪くない」と無理矢理に笑って見せた。戸惑うオレを置き去りに、先輩はこちらに背中を見せ、脱ぎ捨てた服を拾い、怒っているのか少し乱暴にそれを着てしまった。
目の前に出されたご馳走をサッと引っ込められたら黙っていられまい。オレは先輩の好みなどクソ食らえと、服と一緒にしおらしさを床に投げ捨てた。
先輩の腕を強めに引っぱり、こちらを向かせると、眉間に皺など寄せて面白くない顔が貼り付いていたので、プロレスの技でもかけるような勢いで口に食らいついてやった。ガツンと歯が思い切り当たって、唇が切れ血が滲む。
不意打ちは成功したらしく、先輩の険しい表情は驚きで掻き消されていた。舌先で鉄の味を拭い、今度はゆっくりと先輩のうなじに手を伸ばし、引き寄せた額を軽く吸う。すると観念したのか、強ばっていた先輩の体から力が抜け、オレの肩に寄りかかってきた。
「オレ何か変な事言った?」
自分の腕の中に大人しく居てくれるおかげで、こちらの焦りは消え、穏やかな声で聞けた。けれど、返ってきたのは「違う」と、今にも消え入りそうな声だった。
「……一瞬……セイシュンの『待て』って声が聞こえなかったんだ。いや、聞こえてたな。ん、俺はそれを聞き流したんだ」
先輩は自嘲気味な乾いた笑いを挟みながら、ぽつりぽつりと呟く。
「ここでヤリたいなら、それでもいいよ。誰か来たら……っ、確かに困るけど……矢野君たちなら、先輩が言えばお互いに殴り合って記憶消してくれそうだし」
懺悔のような場違いな雰囲気が気に入らず、オレは雑な感じで提案してやった。矢野君たちは、まあいいとして、小吉さんは山センが気を利かせて目と耳を塞いでくれる事を願うしかないが。
「お前の気持ちより自分の衝動に流されかけた。それが情けなくてな」
オレが山センを頼るという破滅的な思考に傾きかけていると、肩にあった重さがなくなり、クソ真面目な顔をした先輩と目が合った。
「オレも先輩と同じ気持ちだけど?」
行き場をなくした衝動をどうにかしろと、せがむように口を突き出すと、困った顔をした先輩が、まだ血の味のする唇にキスをしてくれる。切れた部分を舌でなぞられると、少しだけ痛みを感じた。
「俺は……お前が思ってくれてる程、まともじゃない。ん、そんな奴にお前を好き勝手させたくないんだ」
「本当はすげぇ変態なプレイをオレにさせたいけど我慢するって事?」
「変態なプレイって……お前どんな事を想像してるんだ……んーっとな、そういう意味じゃなくて、セイシュンの体を気遣えず無茶させちまうかもしれないって事なんだが」
ちょっと期待が声に出てしまったらしく、先輩に心底困惑した顔をさせてやったぜ、この野郎ッ!
「はぁ、何を言い出すかと思えば、しょーもない事ばっか考えやがって。先輩が少々がっついたってオレは大丈夫だし。ほら、さっきの続き、早くすんぞ」
付き合いきれず、オレはちゃっちゃと自分の服を全て脱ぎ捨て、先輩の服にも手を伸ばす。
「こら、いきなり脱ぐな。誰か来たらどうするんだ」
先輩は慌てて扉の方を見るが、今更何を言ってやがるって話だ。
理性をフル稼働させ、先輩と絡んでいた舌を引き離し、鍵のかかる隣の部屋を指さし全力で提案してみた。この教室も内側から鍵をかける事は出来るのだが、その扉に中を覗ける窓が付いており、その先にキャンプ場を設置してしまったので、もれなく丸見えになってしまうのだ。
「大丈夫だ」
扉を一瞥し、焦るオレとは対照的に冷静な先輩は、独り言のように呟くと、おもむろに服を脱ぎだした。
ランタンの頼りない灯りの元、先輩の上半身が露わになる。痛々しい傷痕に影が落ち、堪らなくそそる体が目の前にあった。
ストーブの火が、オレの理性も簡単に燃やしてしまう。さっきまであった焦りが消え、先輩の味を思い出して口の中に唾が溜まる。
先輩の指が触れた肌、そこに残るじれったさを服ごと掴む。すぐにでも脱がされると思ったのに、先輩はジッとオレを見つめて動かない。その目に探りを入れると、分かりやすい欲情が煮えくり返っているのが見えた。
「先輩……しないの?」
焦れったさごと自分で服を脱ぎ捨てたい衝動を抑え、誘うように呟いてみる。甘ったるい響きに自分でも反吐が出るが、オレも多少は学んだのだ。勢いに任せてがっつくより、先輩はこういう、ちょっと引き気味なのが好きだという事を。
「……すまん」
先輩好みに誘ってやったのに、返ってきた言葉に愕然とする。見れば先輩の燃え上がっていたヤル気は、水でもぶっかけられたのか見事に消火されていた。
申し訳なさそうな、辛そうな顔が、オレを見下ろす。
「あっちの部屋でヤル気になった?」
雲行きの怪しさにオレは内心焦りつつ体を起こした。さっきまでは、今にものし掛かってきそうな勢いだったのに、先輩がオレから離れようとしたからだ。
「ごめん、オレ、なんか萎えるような事言った?」
先輩の好みを誤解していたのかと慌ててフォローしてみるが、先輩は小さく首を振り「違う、お前は悪くない」と無理矢理に笑って見せた。戸惑うオレを置き去りに、先輩はこちらに背中を見せ、脱ぎ捨てた服を拾い、怒っているのか少し乱暴にそれを着てしまった。
目の前に出されたご馳走をサッと引っ込められたら黙っていられまい。オレは先輩の好みなどクソ食らえと、服と一緒にしおらしさを床に投げ捨てた。
先輩の腕を強めに引っぱり、こちらを向かせると、眉間に皺など寄せて面白くない顔が貼り付いていたので、プロレスの技でもかけるような勢いで口に食らいついてやった。ガツンと歯が思い切り当たって、唇が切れ血が滲む。
不意打ちは成功したらしく、先輩の険しい表情は驚きで掻き消されていた。舌先で鉄の味を拭い、今度はゆっくりと先輩のうなじに手を伸ばし、引き寄せた額を軽く吸う。すると観念したのか、強ばっていた先輩の体から力が抜け、オレの肩に寄りかかってきた。
「オレ何か変な事言った?」
自分の腕の中に大人しく居てくれるおかげで、こちらの焦りは消え、穏やかな声で聞けた。けれど、返ってきたのは「違う」と、今にも消え入りそうな声だった。
「……一瞬……セイシュンの『待て』って声が聞こえなかったんだ。いや、聞こえてたな。ん、俺はそれを聞き流したんだ」
先輩は自嘲気味な乾いた笑いを挟みながら、ぽつりぽつりと呟く。
「ここでヤリたいなら、それでもいいよ。誰か来たら……っ、確かに困るけど……矢野君たちなら、先輩が言えばお互いに殴り合って記憶消してくれそうだし」
懺悔のような場違いな雰囲気が気に入らず、オレは雑な感じで提案してやった。矢野君たちは、まあいいとして、小吉さんは山センが気を利かせて目と耳を塞いでくれる事を願うしかないが。
「お前の気持ちより自分の衝動に流されかけた。それが情けなくてな」
オレが山センを頼るという破滅的な思考に傾きかけていると、肩にあった重さがなくなり、クソ真面目な顔をした先輩と目が合った。
「オレも先輩と同じ気持ちだけど?」
行き場をなくした衝動をどうにかしろと、せがむように口を突き出すと、困った顔をした先輩が、まだ血の味のする唇にキスをしてくれる。切れた部分を舌でなぞられると、少しだけ痛みを感じた。
「俺は……お前が思ってくれてる程、まともじゃない。ん、そんな奴にお前を好き勝手させたくないんだ」
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「変態なプレイって……お前どんな事を想像してるんだ……んーっとな、そういう意味じゃなくて、セイシュンの体を気遣えず無茶させちまうかもしれないって事なんだが」
ちょっと期待が声に出てしまったらしく、先輩に心底困惑した顔をさせてやったぜ、この野郎ッ!
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