362 / 411
蜜月
先の話
しおりを挟む
先輩の煩悩がなくなったら、オレも困る。言葉にしなくても、目を見ると伝わっているのが分かった。ふにゃっとだらしなく笑う顔に、唇を突き出しせがむ。
すると応えてくれそうだった先輩が「あ」とまた小さく呟いて、顔を上げてしまった。
「今、年越したぞ」
そう言い、腕時計をこちらに向けて、新しい年が始まった事を教えてくれる。こういう時に何と言えばいいのか、すぐに思い浮かばず呆けていると、軽く口を吸われた。
「セイシュン……その、ん……」
先輩も同じように呆けているらしく、はっきりと言葉にしようとしないので、一足早く思い出したオレが先に言う事にした。
「先輩、今年もよろしく!」
先輩の顔がじわりと赤くなる。どうしたらいいのか分からないと言いたげな戸惑った表情が、オレの胸をギュッと鷲掴みにしてくる。
本当なら今すぐ押し倒して、オレの煩悩という煩悩を全て捧げてやりたい所だが、先輩が現実をちゃんと飲み込めるまで、大人しく待つ事にした。
「ん……よろしく頼む」
ぎこちなく返ってくる言葉。別に間違っている訳ではないが、これで良しとするには甘すぎる気がして、オレはこちらの反応を窺うような視線を向けてくる先輩に無反応を返す。
無言で『やり直し』を求められた先輩は、全力で困った顔を浮かべた。
「その……あれ、だ。ん、来年」
一生懸命に考えた末に出てきた言葉が『来年』とは、随分と気の早い奴だ。どうしてくれようと、オレが無表情のまま思案していると、先輩は緊張が解けたのか、いつものふにゃっと気の抜けた笑みを浮かべながら口を開いた。
「来年も、今日みたいにたくさん一緒に過ごそうな」
「……約束、できる?」
嬉しいはずの言葉なのに、素直に頷けず尋ねてしまう。この場所で来年は一緒に過ごせないからだ。さっきまであった先輩の反応を採点する余裕は消え、不安が自分の顔を曇らせているのが分かる。
来年、来年度と言わず、あと二ヶ月で先輩はここを出て行く。卒業を意識して、楽しい気分が萎んでオレは今にも消えてなくなりそうだった。
「ん、約束だ。来年のこの時間も、一緒にいよう。もっと近くで鐘の音を聞きに行ってもいいし、なんなら鐘を突いてもいい」
先輩と目が合う。優しい目を見ていると、オレを置いて卒業する薄情な奴には思えない。
「せんぱい……留年すんの?」
一縷の望みを託して尋ねてみると、いつも通り、でも痛みの全くないデコピンを頂戴する。
「留年はしない。俺がここに残るんじゃなくて、これからはお前がここを出るんだ」
脱走しろって事? 一人で山を下りられるか自信はないが、やらなければ先輩に会えないならやるしかない。
割と壮絶な決心をしていると、先輩はオレの心を読んだのか「そうじゃないぞ」と慌てて言った。
「来年から……いや、もう今年だな。今年の夏休みから、セイシュンも外に出られるようになる」
進級すると残留出来なくなるのか? いや、小吉さんたちは夏も冬も残ってるから残れなくはないのかな。学校を出てもいいと言われても、オレには帰る場所がない。先輩の言葉に不安ばかりが増す。
「二年や三年に残留してる奴は殆どいないだろ。希望すれば、今の俺みたいに残れるんだけどな。基本的には全員外に振り分けられるんだ」
外とは文字通り学校の外で、それは色々な場所にあるのだとか。圏ガクと協力関係にある(主にはOBのようだ)人が、残留する生徒を言い方は合っているか微妙だがホームステイさせてくれるらしい。
「やる事はここと一緒だから心配するな。今と違うのは、ある程度の自由があるって所だ。働いた分の報酬はちゃんと貰えるしな」
ホームステイというか、住み込みのアルバイトって感じか。
先輩がその通りだと大きく頷く。
「俺がお世話になってた所にお願いしておくから、他の所よりは自由が利くと思う」
「先輩は卒業したらそこに住むって事?」
いまいち理解出来なくて、自分でも首を傾げてしまう疑問を投げる。先輩は卒業後は警察学校に行くのだ。本が正しければ、全寮制なはず。
「いや、住むのはお前だ。俺はそこへお前に会いに行く」
先輩は本気の新年早々に暗い顔をしているオレへ言い聞かせるよう、目線を合わせて力強く言い切った。
外で過ごすイメージが全く思い浮かばないオレは、先輩の言葉を信じるより他なかった訳だが、不安は力業で拭われた。
これ以上つまらない事を言うなと、強引に口を塞がれる。
目線を合わせたまま抱きついてきた先輩は、軽々とオレの足を浮かせ、人を勝手にストーブの前にある布団に運びやがった。
「セイシュン……そんな顔するな」
一瞬、口が離れた隙に先輩が呟いた。ぐっと体重を乗せられ、有無を言わさず押し倒される。躊躇無く先輩の手が服の中に突っ込まれて、さすがに驚き声が出た。
「先輩、まさかここでヤルの?」
扉は閉まっているが、鍵はかかっていない。山センたちが気まぐれで乱入してくる可能性も低くない……てか、普通に新年の挨拶とか言ってノックもなく入って来そう!
制止のつもりで言ったのだが、先輩は僅かに口端を持ち上げ、何も言わず舌を絡ませてきた。こっちの理性をオフにするスイッチを容赦なく押してくる。
すると応えてくれそうだった先輩が「あ」とまた小さく呟いて、顔を上げてしまった。
「今、年越したぞ」
そう言い、腕時計をこちらに向けて、新しい年が始まった事を教えてくれる。こういう時に何と言えばいいのか、すぐに思い浮かばず呆けていると、軽く口を吸われた。
「セイシュン……その、ん……」
先輩も同じように呆けているらしく、はっきりと言葉にしようとしないので、一足早く思い出したオレが先に言う事にした。
「先輩、今年もよろしく!」
先輩の顔がじわりと赤くなる。どうしたらいいのか分からないと言いたげな戸惑った表情が、オレの胸をギュッと鷲掴みにしてくる。
本当なら今すぐ押し倒して、オレの煩悩という煩悩を全て捧げてやりたい所だが、先輩が現実をちゃんと飲み込めるまで、大人しく待つ事にした。
「ん……よろしく頼む」
ぎこちなく返ってくる言葉。別に間違っている訳ではないが、これで良しとするには甘すぎる気がして、オレはこちらの反応を窺うような視線を向けてくる先輩に無反応を返す。
無言で『やり直し』を求められた先輩は、全力で困った顔を浮かべた。
「その……あれ、だ。ん、来年」
一生懸命に考えた末に出てきた言葉が『来年』とは、随分と気の早い奴だ。どうしてくれようと、オレが無表情のまま思案していると、先輩は緊張が解けたのか、いつものふにゃっと気の抜けた笑みを浮かべながら口を開いた。
「来年も、今日みたいにたくさん一緒に過ごそうな」
「……約束、できる?」
嬉しいはずの言葉なのに、素直に頷けず尋ねてしまう。この場所で来年は一緒に過ごせないからだ。さっきまであった先輩の反応を採点する余裕は消え、不安が自分の顔を曇らせているのが分かる。
来年、来年度と言わず、あと二ヶ月で先輩はここを出て行く。卒業を意識して、楽しい気分が萎んでオレは今にも消えてなくなりそうだった。
「ん、約束だ。来年のこの時間も、一緒にいよう。もっと近くで鐘の音を聞きに行ってもいいし、なんなら鐘を突いてもいい」
先輩と目が合う。優しい目を見ていると、オレを置いて卒業する薄情な奴には思えない。
「せんぱい……留年すんの?」
一縷の望みを託して尋ねてみると、いつも通り、でも痛みの全くないデコピンを頂戴する。
「留年はしない。俺がここに残るんじゃなくて、これからはお前がここを出るんだ」
脱走しろって事? 一人で山を下りられるか自信はないが、やらなければ先輩に会えないならやるしかない。
割と壮絶な決心をしていると、先輩はオレの心を読んだのか「そうじゃないぞ」と慌てて言った。
「来年から……いや、もう今年だな。今年の夏休みから、セイシュンも外に出られるようになる」
進級すると残留出来なくなるのか? いや、小吉さんたちは夏も冬も残ってるから残れなくはないのかな。学校を出てもいいと言われても、オレには帰る場所がない。先輩の言葉に不安ばかりが増す。
「二年や三年に残留してる奴は殆どいないだろ。希望すれば、今の俺みたいに残れるんだけどな。基本的には全員外に振り分けられるんだ」
外とは文字通り学校の外で、それは色々な場所にあるのだとか。圏ガクと協力関係にある(主にはOBのようだ)人が、残留する生徒を言い方は合っているか微妙だがホームステイさせてくれるらしい。
「やる事はここと一緒だから心配するな。今と違うのは、ある程度の自由があるって所だ。働いた分の報酬はちゃんと貰えるしな」
ホームステイというか、住み込みのアルバイトって感じか。
先輩がその通りだと大きく頷く。
「俺がお世話になってた所にお願いしておくから、他の所よりは自由が利くと思う」
「先輩は卒業したらそこに住むって事?」
いまいち理解出来なくて、自分でも首を傾げてしまう疑問を投げる。先輩は卒業後は警察学校に行くのだ。本が正しければ、全寮制なはず。
「いや、住むのはお前だ。俺はそこへお前に会いに行く」
先輩は本気の新年早々に暗い顔をしているオレへ言い聞かせるよう、目線を合わせて力強く言い切った。
外で過ごすイメージが全く思い浮かばないオレは、先輩の言葉を信じるより他なかった訳だが、不安は力業で拭われた。
これ以上つまらない事を言うなと、強引に口を塞がれる。
目線を合わせたまま抱きついてきた先輩は、軽々とオレの足を浮かせ、人を勝手にストーブの前にある布団に運びやがった。
「セイシュン……そんな顔するな」
一瞬、口が離れた隙に先輩が呟いた。ぐっと体重を乗せられ、有無を言わさず押し倒される。躊躇無く先輩の手が服の中に突っ込まれて、さすがに驚き声が出た。
「先輩、まさかここでヤルの?」
扉は閉まっているが、鍵はかかっていない。山センたちが気まぐれで乱入してくる可能性も低くない……てか、普通に新年の挨拶とか言ってノックもなく入って来そう!
制止のつもりで言ったのだが、先輩は僅かに口端を持ち上げ、何も言わず舌を絡ませてきた。こっちの理性をオフにするスイッチを容赦なく押してくる。
10
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※この物語はフィクションです。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる